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没落令嬢の悪党賛歌  作者: もちもち物質
第一章:裏世界より
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4話「身包みを剥ぎますわよ!」

 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。私は今、山賊共を引き連れて、山賊稼業に精を出しておりますの。

 狩りは貴族の嗜みですわ。そしてやってみて分かった事ですけれど、どうやら獣を狩るのも人間を狩るのも大した違いは無いようですわね。つまり山賊家業も貴族の嗜みですわ。証明完了でしてよ。おほほほほ。


「さあさあさあさあ!命が惜しければ金目の物を置いていくことね!」

「な、なんだこの女は!おい、護衛!」

「駄目だ!もうやられてる!逃げろ!」

 ……私、分かったことがございます。

 護衛を付けなければならない程度の雑魚貴族って、非常に具合のよろしいカモですわね。

 私ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアはフォルテシア家の『護衛を雇う金が勿体ない』という教育方針により、そこらの日雇い護衛連中よりは余程優れた武芸を身に着けておりますの。

 そんな私の目から見れば、自分の身を守ることもできないような貴族のお坊ちゃまお嬢ちゃまというものはまあ、最高のカモですわね。


「い、いやぁー!助けて!」

「あら、馬車の中に女が居ましたわ。早速身包みを剥ぎますわよ!」

 奴隷市にでも連れていけば男も女もぼちぼちの値段で売れるでしょうが、今はその伝手がありません。だから身軽にいくなら、男も女も身包み剥いだら街道で放置。それが一番ですわね。

「ひ、ひどい……どうして、どうしてこんなことするの……?」

 身包み剥ぐ途中で貴族のお嬢ちゃまがそんなこと言ってますけど。まあ正直、自分の準備不足と慢心を嘆いていただくしかないわね。もっとまともな護衛を雇うか、自分を鍛えるかなさればよろしいんじゃないかしら。

「貴女も貴族なら、領民から税金搾り上げて豪遊する場合、ヘマした途端に自分が搾り上げられて豪遊されるという覚悟をお持ちなさい。或いはそうされないように万全の対策を怠らないようになさいね」

「な、何言ってるのよ!大体あなた誰!?この……」

 そこで貴族のお嬢ちゃんははっとした顔をしました。

「あ、あなた!その声!フォルテシアの家のヴァイオリアじゃない!」


「あら失礼。あなた、どちら様?」

 声で正体がバレてしまったようですけれど、生憎、私の方はこのお嬢ちゃんに覚えがありませんわね。役に立ちそうな貴族はともかく、弱小貴族なんていちいち覚えていたらキリがありませんのよ。

「わ、私!私よ!学院で一緒だった……!」

「ああ、思い出しましたわ。『フォルテシアは所詮成り上がりの下品な豚の集まり』と罵りながら私の教科書に水をぶちまけてくださったご令嬢ね」

 でも必死になっている表情を見たら思い出しましたわ。尤も、相手はこれは思い出されたくなかったかもしれませんけれど。

「よかったわね。今度はあなたが下品な豚になる番ですわよ!」

 私の正体がバレてしまったなら放置という訳にはいきませんわね。さっさと身包み剥ぎますわ。アクセサリーを集めていけばかなりの金になることでしょう。

「そして野郎共!この女はあなた達にくれてやりますわ!好きにしてよくってよ!」

「やったぜ!久しぶりの新鮮な女だ!」

「流石お頭!話が分かる!」

「分かりすぎてちょっと怖いんだよなあ……」

 令嬢はさっさと手下の山賊共に渡してしまいます。悪いけれど、ここで帰したら間違いなく私の目撃情報として城に話が行きますからね。私に気づいてしまって、更に私に気づいたことを私に気づかれてしまった自分を反省なさい。




 ということで、私は目的だった護衛の身包みを剥ぎます。

 やはり、護衛の職でやっている分、いい装備持ってますわね。金目の物はあまり持ってませんけれど、装備はありがたいですわ。

 何といっても私、城の兵士の装備でしたもの。パッと見てすぐに不審がられる装備よりは、量産品でもなんでも、きちんとした鎧兜と武器があった方がよろしくてよ。

「あら!これは中々いい弓ですわね!私好みの造りだわ!これ、頂きますけれどよろしいかしら?」

「ああ。お頭の好きな奴持ってってくれ!俺達はおこぼれに与れるだけで十分でさあ!」

「お頭が来てからほんの数日で随分潤ってるからなあ……!」

「強くて美しくて話が分かる!いやあお頭!最高だぜ!」

「そのお頭に俺達いっぺん殺されかけてるんだけどな?」

 山賊達もすっかり私に傅くようになりました。こうした手下を引き連れるためには、こちらの強さを証明して立場を分からせてやってから、こうして餌を与えてやるだけでいいのですから簡単なものですわね。あとは明確な利害の一致があれば、私は私の有用性を証明し続けるだけで済みますの。

