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婚約破棄された男爵令嬢〜盤上のラブゲーム〜  作者: 清水ちゅん
4章 おまじないがもたらすモノ
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大混乱

「とりあえず、一旦ローレライの部屋にーー」


「アンナ! 救急箱を持って早くーー」


「旦那様、私は急ぎニルヴァーナ公爵邸へーー」


「出血がひどい! 清潔なガーゼを大量にーー」


「応急処置では間に合いません! 王都のお医者様にーー」


「止血効果のある野草をーー」


「ーー静かにして! 御身体に触るわ!」


「こちらの男性も怪我をしていらっしゃいます。だれか手を貸してーー」


「私の事なんかどうでもいいです! それよりも、それよりもお嬢様をーー」


 ポーンドット家のお屋敷は大混乱の中にありました。


 それは当然ですよね。こんな事、一生に一度有るか無いかといったぐらいですし。


 当然、無いに越した事はないのですが。


 ポーンドット家の屋敷にいる人全てが怪我をしたお二人のために、必死に自身のやるべき事をやっています。それは当然、私も例外ではありません。


 そもそも私に出来る事と言ってもあまり多くはありませんが、それでもわずかばかりでもベアトリック様の力になれるよう、必死にやるべき事をこなします。


 私がやるべき仕事の内容を掻い摘んで言えば、それは普段ニルヴァーナ公爵邸で働く侍女の方々が行うようなお仕事が中心です。ベアトリック様の為に近辺のお世話をする、と言った具合でしょうか?


 ですから私は未だ意識が戻らないベアトリック様のお側について、アンナが運んで来てくれたぬるま湯と清潔な布でもってそのお顔を染める血の赤を綺麗に拭って差し上げています。


 頭部の怪我についてはマイヤーさんが応急処置を施してくださり、ほぼほぼ止血は完了しているとの事でした。


 そんな中、不意にマイヤーさんと目が合ってしまい、私は咄嗟に目を逸らしました。


 上手く言い表せませんがそれは、私の中で静かに蠢く黒い感情のせいかもしれません。


 自身のものとは到底思えない、思いたくもない真っ黒な嫌な感情。


 ベアトリック様の頭部、首回り、腕を拭きつつあの日の事を何度も思い返します。


 恐ろしくて仕方なかったあの日のお茶会の事を。


 今、思い出すだけでも自然と手が震えてしまいます。


 きっと、永遠に忘れる事の出来ない恐怖の記憶。


 本来ならあれこれ考える事なくベアトリック様の回復を一心に願うべきなのでしょうが、いつしか私の心に影を落とした悪魔が私の心に囁きかけます。


《さあ、ローレライ! その口で言ってやれ! いい気味だと! 他人に酷い仕打ちをした天罰が見事に下ったと! まさに自業自得だと! 自分で招いた未来をしっかりと噛み締めるがいいと! 言え! 言ってやるんだ! 己の中にある悪意の全てを込めて呪い殺すように言うんだぁぁぁ!》


 ーーーーダメッ!


 私はそんな身の毛もよだつ悪魔の声を打ち消すよう、必死に作業に集中してベアトリック様の身体を綺麗に拭いていきます。


 アリー姉様は自業自得と仰いました。そしてそれは私も概ね同じ考えです。悪い事をしたから神様の罰が当たった。そういった事が本当にあるのだとするのなら、とても理にかなった物事のように思えます。


 盗みを働いたから投獄された。これと全く同じです。


 ですが、


 その報いを受けたのなら、罪をしっかりと認め反省したのならーーそこで、それで終わりの筈です。


 人間は失敗ばかりする生き物です。だってそれは、誰一人として完全なる存在ではないから。もし、仮にそんな存在がいるのだとしたなら、それはもう人間ではなく神様かあるいは神様以上の存在でしょう。


 みんな失敗して、そこから学んで大きく成長していくんです。


 それに、私の人生を例に考えてみれば自分でもびっくりしてしまうほどの大失敗ばかりです。いつも上手く出来ずに叱られて、その度に泣いて、それでも上手く出来なくって毎日泣いて、失敗に失敗を重ね、嫌になるほど失敗を繰り返しつつ今日まで生きてきました。


 ですから、


 過ちを犯したベアトリック様がその報いを、罰を受けたのならそれで終わりーー痛み分けの、引き分けの、おあいこなんです。

 

 私はそう、自分に言い聞かせて熱心にベアトリック様のお身体を綺麗に拭きあげます。

 


 







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