17話「革命家はドラゴンで華麗に去りますわ!」
ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
やりましたわ!私、優勝しましたわ!
そして今、国王陛下に『濡れ衣を晴らせ』と言ってやったところですの!
さあさあさあ、衆人環視のこの状況!言い逃れはできませんわよ?どう対応してくださるのかしらね!?
「会場の皆様にもお聞き頂きましょう!フォルテシア家がどんな陰謀に巻き込まれ、どんな仕打ちを受けたか!国王陛下や上流貴族の皆様が、何を仕組んでらっしゃったのか!」
「おい、貴様」
「私は黙りませんわよ!あなた達が私を口封じに殺そうとしても、ね!」
今までもそうでしたわ。投獄されても脱獄して騒ぎを起こしましたし、処刑されそうになっても処刑台の上で騒ぎましたし、聖女候補の控室が兵士に包囲されても騒いできましたわ!
最早、王家には私は止められませんのよ!
「皆の者!かかれ!」
国王の合図で、一気に兵士が雪崩れ込んできましたわ。……でも、こんなの想定済みでしてよ。
「あらあらあら!こいつの目ン玉がどうなってもよろしいんですのッ!?」
私が、クリスの兜に突っ込んだままの剣を誇示してみせれば、兵士達は迷って、止まりましたわね。
「……ええ。そのままでいなさいな。動いたら途端にこの剣が、クリス・ベイ・クラリノの目玉を貫いて、その奥の脳ミソまでやってしまいますわよッ!」
私の脅しはそりゃあまあよく効きましたわ。国王の命令とはいえ、上流貴族を殺させるのは躊躇われる、というところでしょうね。ええ。兵士達が小心者ばかりで助かりましたわ。
「そのままでいらっしゃいな。……それではお聞きいただきましょう。フォルテシア家がどんな目に遭わされたのか!」
国王ももう、止められませんわ。私の声は、朗々と会場へ響き渡りましてよ!
「私の家は燃やされましたわ。家で私の帰りを待っていたはずの家族も……お父様もお母様もお兄様も……いえ、遺体は、見つかっていませんけれど……」
お兄様に至っては元気に今日もこの会場を見守ってくださっていますし、お父様とお母様についても、どこかで元気に復讐街道まっしぐらでいらっしゃること間違いなしですけれど、まあ、そんな事情は観客達には分からないことですものね。今主張すべきなのは、『家族が居た家を燃やされた』という事実だけですわ!
「……そして、私は!婚約者だったダクター・フィーラ・オーケスタ様を暗殺しようとしたとして、投獄されましたのよ!」
更にこちらもまた事実!そこに纏わる私の心情も、貴族連中の思惑も、一切説明せずに事実だけを主張しますのよ!
あとは勝手に観客が解釈しますわよ!
「勿論、そんなのは根も葉もない出鱈目ですわ。でも、そんな出鱈目が通りましたのよ。……そう。国王陛下をはじめとした王家の皆様と、上流貴族の皆様方が結託して、証人となってくださったおかげでね!」
ざわつく観客席は誰の味方かなんて、もう考えるまでもありませんわね!
「さあ、お話しいただけますこと?あなた方はどうして、証拠も証人も捏造してまでフォルテシア家を陥れ……私の家族を手に掛けましたの!?」
私がそう国王に問いかける時には、もう、観客は皆、私の味方ですわよ!
ざわつく観客に囲まれて、国王陛下は今、どんなお気持ちかしらねえ?
精々後悔すればよくってよ。フォルテシアに手を出したらどうなるのか。婚約を反故にしてまで手に入れた金の代償が如何程のものだったか!
観客は既に、国王を懐疑の目で見ていますのよ?民衆の機嫌を取っても、大聖堂に媚を売っても、もう遅いのですわ!
「……貴様……!」
「あーら、国王陛下?どうなさいましたの?説明することはできないということかしら?」
「そんなものは……そんなものは、全て貴様の虚言に過ぎぬ!濡れ衣など有りはせんのだ!全ては確かに、貴様が全て引き起こしたことだろう!」
まあその通りなのですけれどね。ダクター様もいずれは殺すことになったでしょうし、全てが全て濡れ衣だとは言えない程度に色々やっていますけれどね。
でも、今ここで糾弾していることについては言い逃れできなくってよ!