 私は存分に装備を整えながら、先程の貴族の令嬢の鞄から手に入れた金貨を数えつつ、順調に事が進んでいることに笑顔を浮かべました。




「さあ、野郎共!食事ですわよ!存分におあがりなさい!」

 私は山で狩ってきた鹿を捌いて焚火で焼き上げました。山賊の真似事をするようになってから、食事はこのように獣の肉で大部分を賄っております。

 山賊達が木の実をとってきたり、はたまたカモから食料も手に入ったりしますけれど、やっぱり食事の根幹は肉ですわね。

 早速、手に入れたばかりの弓が役立ちましたわね。これがあれば私、鹿や猪、熊程度なら無傷で仕留められますわ。これでもう、食料のための狩りには困りませんわね。

「お頭、初日からほとんど肉の丸焼きしか作ってねえんだよなあ……」

「い、いや、たまに野草のソテーとか作るだろ」

「ま、まあ、食えるだけいいだろ」

「肉うまい」

 山賊からの評価も上々ですわね。私、ますます人望を集めてしまいましてよ。


「お頭!山の上の方から魔獣が!」

「あら。なら殺しておくわね」

 ……と思ったら更に人望を集めてしまうわね。逃げてきた山賊を追いかけてやってきた魔物……キラーグリズリーかしら。それともサケニクワレベアーかしら。区別はつきませんけれど、とりあえず熊型の魔物に向かって矢を放ちます。

 矢は熊型魔物のドタマをぶち抜いたのですが、それでも熊型魔物は止まりません。やっぱり魔物って恐ろしいわね。とても生物には思えなくってよ。まあこれでも生物なんでしょうけれど。

「ならば仕方ありませんわね」

 私はもう一本矢を抜くと、その矢尻に指を滑らせました。切れた指先から血が滲んで矢尻を染めます。

 その矢を弓につがえて、発射。

 今度は魔物の目玉をぶち抜きましたわ。我ながら素晴らしい弓の腕ですわね。

 ……そして、魔物はその場でビクンと痙攣して、そのまま地に倒れ伏しました。


「すげえやお頭!今のは一体!?」

「ご存じないの?血は魔法を強化する最も原始的な道具の1つでしてよ?」

 そう言いつつ私は早速、魔物から毛皮を剥ぎ取りにかかります。学院にいる間は休日の趣味といえば、専ら魔法の練習か狩りかのどちらかですわ。毛皮を剥ぐのは慣れています。それほど時間はかからなくってよ。

「お頭!手伝いますぜ!」

「人の獲物に触るんじゃありませんわ」

 寄ってきた山賊に裏拳をぶち込んで追い払います。こいつら、最近はすっかり私に懐いてしまって、私の手伝いを率先して行おうとしますの。でも、私が狩った魔物に触れようなんて、100年早いんですわ!

「これは私の獲物よ!あなた達はそちらで鹿肉をかっ食らってらっしゃいな」

「わ、分かりました!」

 無事、山賊共を追っ払って、私は上機嫌で魔物の毛皮を剥ぎ取りにかかります。状態が良いと皮を剥ぐのも楽しいですわね!これらは一体いくらで売れるかしら!楽しみですわ!




 ……そうして山賊稼業を10日もやった頃のことですわ。

 少し、面白いものを持った戦士達が、私達の縄張りに入り込んできたのですわ。




「まあ他愛ないですわね」

 丁度、鹿を仕留めるために弓矢を持っていたところでしたの。初撃で敵の1人の脚を撃ち抜いて無力化。後はこちらに気づいた他数名に対して、槍と魔法で応戦。まあ、いつもよりは流石に苦戦させられたけれど、他愛ない、という程度ですわね。

「お、お頭!こいつら冒険者なんじゃないのか!?」

「かもしれませんわね。……ええと、ギルド証は、と……」

 気絶させた戦士達の懐や鞄を漁れば、ギルド証が出てきました。どうやらこいつら、冒険者ギルドの連中のようですわね。

「ランクは3、と。……まあ、中堅どころ、ということかしら?」

 冒険者ギルドでは、冒険者の功績によってランク付けがなされますの。一番下が5ですから、ランク3のこいつらは中堅どころ、というところでしょうね。その割に短慮だったように見えますけれど、まあこんなものかしら。

「……お、お頭!これ見て下せえ!」

 他の冒険者の懐を漁っていた山賊が、紙切れ1枚を持って私の所にやってきましたわ。私はすぐに紙を受け取って……。

「……あら」

 思わず、笑ってしまいましたわ!

