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没落令嬢の悪党賛歌  作者: もちもち物質
第一章:裏世界より
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16話「閑古鳥ですわ!」

 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

 今私はチェスタの面倒を見ていますの。

「ひゃ……あ、ふへ……へへへ……」

 完っ全にイっちゃってますわ。

 それもそのはず。私が持ち帰ってきたワインで酒盛りと相成ったのですけれど、チェスタはここで薬中の本領発揮。薬をキメてワインを空けて、見事にガンギマリですわね。薬と酒のチャンポンはヤバいと教わらなかったのかしら?

「……すまないな。チェスタは酒が好きな割に酒に弱い」

「ワインよりヤクが問題だったと思いますわよ?」

 少なくとも、ワインを飲むなら薬はやらない。薬をやるならワインは飲まない。飲んだらやるな。キメたら飲むな。これ常識じゃなくって?


「チェスタに関しては薬も許してやってくれ。俺が言うのもおかしな話だが」

 ドランは随分チェスタを庇いますのね。

 ……何か理由がありそうですけれど。

「ねえ」

「そういえばお前も酒はいける口か。瓶2本分は空けただろう」

 チェスタについて聞こうと思ったら、あからさまに遮られましたわね。

 ……ま、いいですわ。話題を変えたいみたいですから、それに乗って差し上げましょう。

「全部合わせればそのくらいは空けましたわね、多分」

「そうか。なら俺はようやく、飲む仲間ができたってわけか」

「ああ、あなたも大分飲んでらしたわね」

 このアジトに来た初っ端から『お茶or酒』っていう中々キレてる質問してくださったものね。まあ、飲む奴なんだろうとは思ってましたわ。

「……というかあなた、まるで酔った様子が無いですけれど」

「はは。まさか。酔ってる。顔に出ないだけだ」

 あ。分かりましたわ。確かに酔ってるみたいですわね。笑ってますもの。

「あらそう。羨ましいですわねえ」

「羨ましい?そういうお前も顔に出ていないが」

 ドランが不思議そうに私を見て、首を傾げてますわね。……ああ、勘違いされてますわね、これ。

「ああ……ごめんなさいね。『羨ましい』のは『酔ってる』ことですの」

 私は私の言葉の意図を説明し直しますわ。

「私、お酒を頂いてもまるで酔わないんですのよ」


「酔わない?どういうことだ」

「どうもこうも、そのままですわ。飲むだけ飲んでも酔いませんの」

 真実をそのままお伝えしましたわ。聞かれたら答えるくらいのことはしてやってもよくってよ。

「そうか。酔わない、か……」

 ドランは少し考え込んで……それから、真剣な顔で、聞いてきました。

「……妙なことを聞くようだが、酔えない酒を飲む意味はあるのか?」

 あ、そこですの?

「周りが皆飲んでいるのに私1人だけ飲まずにいるのも無粋でしょう?」

 気になる箇所が絶対に違いましたけれど、まあいいですわ。ドランもこの顔で既に酔っ払い、ってことが分かりましたし。

 ……と、返答してから、私、気づきました。

 妙に気づかわし気に、労し気に、私を見ている目に。

「……いえ。違いますわね。私が飲みたいんですわ」

 なので私、訂正することにいたしますわ。

「酒で酔えなくても、場には酔えますのよ、私。それにお酒のお味は好きなんですの」

 これもちゃんと、真実ですわ。嘘を吐く意味がありませんもの。

「……そうか」

 ドランはにやり、と笑って、小さく息を吐きましたわ。多分、安堵、ですわね。

「なら今度、付き合ってもらおう。隠してある秘蔵の奴がある」

「あら。それは楽しみですわねえ。その時は是非、お相伴させてくださいな?」

 ……ま、いいですわ。美味しいお酒が飲めることは大歓迎ですもの。

 それに、ドラン・パルクという男はそれほど煩くない性質のようですし、ま、晩酌の場に居ても邪魔にはならなさそうですものね。




 ザーザーと水の音が奥の部屋から聞こえてきますわ。今は丁度、ジョヴァンがシャワールームを使っているところですのよ。

 あ、ちなみにここのシャワールーム、中々快適ですの。私も先に使わせて頂きましたけれど。

 なんと、貴族街用の水道管から水を引いていて、それを火の魔法をたっぷり刻んだパイプに通して温めて、それが出てくるようになっていますのよ。ちなみに排水は表の水路行きですわね。私の城を整備する時には同じ仕組みでやってやりますわ!

