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後奏2「力こそパワーですわ!」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 私は今、腕相撲大会の真っただ中ですわッ!


 ……きっかけは、まあ、いつも通り、ですわ。

 敵対勢力を盛大に潰したので、そのまま敵のアジトでお祝いの最中でしたの。それで、酒の肴のちょっとした武術談義から……でしたわね。

 私、リタルに聞かれたんですのよ。『ヴァイオリア様は女性の御身でありながら、どうしてそんなにお強いんですか』って。

 なので私、『純粋な力ではなく、身体強化の魔法と技術で戦っておりますのよ』と答えましたわ。

 ええ。実際のところ、そうなんですの。勿論、いざ戦うとなったら純粋な筋力は大切ですわね。けれど、それだけじゃあただの獣と変わりなくってよ。人間である私達には、身体強化の魔法がございますもの。それを使わない手はございませんわね。

 それに、どんなに力があったって、技術が無ければ負けますわ。逆に、技術さえあれば、純粋な力など、簡単にねじ伏せることができますのよ。小さな視点で言えば、戦っている最中その時その時の判断、攻撃の受け流し方、相手の不意の突き方……そういったところですし、大きな視点で言えば、戦うまでの準備も全て含めての戦い、ですわね。

 まあ、そういうわけで、私が強い理由は『そもそも戦いには純粋な筋力以外のものも影響するから』というただそれだけにつきますわねえ。男も女も関係ありませんわ。男でも女でも殺せば死にますのよ!

 ……と、そういう話をしたところ。

 チェスタが、言い始めましたのよ。

『じゃあお前、単なる力だけだと弱ぇの?』と。




「勝ちましたわ!勝ちましたわよ!」

「うっそだろ、おい。俺負けたんだけど」

「身体強化の魔法が無くたって、酔っぱらいのヘロヘロ腕力に負ける私じゃーございませんわァーッ!おーほほほほほ!」

 はい。ということで私、チェスタに腕相撲で勝ちましたわ。当然余裕の勝利ですわ。だってチェスタ、大分飲んだくれてへべれけへろへろなんですもの。全然、腕に力が入ってなくてよ!

「マジかぁー……ちょっと風に当たってくる」

 チェスタはさっきまで私と競り合っていた腕をへろへろ振りながら、部屋を出ていきましたわ。あらあら、負けたのがそんなにショックでしたの?

「……酔いが醒めたらもう一戦な?な?いいよな?」

「はいはい、分かりましたわよ」

 ……珍しくも、じとっ、と私を見てくる目が、本気でしたわねえ。ええ、まあ、奴がそういう気ならもう一戦、お付き合いしてやってもよくってよ。

 本当なら、『勝ち逃げする』っていうのも負けない戦術の1つなのですけれど……ま、仕方ありませんわねえ。


「ふむ……成程な。おい、ジョヴァン」

 さて。私とチェスタが腕相撲するのを見ていたドランが、ふと、にやっと笑ってジョヴァンを呼びましたわねえ……。

「ヴァイオリアと対戦してみろ」

「へ?」

「はあ?ドランあなた正気ですの?」

 だって、ジョヴァンって。ジョヴァンって、この、骨ですわよ?恐らくこの中で最も、腕相撲ってものに対して相性が悪いであろうジョヴァン、ですわよ?

「そして俺はジョヴァンに賭ける」

 ……で、ドランは、テーブルの上にバラバラと金貨を落としましたわ。あらぁ……肝が据わってらっしゃいますこと!

「お前さん、そうやって金をドブに捨てるのやめなさいっての」

「へー、ドランがトチ狂ってるじゃん。おもしれー。じゃあ僕はヴァイオリアに賭けるよ」

「ぼ、僕もヴァイオリア様に賭けます!」

 ジョヴァンが呆れかえる横で、キーブとリタルはそれぞれ、お財布から金貨を出してテーブルに積みましたわ。あらあらあら……。

「なんですの?私とジョヴァンが対戦するのはもう決まりですの?」

「そうみたいね。はあやれやれ、俺、間違いなくこういうの、この中で一番不向きよ?」

「そうでしょうねえ……」

 やれやれ、と言いつつ、ジョヴァンが小テーブルの椅子によっこらしょ、と座りましたから、私もその向かいに座りますわよ。これでいつでも戦えますわ。

 ……と、そこで。

「クリス。お前はどうする」

 ドランが、部屋の隅っこで待機していたクリスにまで声を掛けましたわ。あらあら、ドランったら本当に興が乗ってますのねえ。

「……何故私に?」

「人数が多い方が盛り上がるだろう。それとも、戦力を見定める目に自信が無いか?」

 クリスは訝し気で不愉快そうな顔をしてましたけれど、ドランにそう煽られてまで黙っている性分でもありませんのよねえ。ええ、クリスったら奴隷になって今も尚、この中途半端なプライドを保ち続けていますのよ。全部折れてションボリされるより面白いですもの。実に主人思いな奴隷だと思いませんこと?

