12話「さようなら表社会、こんにちは裏世界」
ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私は今!1つ目の復讐を遂げて晴れ晴れとした気持ちですの!
私を散々コケにしてくれやがった兵士は無事、馬に蹴られて死にましたわ!
行き当たりばったり、無計画も無計画な復讐になってしまいましたけれど、まあ、終わり良ければ総て良し、でしてよ!
「分かっちゃあいたけどお嬢さん!お前さん中々やるじゃーないの!」
「当然ですわ!」
後ろで骸骨男がゲラゲラ笑ってますけれど、その不気味さも気にならないくらい気分がよくってよー!イエーイ!
……はい。
ということで。
適当に残党狩りを済ませた頃に、ドラン・パルクともう1人が追いついてきて合流しましてよ。
「これは一体……」
兵士と馬が死屍累々の状況にドラン・パルクは困惑気味な様子でしたけれど、私、堂々と胸を張って答えますわ!
「私がやりましたわ!」
「……そうか」
ちら、と周囲を見回して、大体どういうやり方で殺ったかを把握したらしいですわね。
「頼もしいな。これは期待通り、いや、期待以上の働きだ」
……何か期待されてるらしいですけど、これは一体なんですの?
とりあえず、今日は近場にあった洞窟で野営、ということになりましたわ。
あ、この洞窟、なんか見覚えあると思ったら、最近私が入って中の魔物全部狩り尽くした洞窟ですわ。その節はどうも。たんまり稼がせて頂きましてよ。おほほほほ。
洞窟の入り口付近で火を焚いて、その周囲に私達、座ります。
そして、全員座ったところで私だけ起立!
「改めて名乗りますわ。もうご存じかとは思うけれど、私、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。助けて頂いて感謝しております。おかげで恨みを1つ晴らせましてよ」
私は、『ヤバい奴』3人組の前で優雅に一礼しましたわ。こういう時、自分だけ立っていると少しばかり、相手に舐められにくいんですの。成金貴族の処世術ですわ。はい、着席。
3人はそれぞれに反応してくれましたわね。ドラン・パルクは黙って頷いて、骸骨男はにやけ顔でまばらに拍手して、そして最後の1人は満面の笑みで拍手してくれましたわ。
「助けて頂いて失礼ですけれど、私、あなた達のお名前も碌に存じ上げていませんの。お聞かせ願えますこと?」
……まあ、助けられてしまった以上、少なくとも今後しばらくはこいつらとつるむしか無さそうですし、まずは自己紹介から、ですわね。
「俺の名前はもう知っているだろうが、ドラン・パルクだ。王都の地下牢で会って以来だな」
早速、ドラン・パルクから自己紹介してくれましたわ。見たところ、こいつがリーダー、なのでしょうね。
印象を言うならば『筋肉狼』ですわ。獰猛そうで精悍な顔つきといい、笑い方といい、なんとなく狼っぽいですわ。短い黒髪にグレーの目。うーん、やっぱりなんとなく狼っぽいですわね。
年齢は……私のお兄様より年上に見えますわね。20歳にはなっているけれど、30代に入ってはいない……そんなところに見えますわ。
「今回は偶々運よく、お前が捕まったという情報が入った。地下牢での借りもある。何よりお前には興味があった。だからこうして兵士からお前を略奪させてもらった次第だ」
「あら、それはどうも。……あの時は二度と会わないだろうと思っていたのだけれど」
私がそう言うと、ドランはにやりと笑いましたわ。
「そうか。俺はもう一度会うだろうと思っていたがな」
……うーん、こいつに助けられたのはなんか失敗だった気もしますわね……。まあ、仕方ありませんけれど。
「俺はジョヴァン・バストーリン。……俺達の中で一番お嬢さんとお話ししてる仲ってことで、ヨロシク」
「顔は今日初めて見ましたけれどね」
……こいつはもう、骸骨ですわ。歩く骸骨。そんなかんじですわね。身長はドランより少し高いように見えますけど、横幅はドランの3、4割引きぐらいに見えますわね……。
年齢は分かりませんわ。髪は随分白いですけど、元々の色なのか白髪なのか分かりませんし。皮膚にハリはあるように見えますけど、少々骨の目立つ顔からは年齢が読み取りにくいですわ。
「ところで、お嬢さんが捕まったっていう情報を仕入れたのは俺。それをドランに教えたら今回のこれ。俺は完全にとばっちりよ。さっきも言ったけど、俺、戦闘員じゃあないのよ。見て分かると思うけど」
まあ確かに戦えそうには見えませんわね。多分、私でも勝てますわ。
「ま、これからヨロシクね」
不気味な男ですけど、闇市の買取店をやっているくらいですもの、頭はそれなりに切れるのでしょうね。ま、あまり敵に回したくない相手ですわ。
さて、残るは最後の1人ですわ。さっき、ドランと一緒に残って兵士達相手に戦っていた奴ですわね。
派手な色味の金髪は伸び放題なのか、うなじで一括りになっていますわ。齢は私と同じかもう少し上くらいに見えますわね。
そして特徴的なのは、義手……ですわね。
右腕が義手になっていて、ナイフが仕込んであるのが見て分かりますわ。完全に武器として作られた義手、なのでしょうね。その中に自前の腕はどうやら無いようにも見えますわ。
……そんな彼は、私の方をじっと見て……いえ、微妙に私じゃないところを見ていますわね。これは一体……。
「星が」
……怪しんでいたら、急に喋り出しましたわ。けれどなんかおかしいですわね。
「よーく見えるよなあ?今夜は。なあ?」
いや、『なあ?』とか言われても。
空を見上げてみますわ。……ええ。洞窟の中ですから空は見えませんわね。
これどうしたらいいんですの?目の前の派手金髪頭は、ゲタゲタ笑いながら虚空を見つめていますわ。目は完全にイッちゃってますわ。どう見てもこれ正常な人間じゃなくってよ。
……それを見かねてか、ドランが解説を入れてくれてよ。
「こいつはチェスタ・トラペッタ。……事情があって時々こういう状態になる。特に、戦闘後は大体こうだ。寝て起きたらもう少しマシな状態になるだろうな」
ああ、成程こいつヤク中ですのね?成程。できるだけ近づかないようにしておきますわ!