 ……ということで、まあ、今、この部屋に居る人間は私とドランだけ、ということになりますわ。意識がぶっ飛んでる薬中は人間に数えない者としますわ。

 そんな状況を確かめてから、ドランはそっと、私に手を伸ばしてきました。

「な、なんですの」

「いや……」

 ドランは私の腕に手を近づけて、私の反応を窺っているように見えますわね。これ、何の儀式ですこと?

「今は、払い除けないのか」

 あ。

 成程……ドランの意図が分かりましたわ。要は……屋敷での戦闘中、私が負傷した時にドランの手を振り払ったことについて、ですのね。

 まあ、よく見ていますこと。流石、この道のプロ、即ち『ヤバい奴』ですわね。

「私、戦闘後は触れられたくないの。特に、負傷した時は尚更ですわ」

「……そうか」

 ドランは何か納得のいかないような顔してますけど、ここで納得したら余計にヤバい奴ですわ。ま、ここはひとまず置いてきましょうか。




 さて。

 その日はしょうがないからアジトで寝ましたわ。

 このアジト、仮眠室が2つありますの。そのうちの1つを私が、もう1つをチェスタが使うことになりましたわね。というか仮眠室の1つはほとんど常時チェスタが占有しているみたいですけど。

「じゃ、俺は店に戻るんで、何かあったらドランに言ってね。こいつはソファの上に居るから」

 そしてジョヴァンは店に帰り、ドランは先程まで酒宴会場だった居間で寝るようですわね。

「……ドランの体じゃ、ソファからはみ出すんじゃなくって?」

 でもこの筋肉狼、タッパがありますからソファで寝るのは中々窮屈だと思いますのよ。

「かといって、お嬢さんをソファで寝かせるのは俺が許さないし。俺はチェスタをソファの上にぶん投げといてもいいって、思うんだけどね。……ま、ドランが聞かないから、もうほっとこうぜ」

「俺はどこでも眠れる。問題ない。ここはそれなりに快適だ」

「ムショの中に比べたら快適でしょうけどね」

 ……まあ、いいですわ。薬中がベッドを占領するのはアレですけど、ドランが決めたことなら私があれこれ言うべきでもなくってよ。

「では皆様方、おやすみなさいませ」

「ああ」

「はい、おやすみ」

 今はさっさと寝るに限りますわ。そして私は私の城を完成させるのですわ!