「……ジョヴァン・バストーリンに賭ける」

 けれどクリスのその決断には二重の意味で物申したいところですわねえ!

 え!?ジョヴァンですの!?あなたジョヴァンに賭けますの!?マジですの!?ドラン共々、頭おかしいんじゃありませんこと!?

「あのさ、クリス。お前、賭けるったって何賭けるの?首?」

「でも、クリス兄様の首も主人であるヴァイオリア様の持ち物ですから、クリス兄様の判断では賭けられないのでは……?」

 キーブとリタルが訝しんでますけど、まあ、ええ、そうですわね!クリスには賭けるものがございませんのよ!こいつ、奴隷ですもの!

「じゃあクリスは、俺が負けたらお嬢さんのいう事1つ聞くってことにしときましょ」

 あらあら。じゃあ私、ジョヴァンに勝ったらクリスにナメナメスライムの結晶を採取してくるように命じますわ。ナメナメスライムはその名の通り、人間の全身を這い回るのが趣味のスライムですわ。無毒無害ですけど、延々と這い回りますわ。けれど満足するまで這い回ったら、お礼に結晶を1つ落としていきますのよ。その結晶が魔法薬や魔法毒の原料になりますから、お金も武力も無い極貧冒険者が稼ぐ最後の手段の1つとして知られていますわ!




 ということで、私、ジョヴァンと腕相撲、したのですけど。

「嘘ですわァーッ!?私、私、ジョヴァンに負けますのーッ!?」

「そりゃ、男の沽券にかかわりますんでね」

 負けましたわ!まさかの、負け!ですわ!ありえなくってよ!なんでですの!?なんで骨に負けましたの!?この骨何かおかしいんじゃなくって!?

「納得いきませんわァーッ!ムキーッ!」

「純粋な筋力だけなら、まあ、俺の方が体はデカいしね」

 確かに私、身体強化の魔法を使いませんでしたけれど!でも、まさか!まさかジョヴァンとやり合って負けるとは思いませんでしたわよ!?

「はーやれやれ。これ、明日と明後日は筋肉痛よ、俺」

「あらそうですの?私はもう全回復しましたわ。ささ、もう一勝負!」

「カンベンして。ほら、貴女、次はキーブとおやんなさい。多分いい勝負だから」

「えっ僕!?」

 ……もう一度気合を入れ直してジョヴァンとやりますわよ、と思っていたのですけれど、ジョヴァンが降りてしまいましたから仕方ありませんわねえ。次はキーブと対戦しますわよ!




「勝ちましたわぁ……」

「う、嘘だろ……」

 ということで戦いましたわ。勝ちましたわ。キーブが悔しがってますわ!

「キーブは、ま、成長期だし。これからだろ。な、元気出せって!」

「うるさい」

 外から戻ってきたチェスタがキーブを慰めてますけど、キーブには鬱陶しがられてますわねえ。まあ、キーブとしては私に勝ちたかったのでしょうけれど。まだまだ私、キーブの細腕にまで負けるつもりはございませんわよ!

「……来年にはもう、勝てるようになってるから」

「そうですわねえ。あなたがこの調子で成長していったら、私、勝てなくなるんだと思いますわ」

 まあ、キーブは丁度、今が成長期なんだと思いますのよ。奴隷だった頃には栄養状態が悪くて成長できなかったものが、今になってメキメキと成長してきている、というか。

 だから多分、私、キーブに腕相撲で勝てなくなる日も、そう遠くないんだと思いますわ。だってジョヴァンにすら負けたんですもの。うう、ジョヴァンにすら……あ、これ、結構ショックだったみたいですわぁ……。

「ま、そんなにすぐ成長されても勿体なくってよ。ゆっくりなさいな」

「やだ。ゆっくりしない」

 キーブはむくれてますけど、そんなお顔も可愛くってよ!可愛いから撫でますわ!撫でますわ!思う存分撫でますわぁーっ!