……ということで、色々と不安になる自己紹介が終わりましたわ。特にチェスタ・トラペッタで前2人の分の不安が吹っ飛ぶぐらい不安になりましてよ。
「ドランさんにジョヴァンさん、そしてチェスタさんですわね」
名前は覚えましたわよ。今後もう使わない名前かもしれませんけど。
……と思っていたら。
「畏まった呼び方をしなくていい。これから一緒に働くことになるからな」
「は?」
「俺達がお前に求めるのは、協力だ。俺達と一緒に働いてもらう」
随分とまた、ぶっ飛んだことを言われましたわね?
一応、聞いておきましょうか。答えが予想できたとしても、こうした様式美って必要ですのよ。
「……嫌だといったら?」
「この場で殺す。お前の力が他所に行ったら何かと不都合だ」
やっぱりそうですのねーっ!?まあ予想はできてましたわ!
全く、随分と厄介な相手に気に入られてしまったものね。……まあ、構いませんけれど。
「俺はお前の腕を買ってる。地下牢での手腕もそうだが、ジョヴァンのところに持ち込んだ魔物の皮を見れば、相当に腕のいい射手だと分かった。そして今回の暴れ方を見て、中々肝も据わっていることが分かった。味方に付ければ有用だが、敵に回すと厄介だ。敵に回るなら殺しておいた方がいい」
そういえば、闇市の買取店とここが繋がってたんですわね。ということは、魔物狩りの腕は筒抜け、というわけですわ。……私の頻度で魔物の素材を持ち込む客なんざそうそう居ないでしょうから、覚えられてしまったのも無理はありませんわね。はあ。
「仕方ありませんわね。協力しますわ。私、復讐を遂げるまでは死ぬわけにはいきませんの。その間、衣食住が手に入るならまあ、力を貸してあげてもよくってよ」
「そう返事をしてくれるだろうと思っていたぞ」
ドランはそう言ってまた、にやりと笑いましたわ。なんかちょっと腹立ちますわね。
「ま、お嬢さん、行くアテもないんでしょ?ならうちに来るのは悪かない選択だと思うぜ」
なんか足元見られてるかんじがして腹立ちますわ!
「あれ?星が見えねえ……ああ!今、昼か!そりゃあ見えねえよなあ!」
夜ですわよ!
「それで?働くって一体、どこでですの?まさかお花屋さんだなんて言いはしないでしょう?」
薬中のチェスタ・トラペッタは放っておいて、私はもうドランとだけ話すことにしましたわ。
「そうだな。基本的には依頼を受けて、その依頼をこなす仕事をしている」
「ギルドみたいですわね」
「まあ、似たようなものかもしれないな。冒険者ギルドとは違って、誰彼構わず冒険者を雇うような事はしない。基本は俺達自身が依頼をこなしている」
つまり、ギルド職員が依頼をこなしているギルド、というようなものかしら?
或いは、直接依頼を受け付けているパーティ、と考えた方がいいのかしら?
でもそういうことなら構いませんわ。なんとなく想像がついてきましてよ。
「タダ働きとは言わない。きちんと分け前は渡す。今回のは地下牢で世話になった礼だからな」
「あら。気前がよろしいのね」
「衣食住も必要最低限は保証するが、逆に行動は制限させてもらう。任務以外ではしばらくは拠点に篭ってもらうことになる」
「まあよくってよ。私もしばらくは本気で潜伏したいところですの」
成程。中々の好待遇ですわね。利害の一致がはっきりしているから、そこも安心ですわ。
「で?そこで具体的に私は何をすればよろしいのかしら?」
さて。そうと決まればそれなりに楽しみになってきましたわ。金になる話なら大歓迎ですし、すべきことが明確に存在するというのは良い事ですわ!
……と思って意気揚々と聞いてみたら。
「お前に担当してもらう業務は主に魔物討伐。窃盗や強盗。そして暗殺だ」
アーッ!予想以上にヤバい答えが返ってきましたわーッ!
こいつらマジもんのヤバい奴らでしたわーッ!
「殺人に抵抗は無いな?」
「まあありませんけれど」
「よし。なら戻り次第、早速任務に入ってもらう。詳細は戻ってから話そう。明日の未明に出発だ。見張りは俺がやる。寝ていていい」
な、なんだかトントンと話が進んでいきますけれど……えええ?
私、暗殺者になりますの?没落して?山賊にはなりましたけどその後は冒険者ギルドで真っ当に稼いで?それで次は暗殺者?
私、これから一体どうなるのかしら……。
「ま、お嬢さん。楽しくやろうぜ。割り切っちまえば悪かない仕事さ」
不安に思っていたら、ジョヴァンがぽん、と私の肩を優しく叩きましてよ。
……まあ、割り切るしかないですわね。
「稼ぎは期待していていい。貴族絡みの仕事は儲かるからな」
そしてドランがそんなことを言いましたわよ。
……稼げる。
そして、獲物は、貴族。
「……まあ、稼げるならそれでいいですわ!しかも獲物が貴族なら尚更素敵ですわね!」
なんだか前向きな気持ちになってきましたわ!
私、暗殺者として頑張りますわよ!