4話「ルールは守って楽しく遊びましょうね」
ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。
私は今、ルールブックを読んでいますの。
時は4月末。
初夏の訪れを感じさせる今日この頃、武道大会の参加申し込みが締め切られて、やっとルールが発表されましたわ。
……ただし、このルール、中々のもんですわねえ。
「初戦が酷いものだということはよく分かった」
「まあ、雑魚と雑魚の戦いなんて一々見ていたら1か月以上かかりそうですものね。仕方ありませんわ」
「幾ら管理が面倒だからって、これはないんじゃない?何考えてんだよ、王家の奴らは」
今日日、治安が最悪の町の裏通りでだってやりませんわね、こんなの。
……初戦は3日間。その終わりに『勲章』を3つ以上集めていた者が初戦を勝ち抜ける、というルールですわ。
ええ。その『勲章』ですけれど……まあ、お分かりですわね?
これ、参加者1人に1つ配られるものだそうですの。
そして、参加者同士で勝手に戦って、勲章の奪い合いをする、という訳ですわ!
「町で見かけた参加者に勝負を挑んで、参加者同士でストリートファイトしろって、どこのスラム街だよ、それ」
中々愉快で酷いルールですわね。ええ。これを考えた奴の顔を見てみたくってよ。
「勲章を賭けて戦い勲章を集めるべし。参加者は常に見える位置に勲章を着けていなければならない。3日目の夕方の鐘が鳴った時点で一切の戦いを終了し、翌日の朝、コロシアムで勲章の集計を行う。……十分酷いことになりそうだ」
まず、勲章を隠しておく奴は何人も居るでしょうし、適当に相手を転がして勲章を毟り取っていく奴は大勢いるでしょうし。大体、戦場がコロシアムじゃなくって王都全体ともなれば、大変なことになりますわね。当然、お上品にやり合う奴ばかりじゃなくってよ。寝込みを襲うくらいは皆、普通にやるでしょうね。
「へー。面白そうじゃん。俺も参加しときゃ良かったかなー」
「確かにチェスタ向きだな。このルールは」
チェスタはこういうの、得意そうですわよねえ……。何だかんだ手先は器用ですし、喧嘩吹っ掛けるのも喧嘩吹っ掛けられるのも得意そうですし。
……そう。この戦い、まずは喧嘩を吹っ掛けに行くか吹っ掛けられに行くかしないと、勝ち抜けませんのよね。消極的な奴は勲章を集められずに勝ち残れない、という訳ですわ。
「参加者は300人強。それで勲章3以上を保持していた者が勝ち上がる、か。……最大で100人は勝ち上がれることになるが……」
「俺の見立てじゃ、勝ち上がれるのは多くても50人かそこらだと思うぜ。なんならもっと少ないかもね。勲章1つ2つ抱えたまま沈む奴は大勢居るだろうし、勲章10個以上獲りに行こうとするうちのお嬢様みたいなのも居るだろうし」
「あらっよく分かりましたわね!」
そうなのですわ!このルール、どっからどう見ても欠陥ルールですけれど、『勲章を4つ以上獲得してはいけない』とは書いてありませんの!
もう私、元気いっぱいですわ!リタルの対応についての悩みなんて空の彼方へ吹っ飛びましてよ!
ストリートファイトを吹っ掛けて、相手から勲章をもぎ取って、自分のステータスを誇示していく!絶対に楽しい遊びですわー!
私!俄然やる気が湧いてきましてよッ!
それから数日の間、武道大会に向けての準備を行いましたわ。
主に装備の準備、ですわね。
私は例の如くフルフェイスの甲冑、にしようかと思っていたのですけれど、初戦のルールを考えるに、動きにくい恰好は命取りですわね。
ですから軽装の剣士くらいの恰好にしておいて、顔は仮面とフードで誤魔化すことにしましたわ!
武器はミドルソードを2本準備しましたわ。私、剣を嗜む時も盾は使わない主義ですの。両手剣を使うか、片手剣1本か、はたまた片手剣を2本使うかが私のやり方ですわ。守りに入るよりは攻め続けたい性分ですの。おほほほほ。
剣が2本あると何が心強いって、1本剣を弾かれても戦い続けられる、というところですわね。ええ。片方が盾だと、剣1本弾かれた時点で判定負けになることがありますけれど、剣2本なら1本弾かれても戦闘続行になりますわ!
