診察の結果
あれから数時間後、王都でも有名なお医者様がポーンドット家の屋敷にお越しになって、急ぎベアトリック様の診察が始まりました。
その頃には、ニルヴァーナ公爵邸からベアトリック様のご両親であるニルヴァーナ公爵閣下と公爵夫人が駆けつけ、変わり果てた娘の姿に戸惑いながらもお医者様の言葉を固唾を呑んで待っています。
「ーーふむ。ざっと見させていただいた限りでは手足の骨折と裂傷が数ヶ所、まあ……こちらはそれほど深刻な外傷ではないので心配せずとも宜しいが、いかんせん頭部の外傷がかなり深刻ですな。未だ意識が戻らぬところをみるとよほど強く頭部を打ちつけたのでしょう。はっきりとした事は言えませぬが、最悪の場合このまま意識が戻らぬといった事も考えられますゆえご両親は相応のご覚悟を下さい」
「ーーそっ、そんなっ! 意識が戻らないだなんて……」
「なっ……何か、何か方法はないのですかっ⁉︎ お医者様!」
ニルヴァーナ公爵様と公爵夫人は狼狽し声を震わせます。そんなお二人の姿を見るに耐えないといった風に横目でちらりと見てからお医者様は静かに首を横に振りました。
「そんな……嘘だ、何かの間違いだ……」
「嫌よ……私は絶対に認めないっ! この子はすぐに目を覚ます筈だわ! 起きなさいベアトリック! ほらっ、屋敷に帰るわよ!」
公爵夫人はベアトリック様の腕を掴み、身体を揺さぶります。
「夫人っ! 気持ちはお察ししますが今は絶対安静です。今はただ、この子の回復を信じて静かに祈る事しか我々に出来ることはありません」
「…………っ」
公爵夫人の目から大粒の涙が零れ落ち、まともに立つ事もままならないのか今は力なく床に座り込み嗚咽を漏らしています。
ニルヴァーナ公爵様は公爵夫人の隣に膝をつき、そっと肩を抱いて変わり果てた娘の姿を真剣な表情で見つめています。
ベアトリック様が横たわる私の部屋には深い悲しみが渦を巻き、目に見えるような質量を持った重苦しい空気が立ち込めています。
「ーーしかし、絶対安静とはいったいどれくらいの期間なのでしょうか?」
「明確な期間は患者の容体次第なのでなんとも言えませぬが最低でも一週間、大事をとって二週間といったくらいの期間が適切でしょうな。私は一旦王都に戻り必要な医療機器を持って明日ここに戻ります」
「二週間……」
ニルヴァーナ公爵様はそう呟くとお父様の方へと歩み寄り何やら話を始めました。
恐らくはベアトリック様が回復するまでの間、この屋敷を使わせてくれとお願いしているのでしょうね、きっと。
お父様は若干引き攣った表情ではありますが首を縦に何度も振っているので、ニルヴァーナ公爵様の要請を快諾しているようです。
そうこうしていると、
「ローレライ、説明するまでもなくこういった状況だ。ニルヴァーナ公爵令嬢にこの部屋を使って頂こうと思うんだが……いいかい?」
「ーーええ、もちろんです。私に出来ることなら何でもご協力致します」
「すまない、ありがとうローレライ」
言って、お父様は優しく微笑み私の頭を撫でて下さいました。
「申し訳ない、ローレライ嬢。ご協力感謝する」
非常にキビキビとした動作で、ニルヴァーナ公爵様は私に向かって小さくお辞儀をします。
私は反射的に深く頭を下げて、
「ベアトリック様の一刻も早い回復を心より願っています」
「ありがとう」
ニルヴァーナ公爵様は感謝の言葉を述べて踵を返し、使用人の方々に指示を出し始めました。
ポーンドット家の屋敷は先ほどとはまた違った慌ただしさにどっぷりと包まれていきます。
この騒動はしばらく続きそうです。




