表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢の悪党賛歌  作者: もちもち物質
第五章:決戦場のアリア
134/177

22話「相手の手の内見放題ですわ」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 私は今、リタルを連れて山の上の革命軍本部へと戻ってきたところですわ。

 リタルは初めてのドラゴン騎乗におろおろしていましたけれど、よく考えたら彼、自力で風の魔法で飛んでいませんでしたかしら?やっぱり自分で飛ぶのとドラゴンで飛ぶのは勝手が違うのかしら?まあ確かに崖から飛び降りるのと崖から突き落とされるのは勝手が違いますし、分からないでもなくってよ!




「……以上が、クリス兄様の作戦です」

 さて。

 私がリタルを連れてきたことに、他の面子は大層驚きましたわ。

 ついでに、リタルがその場で『見るからにやべー奴』にビビって竦みあがるのを見て逆に安心していましたわ。

 ……まあ、最初こそ狼と骨と薬中とかわいい子、という面々にビビっていたリタルですけれど、その内意を決して、クリスが立てていた作戦をしっかり伝達してくれましたわね。


 クリスの作戦は、まあ、それほど目新しいものでもありませんでしたわね。

 作戦の概要を言ってしまえば、三方向からの同時攻略。

 私達が山の上から動けないのであれば、逃がさないように多方面から攻撃を仕掛けるのが定石ですものね。

 ……ただし、今回の作戦の面白いところは、それぞれの方向からの攻略を時間差で行う、という点ですわ。


 普通でしたら、悪手ですわね。

 多方向からの同時攻略が何故威力を発揮するか、といえば、相手を逃がさないという点よりも何よりも、『相手を一気に攻めることによって相手の防御を分散させる』という点において有効だから、ですのよ。

 つまり、わざわざ時間をずらしてしまったら、敵に各個撃破の機会を与えることになりますの。そして、どこか一か所でも破られたら、当然、敵はそこから逃げることが可能ですわね。見事、多方面からの同時攻略は失敗に終わる、ということになりますわ。

 ……ただし、クリスも馬鹿ではありませんでしたわね。今回の作戦において、『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアの逃げ場をなくす』事が不可能であることは分かっていましたのよ。

 そう。今回は普通だったらあり得ないことに……私がドラゴンを所有していることが、もう分かっているのですわ。

 つまり、多方面から同時攻略をしようが何だろうが、私が逃げる時は逃げる。そういうことですの。そしてクリスはそれを止める手段を持っていなくってよ。よって、クリスは『定石』をとることができませんのよ。

 ……というか、もし私がドラゴンを持っていなかったなら、適当に山に油でも撒いて火をかければよくってよ。山をぐるりと囲んで火を着けてしまえば、私諸共燃えますものね。


 さて。

 最大の目的である私、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアは何時でも空へ逃げられる。

 となれば、クリスは私の下へ辿り着くまでに時間を稼ぐ必要がある。

 そこでクリスは、『私の目的』を考えたのですわ。

 ……私が何を考えて、『革命軍募集のお知らせ』なんてバラ撒いていたのか。

 考えれば、すぐに分かることですわね。


 そう。私の狙いは革命軍の確保と同時に、王家側の人間を引きずり出して殺すのが目的ですのよ。それはクリスも分かっているのですわ。

 だからこそ、この『時間をずらした多方面攻略』を決行することにしたのでしょうね。

 兵士達を小出しにして『餌』にするという、非常に思い切った作戦を。




 クリスの視点から考えるならば、『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアは山の周囲に兵士が集まり始めたら、多方面同時攻略を想定するだろう』となるでしょうね。

 そこで敢えて、それぞれの方面の攻略時刻をずらすのですわ。それは単純な時間稼ぎであり……想定される幹部数名を、できる限り分散させるためでもあるでしょう。同時攻略でなかったとしても、私が作戦の詳細を知らなければ、とりあえず全方面へ戦力を割くしかありませんもの。

 そして、一度割いてしまった戦力は、再集合に時間が掛かる。各方面で時間をずらして動けば、『こちらは終わったのにあちらはまだ終わっていないのか』という混乱も生み出せる。結局、作戦全体の時間は長くなる。単なる時間稼ぎとしてはバッチリですわ。勿論、兵士を全員見殺しにする覚悟があるなら、ね。