 だってそこに書いてあったものは、この冒険者達が受けたであろう依頼。その内容は……『最近、急に力をつけ始めた山賊達の討伐』だったんですのよ!




「ということで私、冒険者ギルドに行きますわ」

「待って下せえ、お頭!するってえと、出頭するってことですかい!?」

「おほほほほ!私がそんな馬鹿なことするように見えまして!?」

 純朴で愚鈍な山賊ですが、可愛い手下ですもの。教えてやることにいたしましょう。

「この手配書には私の名前はありませんわね。つまり、ここで私が山賊をやっているなんてことは誰にも知られていない、ということですわ。そこで私、『山賊を退治した』ということにしますの。適当にそこらへんで首1つ調達していけば間に合うでしょうね。あとはまあ、襲った貴族から頂いた宝飾品でもつければ、信用待ったなしですわ」

 要は、誰も山賊の実態を知らないのなら、襲った貴族カモの持ち物いくらかと無関係の誰かの首1つで十分、依頼達成の証拠になるということですの。

「ここでランク3の冒険者共をぶちのめしていますから、この案件はもう数日もすれば、ランク3の冒険者が失敗した……つまり、ランク2以上のものと判断されるでしょう。そこで私がこれらを持っていけば、登録してすぐランク2も夢じゃありませんわね!」

『とても難しい』とされる依頼を達成すれば褒賞金もガッポリ。そしてギルドのランクが手に入れば、私の身分も手に入りますわ。

 ギルドに登録してすぐ適当な依頼を受けて町を出ておけば、そうそう私がヴァイオリア・ニコ・フォルテシアだとバレることもないでしょうね!

 問題は、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアの手配書がギルドに回っている場合、ですけど……それはまあ、何とかなりますわね。

 多少の危険を冒してでも自分が置かれている状況を把握できた方がいいですし、多少の危険より大金の可能性の方が大切ですわ!




「そうかい。お頭、行っちまうのか……寂しくなるな……」

「静かになるな……」

「お頭ぁ……」

「勘違いしないで頂戴!あなた達とここしばらく一緒に居たのは、効率よく稼ぎながら潜伏するためでしたのよ!」

 山賊達はしょんぼりしていますが、まあ、仕方のないことですわね。私が居れば貴族をカモにできますし、そうすれば稼ぎの効率が段違いですわ。

 そして何より、強く美しい私と共に居られないということは当然、残念なのでしょうけれど!

「まあ、あなた達も元気でおやりなさいな。そうね、あなた達も悪党なら、縁があれば会うこともあるでしょうからね」

 こいつらは所詮、ゴロツキですわ。しかし、ゴロツキにはゴロツキなりの役割があるものですわ。

 私がもし今後、ゴロツキを必要とすることがあれば、こいつらを使ってやることもやぶさかではありませんわ。


「お頭……!」

「お頭も、どうぞ、お元気で……!」

「まあ、もうしばらくはここで待ちますけれど」

 感動の別れ!みたいな台詞を吐き出していた山賊達はいきなりびっくりした顔になりましたけれど、こいつら馬鹿なんですの?

「ランク3の冒険者がここで野垂れ死んだということが、ギルドにも伝わらなければなりませんわ。そこらへん分かってますの?」

「え、いや……」

「……ってことはあと数日は……?」


「ここに居ますわよ!」

 ……なんでかしら。

 私がそう言ってやったら、山賊共、ほっとしたような、残念がってるような、微妙な顔をしやがりましてよ……?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 長年彷徨ってやっと…やっと本当の悪役令嬢を見つけた。 容赦のなさも非常に素晴らしい。 やっぱり文章力ある人は現地主人公の方が寧ろ上手く描けるんですね
[一言] 「わかりすぎてちょっと怖いんだよなぁ…」で爆笑しちゃった
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