 ということでキーブを散々撫で回したところで。

「じゃあ次はリタルかしら?」

「ぼ、僕ですか!?わ、分かりました。お相手致します!」

 キーブとやったなら次はリタルかしら、と思って呼んでみたら、リタルは緊張した様子でテーブルに着いて、『失礼します!』と礼儀正しく私の手を握って……。

「あっ、あっ、ヴァイオリア様の手だ……!」

 ……その時点で、なんだか赤くなってわたわたし始めましたのよねえ……。あの、大丈夫ですこと?これ、大丈夫……じゃありませんわねえ!

「あの、リタル?あなた、ぜんっぜん力が入ってませんけど……?」

「ご、ごめんなさい!棄権させてください!ごめんなさい!」

 そうしてリタルは慌てて逃げていきましたわ。あらまあ。

「……お前さ、手握っただけでコレなの?」

「あうううう……穴があったら入りたいです……」

 ……リタルって、本当に、その、大丈夫かしら……?女人の手を握るだけでこの照れ照れ具合なんですの?こいつ、今後人間の世で生きていけますの……?




「じゃ、ヴァイオリア!俺と勝負!な!な!いいよな!」

「ええ、よくってよ。全く仕方ありませんわねえ」

 さて。チェスタが戻ってきましたから、再戦、ですわね。まあ、流石に酔いが醒めたら勝てる気がしませんけれど。

「……って、あら?そっちで戦いますの?」

「おう。来いよ」

 と思ったら、チェスタは義手の方を出してきましたわねえ。ああー、これ、いよいよ勝てる気がしませんわぁ。

「じゃ、よーい……どん!」

「どん!じゃなくってよぉおお!」

 そして秒殺されましたわ。『どん!』とほぼ同時にテーブルに手ェついてましたわ!ありえなくってよ!ありえなくってよ!

「なんなんですのこの義手!」

「へっへっへ、最近リューゲルに頼んで、改造してもらったんだよ。だから、ま、こんなモンだよなァ?」

 勝てる気はしてませんでしたけれど!でも!なんか納得いきませんわァーッ!

「……というかあなた、義手使うんだったら酔いが醒めてなくても関係なかったんじゃなくってェ?」

「……酔っ払ってる時に義手使いたくねェんだよ、なんとなく」

 あら、そうですの?……こいつ、案外義理堅いんですのよねえ。リューゲル様にお伝えしたらきっとニッコリなさいますわね。今度お会いした時に教えてさしあげましょ。おほほ。




 さて……そんなところで、本日の大一番、ですわ。

「ドラン!俺と勝負だ!」

「ほう。いいぞ。やるか」

「やるやる!……へへへ、ちょっと楽しみにしてたんだぜ?」

 なんと!チェスタが義手でドランに挑むみたいですわねえ!これはちょっぴり楽しみですわ!

「私、3秒に賭けますわ!」

「あらお嬢さん優しいのね。俺は1秒に賭けるけど」

「僕、一瞬に賭ける」

「で、でしたら僕は、その、ええと……5秒で!」

 私達は好き勝手にベットしますわ!こういうのって、戦う側も楽しいですけど、観衆側も楽しいんですのよねえ……。

「……おめーら、さっきから何に賭けてンだよ」

「お前が何秒でやられるかの賭け。ってことで1秒でやられな」

「はあああ!?俺が勝ってやるからな!俺が勝ったらお前ら全員負けだからな!」

 チェスタが吠えていますけど、うーん、流石にドラン、ですわよ?ドランに勝てる奴……居ますの?

「……まあ、その心意気は買ってやろう」

 ドランは余裕の表情でテーブルに着いて、ぶっとい腕と大きな手を見せびらかすように、ひら、と手のひらを開いてみせましたわ。

「やるぞ」

 ……あっ。チェスタがビビッてますわぁ。




 そして、まあ、見えていた結果が出ましたわねえ。

「ほらやっぱ一瞬じゃん」

「そーね。一秒、って言い張る気力も起きないくらいの瞬殺だ、こりゃ」

 ……チェスタは一瞬でやられてましたわ。ええ。私がチェスタにやられたよりも素早い決着でしたわ。流石は人狼、ということかしらねえ。

「くっそ……今日新月だろ!?」

「まあ、新月でもこの程度の力はある、ということだ」

 ドランは笑ってワインのラッパ飲み、ですわぁ。勝利の美酒が美味しそうですわねえ……。

 ……なーんか、あのスカした顔が気に食わなくってよ!