 ……一方、『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア』は、優勢である限り、逃げようとはしないと考えられるわけですわね。だって『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア』の目的は王家の人間を殺すこと。ならば、兵士達をわざと分散させて突撃させていけば……その餌を嬲り殺させておけば、十分に時間が繋げる、ということですわ。


 ……そうして時間稼ぎをしている間に、クリスは単身、私を狙うつもりなのですわ。

 不意打ち、という手段で、ね。




「……影武者が居ると分かった上で挑むとなると、本当につまらない戦いになりますわねえ……」

 クリスは今回、自分の持ちうる兵の全てを『餌』にするつもりですのよ。

 その中には、クリスの『影武者』も含まれていますわ。

 クラリノ家って容姿が皆似たり寄ったりですから、適当な親戚を連れてくれば、影武者として十分に使えますのよねえ……。

 多方面攻略の部隊のどこかに自分の影武者を入れておくことで、クリス・ベイ・クラリノがそこに居ると錯覚させる。これで戦力が全てだと錯覚させる。その上で、クリスは1人、隠密行動で革命軍へ近づき……そこで私を殺す、と。そういう筋書きらしいんですの。

 どうしましょう。騙されたふりをしてあげた方が親切かしら?でも、下手にお屋敷の中まで踏み込まれてしまうと、折角革命軍に加わろうとしてやってきてくれた者達を危険に晒すことになりますものねえ……。


 ……ああ、そうでしたわ。それからもう1つ、クリスには奥の手があったらしいんですの。

 それは、既に革命軍の内部に潜り込んでいる間諜、ということでしたわ。つまり、既にお屋敷の中にはクリス側の人間が潜り込んでいる、ということですわね。

 まあ、1人2人は居ると思っていましたわよ。クリスがぶっつけ本番で挑みに来るとは思えませんでしたもの。

 ですから……潜り込んでいる間諜の対策も、バッチリですのよ。




 クリスの作戦がすっかり割れてしまったのですから、待っている理由はありませんわね。私、早速革命軍のお屋敷の中、客室1つ1つを回って、革命のために集った同志達を訪ねましたわ。

 そして1人ずつ空間鞄に入れさせてもらいましたわ。

 ……対策なんて、これだけでよくってよ!外に出られなければ、間諜だろうが何だろうが、関係ないのですわ!おほほほほほほ!




「……で、なんで俺は鞄にしまってもらえないのかしら」

「戦力に数えているからに決まっているじゃありませんの」

 さて。革命軍の同志達を全員それぞれ鞄に詰めたら、次はお山の準備ですわ!早速、ジョヴァンを引っ張り出しますわよ!

「おいおいお嬢さん。忘れてもらっちゃあ困るぜ。俺は戦えないんだから戦力に数えるってのは土台無理な話で……」

「知ってますわ。でも罠を作動させることくらいはできるでしょう?むしろ罠はあなたの得意分野なんじゃあなくって?」

 ……私、覚えてますのよ。ジョヴァンは戦えませんけれど、その分、生き抜くために色々と小細工を仕込んでおくのは得意だった、とね!

「エルゼマリン中に仕掛けているという罠、折角ですからここで見せてくださいな?」

 にっこり笑ってそう伝えれば、ジョヴァンは肩を竦めつつ……手近な木の幹に軽く触れましたわ。

 ……途端、頭上から網が降ってきましたの。

「あら、もう仕込んでありましたの?仕事が早いですわねえ」

「ま、一応は。……ていうかお嬢さん。そうもサックリ避けられるとちょいと自信無くなるんだけど」

 降ってきた網は当然、避けましたわよ。ええ。私ですから当然のことですわね。

 でも、身動きしづらい集団に対してこれを仕掛けたら、中々効果の高い妨害になるのではないかしら。

「ちなみにこれ、この網の後に来るのは毒矢か何かになりますの?」

「そうね。毒はお嬢さんのを使わせてもらうとして……矢を撒いちゃうと再利用されそうで嫌だから、鏃でヤっちゃおうかと」

 あら素敵。確かに私の血を塗ってあれば、掠り傷でも十分に致命傷ですものね。なら、拾って使ったり毒だけ取ったりしにくい形状のものを使うのがいいですわ。

 ……そうね。クリスの作戦ではこの道をやってくるのは『本命』に見せかけた隊の予定ですから、侵攻は一番遅いはず。なら、ジョヴァンに任せてしまってもいいですわね。最悪の場合でも時間稼ぎさえできていれば、先に他の隊を潰し終わった誰かが加勢に来れますもの。