……あっ、それから、装備とはまた別にいくらか準備を色々としましたわよ。ええ。色々と。おほほほほ。
……さて。私はそんな恰好で挑みますけれど、他2人はというと……。
「キーブはもっと可愛い恰好しませんの?」
「しねえよ!」
キーブはいつも通りの恰好ですわ。フード付きのマントに杖1本。どこからどう見ても魔法使いのそれ。うーん、面白みの欠片も無いですわねえ。
「ところでキーブ。あなた、魔法で戦う気ですのよね?」
「そうだけど、悪い?」
「いえ。なら、その剣は一体……?」
キーブは細身の剣を一振り、腰に下げていますわ。マントがあっても良く目立つ位置でしてよ。それこそ、背中に隠してある杖よりもよっぽど目立ちますわね。
「これ?騙す用。これ見て僕が雑魚剣士だと思って襲い掛かってくる奴が居たら面白いだろ」
「あら素敵」
どうやらこういう遊び心はあるようですわね。折角ですからもう少し違う方向にも遊び心を発揮して、かわいい恰好もしてほしいものですわ……。
それから、キーブに関してはもう1つ心配事がありますの。
「ところで、魔法でも、ある程度の加減はできますわね?」
魔法って強力ですから、下手に剣で戦うよりも死ぬ可能性が高いんですのよ。魔法使い同士の武道大会ですと、大抵は結界などを使って直接魔法がぶつからないようにしている場合が多いのですけれど……。
「加減くらいできる。魔法の制御はそれなりに鍛えたつもりだし」
「そういえばそうでしたわね」
まあ、キーブなら特に問題ないでしょうね。無駄に広範囲を攻撃してしまうことも無いでしょうし、狙ったところに狙った被害を与えるだけの魔法の使い方はここ1年弱で相当上手になったと思いますわ。まあ、キーブに関しては、魔法使いの問題は起きないでしょう。ええ。キーブに関しては。
「それに、相手がもし死んでも、不慮の事故ならしょうがないでしょ」
「そうでしたわぁ……」
……ええ。問題は起きないと思いますわ。きっと。多分。
「で、ドランはその恰好ですの?」
「ああ。武器は手に馴染まなかった」
……一方ちょっと面白いのがドランですわね。
彼、聖騎士の甲冑を身に着けているのに、徒手空拳なんですの。剣も槍も持っていませんのよ。
確かに、彼、大体は拳で戦ってますわね。まさか聖騎士の恰好をしても殴る蹴るで戦うつもりだったとは思いませんでしたけれど。
「徒手空拳で戦うなら甲冑は重すぎるんじゃなくて?」
「多少は重いが、大して邪魔にはならない。今回は聖騎士として出場すると決めているからな。こうするしかないだろう」
何というか、真面目ですわねえ……。まあよくってよ。他の出場者を素手でバッタバッタなぎ倒していく聖騎士なんて、絶対に面白いですわ。
「ところで、ヴァイオリアよ」
「あら、どうなさいましたの?お兄様」
「例の、リタル・ピア・エスクランはどうする?初戦で敗退させるように仕向けることも可能だろう?」
……そういえばそうでしたわね。
私達は3人。3人でそれぞれ勲章をもぎ取りに行けば、リタルから3つ分、勲章を奪うことができますわ。決勝戦への勝ち上がりは勲章3つ以上の保持が条件ですから、勲章を3つ失うことは大きな打撃となるはずですけれど……。
「……いえ。下手に手は出さないでおきますわ。どうしようもない雑魚ならここで勝ち上がれませんし、本当に実力を持っているのなら、数個分勲章を奪ったところで無駄でしょうし」
「ふむ。そうか。まあ、その方がいいだろうな。相手は魔法使いなのだろう?なら、下手な手は出さないに限る」
リタルは魔法使いとしての腕を磨きに磨いたようですから、まあ……実力も未知数ですし、あまり手を出したい相手ではありませんわね。ええ。
「奴の動向は私が探っておこう。お前は思う存分、武道大会を楽しむといい」
「ええ。ありがとうございます!」
流石お兄様ですわ!なんて素敵なのかしら!私の喜ぶことをよく分かっておいでですのね!
お兄様の支援と応援も頂いたことですし、私、武道大会では誰よりも勲章を集めて輝いてみせますわよーッ!
そうして5月。
王城の前のコロシアムで、私達はステージ上に乗って、国王の挨拶を聞いていましたわ。
……ええ、国王の挨拶とか、聞いてられませんわね。最初の数単語だけ聞いたら後はステージ上の他の参加者の観察に移りましたわよ。
ある程度は、見るだけで実力が分かりますの。
立ち居振る舞いが強者のそれなら、ステージ上で一際輝いて見えますし、装備が使い込まれているかどうか見れば戦歴もある程度は分かりますし。
……やはり目立つのは、クリス・ベイ・クラリノですわね。彼、顔面の出来もそれなりによろしいですから、観客席からは大いに注目を浴びていますわね。まあ可愛さで言ったらキーブの方が圧倒的に上ですけれど!