 翌朝から、私は自分の城づくりを始めましたわ。

 廃墟の中を掃除して、床材代わりの板を敷いて、その上には盗ってきた絨毯ですわ。深いワインレッドの絨毯で、縁に金刺繍が入れてありますの。一目見て気に入りましたわ。

 それから家具を出しては配置を変えて、ああでもないこうでもないと試行錯誤。

 ……そうする間に、何とか私好みの部屋が出来上がってよ。

「これでいいわ。ご苦労様」

「うーい。……ったく、随分こき使ってくれるじゃねーかよ、新入り」

「あら。どうせ暇だったのでしょう?」

 ちなみに、この作業にはチェスタを動員しましたわ。家具の配置換えなんて、流石に私1人ではできなくってよ。おほほほほほ。

「俺を働かせんのは高くつくぜ?」

「ワインで手を打ちませんこと?」

「あ、打つ。んだよ、まだ持ってんの?」

「ワインセラーの中身全部持ち帰ってきましたもの」

 本当にこいつ、酒好きですのね。ワインで簡単に釣れましてよ。今後もワインセラーがある屋敷に盗みに入る時は酒を盗んでくるとチェスタの餌が手に入ってよろしいわね。

「へー。じゃあこの部屋にワインセラー作ろうぜ。俺、時々飲みに来るから」

「まあ、よくってよ。じゃあついでにもう2部屋分ほど、お手伝い頂けますこと?」

「はあ?2部屋?なんで増えたんだよ」

「酔いつぶれたあなたを転がしておくための部屋でしてよ!さあさあ、酔い潰れた後に下水道に放り込まれたくなければキビキビ働くのですわっ!」

 ……その後も、面倒くさがるチェスタをビシビシこき使って、私は無事、3部屋程度整備を行いましてよ。地下に作った仮住まいの割には、中々豪華な城になりましたわ!私、大満足ですの!おほほほほほ!




 結局夕方までチェスタを働かせた後、疲れてぐったりしたチェスタを台車に乗せて転がしつつ、アジトへ戻りますわ。

 ところで私、地上には任務の時以外は当面出られませんから、時間の感覚が早速狂ってきていますわ。時計も盗んできたものがあるから時間は分かりますけれど、健康に害がありそうでしてよ。

「さて。次の任務は何かしら。わくわくしますわね!」

 でも、まあ仕方ありませんわ。私の身の安全のためですし、それ以上にこの生活は絶対楽しい奴ですわ。任務をこなして、ガッポリ稼ぐ!最高ですもの!時間の感覚とかもうどうでもいいですわ!

 ……と思っていたら。

「あー、新しいのは無いかもな」

 チェスタが、そう言いましたわ。

「……え?」

 え……?




「任務か。まあ、当分は無いだろうな」

「えええええええええ!?なんでですの!?」

「いや、お嬢さん。普通に考えて。そんなにバンバン任務が入るわけないでしょうが。貴族いなくなっちゃうでしょ」

「居なくなればいいのですわ!貴族なんて居なくなればいいのですわ!」

 ここに居ればバンバン貴族の暗殺依頼が舞い込むと思いましたのに、まさか閑古鳥なんて!がっかりですわ!

「これならギルドで魔物狩りをしていた方が儲かりますわね……あ、いっそここでも魔物狩りすればいいのですわね!あなた達も暇な時は魔物狩りをすればいいのですわ!」

「お嬢さんの頻度であれだけの大物狩れる奴ばっかりだと思わないでちょーだいね。チマチマ小物狩ってても割に合わないの」

「だったら大物を狙えばよくってよ!私ならそれができますわ!あああああ、考えると血が騒ぎますわね!戦いたい!戦いたいですわ!」

「大体お前、隠れてなきゃやばいんじゃねーの?」

「夜中にこそっと出発すればバレませんわよ!1人でなら身軽ですし、問題ありませんわ!」

 確かに私は指名手配中ですわ!護送隊を皆殺しにしたのも間違いなく私の仕業ということになっているでしょうね!でも!それでも!じっとしているのは性に合わなくってよ!


「……そんなに魔物狩りしたいのか」

「ええ!私、目的のためにも強くなってお金を稼いで殺しに殺すのですわ!」

『目的』については詳しくは語りませんけれど、それで私の心意義は十分に伝わりましてよ。ドランが少し考えてますわ。さあ考えるのですわ!考えて、私を外に出す決断をするのですわ!

「そうか。分かった」

 よし!

「なら魔物狩りで暇を潰してもらおうか」

 そうこなくては!

「ジョヴァン。最近、大物は?」

「はいはい。よかったね。ドラゴンが出てるよ」

 最高ですわね!

 もう最高ですわ!ドラゴン!またドラゴン肉食べ放題ですわ!ああ楽しみですわ!


「俺も行こう」

 ……いえ、それは余計でしてよ?


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― 新着の感想 ―
家具の配置換えなんて、流石に私1人ではできなくってよ、とありますが、収納袋があればできそうな気もします。
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