「よくってよ。なら、この道はあなたに任せますわ」

「任されちゃうの?俺が?戦闘力無いって言ってるのに?何、もしかして俺、捨て駒だったりするの?」

「はいはい頼りにしてますわよ」

「せめてそこは『愛してる』って言ってほしいもんだね」

「私に愛されたら多分死にますけれど、それでもいいのかしら?」

「愛に死ねるなら本望……と言いたいとこだけど、ま、今回は遠慮しときましょうかね」

 軽口を叩く余裕があるなら大丈夫そうですわね。本当に駄目だと思ったなら、必要なものを要求してくるはずですもの。

 ということで、頼りにしていますわ。本当に、ね。




 さて。次はチェスタとドランですわ。

「あなた達には王都側の道を任せますわ」

「一番侵攻が早いところか」

「そうですわね。ついでに、物陰が少なくて魔法使いが戦いにくい場所、ということですわね」

 彼らに任せるのは、最初に戦闘が始まるであろう道ですわ。木や岩が少なくて、真っ向からの戦闘になることが予想されますの。

 ですから、近接戦闘大好きな2人にここを任せますわ。

 ……ついでに、ドラゴンもここに投入しますわよ。ドラゴン達に一気に隊を潰させて、ドラゴンの撃ち漏らしをドランとチェスタで処理するということになるかしら。

 ええ。ここは瞬殺してもらいますわ。ドランとチェスタとドラゴン達にはここをさっさと片付けて、他への加勢に向かってもらう予定ですわ。特にジョヴァンの方は彼1人に任せっぱなしたら流石に泣かれそうですものね……。

「ところでチェスタ。あなた、当日に薬切れで動けない、なんてことはありませんわね?」

「それは分かんねぇけど」

 そこは分かってほしいところですわね!

「……まあ、最近は調整するようにしてるし、多分大丈夫だろ」

「あらあら、殊勝なことですわね。どうしたんですの?」

「リューゲルにどやされた。薬以外に楽しい事があるならそっちに頑張れってさ、あいつに言われるとは思ってなかったんだけどな」

 ああ、ルネット人形店のリューゲル様に、ですのね。……それは良い事ですわね。ええ。チェスタにとっても、多分、リューゲル様にとっても。

「あと、今はドランと一緒に薬の調整してるからな。もう失敗しねー」

 ……逆に、過去に薬の調整に挑戦していたことに驚きですわぁ……。

「そういうことだ。チェスタの調子は心配しなくていい」

「まあ、そういう事なら構いませんわ。よろしくお願いしますわね」

 ドランとチェスタとドラゴンちゃん達、という過剰戦力ですから、ここの心配は要りませんわね。後は、どれくらいここが早く終わってジョヴァンの方に加勢に行けるか、というところだけが心配ですけれど……まあ、それも不要な心配でしょうね。ええ。

「久しぶりの戦闘だぜ」

「ああ。楽しみだ」

 ……何せ、こいつら戦闘狂ですものねぇ。ええ。




「で、真ん中の道はあなた達2人に任せますわ」

「やだ」

 そして、最後の道を任せようとして……断られましたわ!