「あーらそうですか!ならば国王陛下ではなく……こちらのクリス・ベイ・クラリノ様にお伺いしましょうか!」
国王が駄目ならこっちですわ。
私は剣を目玉に突き付けっぱなしのクリスの顔を覗き込んでやりましたわよ。
兜の奥、スリットから見える目が、確かに私を捉えて……絶望に歪んでいるのがよく見えますわね!
「では、クリス・ベイ・クラリノ様?あなたにお伺いしますわ。……あの日、他の貴族の皆様方と一緒に玉座の間で、私に無実の罪を被せて糾弾なさったのはどうしてかしら?」
私が話しかけても、クリスは喋りませんわ。ただ、兜の奥で、目が泳ぐのはよく見えましてよ。
……まあ、喋らないでしょうね。ええ。ここで何を言っても、自分の立場を危うくするだけですわ。
ここからクリス・ベイ・クラリノの名誉の回復なんてありえませんもの。国王についても同様ですわ。
クリスがドランの糾弾を始めたことこそ想定外の動きでしたけれど、こうして国王を糾弾してやる予定でしたし、国王については想定内でしてよ。
クリスについては想定外でしたわね。普通にやり合っていたらドランが勝っていた可能性もありますし。そうなったら、クリスについてはこの場で苛めてやる気はありませんでしたわ。
ええ。今回はクリスが自らわざわざ攻撃されにやって来た、というだけのことですわね。自分でわざわざ不名誉を与えられに来てくれたのですから、そこは褒めてやってもよくってよ。
……ただ、このまま黙られ続けていても、場が持ちませんわ。折角でしたら思いっきり私を罵るなりなんなり、無様に足掻くところを観客達に見せて下さればよろしいのにね。
「あら、答えられませんの?まあそうでしょうね?あなた達貴族や王族達が、『資金不足解消のために』フォルテシア家を取り潰した、だなんて、言えるはずがありませんわよねえ!?」
仕方がありませんから、私が喋りますわ。ええ、今、この舞台の主役は私ですものね。私がこの舞台を続けなければなりませんわ!
「さあ、会場の皆様!よくお聞きになって!……この国は古くからずっと貴族王族の身分の上に胡坐をかいていた無能共によって支配されてきましたわ!そしてその無能共は稼ぎもせずに浪費だけ続け……その結果、フォルテシア家に無実の罪を着せて!財産を没収していくという暴挙に出ましたのよ!」
「何を根拠の無い事を!出鱈目だ!全て嘘だ!」
あら、私の台詞の途中で国王が入ってきましたわね!
クリスよりは元気がありそうで何よりですわ!勿論、私は黙りませんけれど!
「ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!貴様の言葉は全て嘘だったのだろうな!思えば、ダクターと婚約した時から貴様はおかしかった!ダクターを愛しているなどとほざきながら、その裏では暗殺を目論んでいたのだからな!」
まあそうですわね。婚約が決まった時には『あらっどうしましょう!まあとりあえず殺しておけばいいかしら!?私が悲劇の未亡人となってしまっても、王子の妃として王城に居残ることはできますわね!?』くらいには思っていましたわよ。ええ。
「貴様らの狙いは国家の転覆だ!我が子、ダクターを殺し、この国を混沌の中へ叩き落とそうとしていたことはもう露見しているのだぞ!」
……そして、まあ、ここもそうですわね。
勿論、殺すのはダクター様だけに限りませんけれど。
ええ。その通り、というところですわ。
私の狙いは……王家への復讐!
王家が最も失いたくないのは、この国の主導権!
……ならば私の狙いは初めから1つ!
「ええ!その通りですわよ!」
私は堂々と、そう言ってやりましたわ!
「私はこの国を転覆させますわ!こんな腐った国など、一度滅びればよろしいのですわ!」
恐らく、この場の観客達もまた、胸の内で思っているであろうことを、堂々と、言ってやりましたわーッ!