でも可愛くなくても、クリスを無視することはできませんわね。
私、今回の武道大会での仮想敵を、クリス・ベイ・クラリノに設定しておりますの。
彼の実力を考えれば、間違いなく決勝戦の上位に食い込んできますわ。優勝決定戦でぶつかることも大いに予想されるでしょう。というか今回の武道大会、彼が一番の優勝候補だと思いましてよ。
ですから……その一挙手一投足も、見逃したくはありませんわね。
弱みの一欠片でも零そうものなら、しっかり拾って使ってやろうと思いますわ。ええ。
それから、キーブはうまいこと隠れているように見えますわ。元々、背はそれほど大きくないですから、人ごみに紛れようと思えばいくらでも隠れられるんですのよね、彼。
更にキーブは今回、剣を目立つようにしていますから、ぱっと見では剣士にも見えますわね。ええ。多分、もう何人かからは雑魚認定されてますわよ。返り討ち待ったなしですのにね。おほほほほほ。
ドランはガタイがいいですから、まあ、当然のように目立ちますわ。
白銀に輝く聖騎士の鎧もそうですけれど、やっぱり中身のガタイの良さが目立つ要因ですわね。鎧で誤魔化しているようには見えない体格は、圧倒的な存在感ですわ!
……しかも、彼、剣も槍も斧も持っていませんもの。素手ですもの。なんかこう、異様なのですわ!
フルフェイスの白銀の甲冑の、なんと眩く威圧的なこと!
間違いありませんわ!今、ドランは間違いなく、周囲から得体のしれない強者として認定されていますわね!
……それから私、少し周囲を確認して、リタルの姿を見つけましたわ。一際綺麗な金髪の頭を探せばすぐ見つかりますから、今後もリタルを探そうと思えば簡単に見つけられますわね。
彼、きらきらした笑顔で一生懸命、国王の話を聞いてますわ。相変わらず、いい子ちゃんのようですわねえ……。さて、彼は一体、何をやらかしてくれるのかしら。心配ですわ。
他にもあちこち視線を動かすと、それなりに綺麗な金髪で、高そうな装備を身に着けている野郎が何人か居ましたわ。
金髪に青い目はクラリノ家の一族によくある容姿ですから、分かりやすくていいですわねえ。まあ、あそこは軍人の家系ですから、一族から何人か出場していてもおかしくなくってよ。
……クラリノ家だけではなくて、他の貴族もそこそこ出場しているようですわ。
彼らのことはすぐに分かりますの。だって、金にものを言わせた装備を身に着けていますもの。
貴重な魔石をあしらった宝剣や、職人が精緻に守りの魔法や身体強化魔法を刻み込んだ鎧。それら1つ1つが庶民の手の届かない代物ですわね。
勿論、貴族連中がそういった装備を使いこなせるとは限りませんわ。何なら、宝の持ち腐れになることの方が多いんじゃないかしら。
それでも、守りの魔法や身体強化魔法が働く鎧は戦う上で大きな差となるでしょうね。
悲しい事ですけれど、素っ裸なら平民にあっさり負ける実力しかない貴族でも、装備を身に着ければ平民を一掃できるということだってありますのよ。
……まあ、そんなのは面白い光景ではありませんわね。
面白くないですから、そんな装備頼りの貴族にはたっぷり痛い目を見せてやりますわよ。
……そして。
私、正直、ここに居るはずがない人を見つけてしまいましたのよ。
ええ。こんな所に居るとは、思いませんでしたわ。
「……ダクター様?」
よく見覚えのある、白銀の髪。美貌の王子として名の知れた、私の『元』婚約者。
第七王子、ダクター・フィーラ・オーケスタも、この会場に居たのですわ。
……あらあらあら。面白くなって参りましたわねえ。
私がなんとかぶち負かしてやりたい野郎は2人。できれば避けたいリタルは置いておくとして、クリス・ベイ・クラリノとダクター様は、願わくばこの手で無様な敗北を与えてやりたいところですわ。
特に、クラリノ家への復讐にはもってこいの舞台ですわ。この機会を見逃す手は無くってよ。
他にもいけ好かない貴族のボンボン共も出場しているようですし……面白いですわ!私、思う存分暴れますわよ!
ええ。勿論、ルールはちゃんと守りますわ。ちゃーんと、ね。