「ちょ、ちょっと!どうしたんですの!?キーブ!」

「どうしたはこっちの台詞だよ!なんでこいつなんだよ!僕はコントラウスと一緒なんだと思ってたけど!?」

 ……どうやらキーブは、リタルと組ませるのが気に食わない、ということらしいですわねえ。

 まあ、信用に足る相手かどうかの判断も付かないとは思いますし、警戒する気持ちは分かるのですけれど……。

「よろしくお願いします!僕、足は引っ張らないよう精一杯頑張ります!ヴァイオリア様の勝利の為に!」

「僕はお前とは組みたくないんだよ」

「そ、そんな……どうしても駄目ですか?僕の能力ではご不満ですか?」

「能力っていうか態度が気に食わねえんだよ」

「態度……?何か失礼なことをしてしまったでしょうか?でも僕の、ヴァイオリア様への忠誠は本物です!」

「だからそういうところが……」

 どうやら、リタルとしてはキーブと組むことに躊躇いは無いようですわね。でも、キーブとしてはリタルとは組みたくない、と。

 うーん、どうしたものかしら……。


 ……そのまましばらく私が困っていたら、キーブも私を困らせているのは分かっているのか、少しばつの悪そうな顔をして……それから何か考える様子で黙った後、何か思いついたような顔をしましたわね。

「……いいよ。分かった。やる」

「あら、本当ですの?それは良かったですわ」

 どうやらキーブが折れてくれたみたいですわね。そもそもどうしてリタルと頑なに組みたがらないのかは分かりませんけれど……まあ、気が変わったなら根掘り葉掘り聞きはしませんわよ。

「ねえ、ヴァイオリア」

「あら、何ですの?」

「これ終わったら、ご褒美、もらうからね」

 あら。何かと思ったら、またねだってきましたわね。どうやら、キーブがさっき思いついたのはおねだり、ということのようですわ。

 それにしてもキーブったら、自分の可愛さを活かしてくるようになりましたわねえ……。

「ええ。よくってよ」

 まあ、頑張ってくれるのならご褒美くらいはあげてもいいですわ。その分、頑張って働いてもらいますけれどね!


「え、ご褒美……?」

「お前には関係無いことだからな?……で、僕らは南側の担当、ってことでいいの?」

 リタルが何だか気にしているようですけれど、まあ、リタルだってねだってきたらお菓子くらいあげますわよ。ええ。

 それは置いておいて、さっさと2人の担当について話しますわ。

「ええ。あなた達2人には南側の道を頼みますわね。丁度、真ん中の侵攻順になる道ですわ。障害物は要所要所にありますけれど、守る範囲は一番広くってよ。魔法の範囲の広さを存分に活かして戦って頂戴」

「分かった。時間は目一杯使っていいの?」

「そうですわね。ジョヴァンへの加勢はドランとチェスタに任せていますわ。あなた達はとにかく、撃ち漏らしの無いようにお願いね」

「はい!必ずやご期待に沿う結果を出してご覧に入れます!」

 こちらも問題は無いでしょう。何せ、武道大会で上位の成績を修めている魔法使い2人なのですもの。近接戦闘では少々守るのに不安な広い範囲も、魔法を使える者達にならば守り切ることができるでしょう。本来ならクリスはここに沢山の戦力を割かせたかったようですから、ここを2人だけで守り切れれば相手の意図を見事に裏切れますわね。

 ……まあ、そもそもリタルがここに居ることが、クリスに対する一番の裏切りな気もしますけれど……。




「ところで、ヴァイオリア様はどちらへ?」

「私はクリスを待ち構えますわよ」

「ああそう。コントラウスは?」

「雑魚狩りですわね。クリスの作戦中でも無関係な貴族だの雑魚だのが寄ってくる可能性は大いにありますもの。それらの掃除をお願いしてありますわ」

 これで全員分、ですわね。ええ。リタルが来た分、お兄様に雑魚狩りに回って頂けるようになってより安定性が増しましたわ。

 ……さて。クリスがどう出てくるかはもう分かっていますの。その上で、こちらは最適解を最初から選んで挑めるという事ですわ。

 これは、クリスの惨敗が楽しみになって参りましたわね。


 ただ……クリスを『どうやって』負かすかは、ギリギリまで悩むこととしましょう。

 ええ。いくつか良い案がありますのよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] それぞれの過去について1対1で話してた時から思ってましたが、お嬢と3人それぞれとの関係性が構築されてここまで来たのほんとたまらないです。ギーブも好きですがジョヴァンとのやり取り最高すぎません…
[一言] キーブとリタル。この子らは将来有望ですなぁ…
[良い点] キーブほんとに小悪魔!かわいい! あえてリタルの前でおねだりしたのがほんと小悪魔。 きっとリタルは色っぽいご褒美を勝手に想像したに違いない。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