「よくも堂々と開き直れたものだな、この犯罪者め!」
「あらそう!ならあなた達だって犯罪者ですわよ!被害者を全員殺して口封じしていただけの、犯罪者ですわ!」
私の言葉に、咄嗟に国王は怯みましたわ。ええ、事実を言い当てられて怯むなんて、まだまだですわねえ!面の皮の厚さが足りなくってよ!
「私はこの国をぶち壊してやりますわ!そして……もう一度、作り直しますわ!あなた達のような者が上にのさばる事の無い、正しい王国を!今度こそ、民衆の手で!」
如何にもそれらしいことを言いながら、私は今度こそ、会場へと宣言しますのよ。
「会場の皆様、よくお聞きなさい!私はこの国を愛しています!風土も、文化も、ここに生きる人々も、皆、愛していますわ!……だからこそ、国王の暴挙を許せはしません!」
「戦いますわよ!私は、この国を正す為に、戦いますわ!」
革命の始まりを、ここに宣言しますわ!
「……惑わされてはならぬ!悪魔の言葉に惑わされるでないぞ!」
「ええ!悪魔で結構ですわ!フォルテシアの無念を晴らし、この国を正しく直せるのなら!私、悪魔にだってなってやりますわよ!」
国王の台詞の上に私の台詞を塗り重ねて、私は最後にこう、言ってやりますのよ。
「会場の皆様!もし、この国を愛しているのなら!この国の悪を許さぬ正義の心をお持ちなら!私と心を1つにして頂けるなら、是非ともご協力くださいまし!」
上空に火の魔法を放ちますわ。その輝きと熱は幻覚の魔法に増幅されて、この国の終わりの始まりを象徴するに相応しいものとなりましたわね。
その炎の輝きに照らされて、私、会場の全員へと微笑みましたわ。
「……お待ちしておりますわ!」
私がそう言った瞬間、空に影が差しましたの。
会場の者達がざわめきながら上空を見上げれば、そこには……ドラゴン、ですわ!
「では皆様、ごきげんよう!」
私はドラゴンが会場の上ギリギリまで降りてきて減速したところを見計らって、ドラゴンから垂らされていたロープを掴みましたわ!そしてそのまま、ドラゴンに連れられて会場を華麗に脱出ですわーッ!おほほほほほほ!
……上空から見下ろした会場は、ざわめきに包まれていましたわ。まあ、それもすぐ、遠ざかってしまいましたけれど。
「上手くやったようだな、ヴァイオリアよ」
「ええ、どうもありがとう、お兄様!」
私はドラゴンを操縦していたお兄様に引き上げて頂いて、ドラゴンの2人乗りをしますわ。ドラゴンには負担が掛かるでしょうけれど、私とお兄様を乗せた状態で墜落できるドラゴンなんてそうは居ませんわね。冷や汗をかきながら一生懸命羽ばたくドラゴンはいじらしくって可愛らしいですわ。後でたっぷりご褒美をあげなくてはね。
「……さて。いよいよこの国は革命によって覆されていくというわけだな」
「その通りですわ、お兄様。……そして、当然、国王や貴族達はこの流れを喜ばしくは思わない、というわけですわね」
この後、国王も貴族連中も、皆が皆、この対応に追われることになりますのね。
まさか、この会場に居た者全員を口封じに殺す、なんてこと、できるはずもありませんし……一体どうやって対応してくるのか、見物ですわね!
……それに。
「国を覆そうとする悪党共が集まる、ともなれば……クラリノ家は名誉挽回のチャンスですわね?」
私、『お待ちしておりますわ』と言いましたわ。
となれば、私の居場所を探してやってくる者も居ることでしょう。ええ、そこら辺はきっちり手配してやりますわよ?ビラか何かをこっそり撒いてやるなり、路地裏に落書きをしてやるなり……情報伝達の手段は色々ありますものね。
ええ。私、ちゃーんと自分の居場所は教えてやりますわよ?名誉挽回の為にきっとやってくるであろう、クリスの為に、ね。