 ということで!

「ドラン!私達と勝負ですわーッ!」

 私達5人!私とチェスタとジョヴァン、それにキーブとリタルを合わせて、ドランに挑みますわよ!審判はクリスですわ!

「……ねえヴァイオリア。なんか僕、勝てる気がしないんだけど」

「戦う前から気分で負けてはだめよ、キーブ」

「いや、こういうの気分とか関係ないだろ」

 そうかしら。案外、気迫で競り勝つことってあるのですけれど……まあ、何事もやってみなければ分かりませんものね!やりますわよ!勝ちますわよ!今度こそ!今度こそ!




「負けるとは思いませんでしたわ」

 ということで負けましたわ。ええ。流石に5人がかりで負けるとは思ってませんでしたわ。遺憾の意ですわ。

「まあ、多少は楽しめたか」

 ドランの余裕の表情が腹立ちますわァーッ!ムキーッ!なんなんですのこいつーッ!

「ま、純粋な力、って点だと、うちのドランが世界一だろうね」

「人狼だからな」

「ズルいよなあー、チクショー、俺もいい線行くと思ったんだぜ?」

 まあ、純粋な力で人間が人狼に勝つ、なんて驕りだったかしらね。純粋な力では絶対に勝てないからこそ、人間は人狼を恐れて人狼狩りの歴史が生まれたわけですし……。

 ……けれどそれも、『純粋な力で』というお話ですわ。


「ねえ、ドラン。やはり戦いというものは、全力をぶつけあってこそだと思いませんこと?」

 私、そこらへんのワインを一気に飲み干して、ドランへ手を差し出しましたわ。……しっかりと、身体強化の魔法を纏って、ね!

「……ああ、そう思う」

 ドランも、にやり、とそれはそれは嬉しそうな笑みを浮かべて、手を差し出してきましたわ。こちらもしっかり、身体強化の魔法を使って!

「さて。どこに賭ける?」

「僕、テーブルが壊れるに一票」

「そーね。俺もそう思うぜ」

 オーディエンスの呆れ混じりの賭けだって、称賛にしか聞こえませんわね!ということで!参りますわよーっ!




 ……そうして私達、大分遊んで、まあいいお時間になりましたからお開きにしましたわ。これより帰宅しますわ。

「敵のアジトでパーティーする利点ってここですわよねえ」

「片付け不要、というのは楽でいいな」

「片っ端からテーブル壊した連中が何か言ってるぜ、おい」

 ええ。そうなんですの。

 私とドランの身体強化版腕相撲に耐えられたテーブル、ありませんでしたのよ。一勝負ごとにテーブルが駄目になる始末だったものですから、ま、敵のアジトでやってよかった、というところかしらね。おほほほほ。

「片付けも燃やせばイッパツですもの。焚火も楽しくて一石二鳥ですわ」

 ついでに諸々の証拠や禍根を消すために、アジトには火を放って参りましたもの。ま、壊れたテーブルも一緒に燃えますから、後片付けは楽なんですのよねえ。

「……身体強化の魔法を使うと、お前と五分五分、か。もう少し鍛えなくてはな」

「あら。あなたが鍛える間に、私も鍛えますのよ?分かっておいでかしら?」

 勝負は、ドランと私とで五分五分、でしたわ。魔法の波を読み合って、読み切った方が勝ち、という勝負でしたから……力勝負だけで行くと、本当に互角、といったところね。私の魔法も上達したものですわぁ。嬉しくってよ!

「また敵のアジトを潰したら、腕相撲大会しましょうね!」

「ええー、俺はもうカンベンだけど」

「僕はまたやるから。次は勝つから」

「つ、次までに僕は戦えるように精神を整えておきます!」

 今日の勝負は中々楽しめましたもの!次回がまたあることを祈って、また明日からお仕事に励みますわ!


「ところでクリスってどんなもんなんだ?次はやろうぜ!」

「多分、ジョヴァン以上チェスタ以下、ですわねえ。賭けてもよくってよ」

 ……次回はクリスをナメナメスライムの群れに放り込めるように頑張りますわよ!

 それでは皆様、ごきげんよう!

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