感謝なさい
結果が実現するだけ。
アリー姉様はまたも当然のようにそうおっしゃいます。
私はみんなと同じ事をしている。私の場合それで本当に結果が出る。ただーーそれだけの事だと。
何の不思議もないし、ごく当たり前の事だと。アリー姉様はそうおっしゃいます。
そう言われてしまうと素直にそれを受け入れてしまいそうになりますが、私はすんでのところで思いとどまりアリー姉様に必死に食い下がります。
「けど……けど、それって普通じゃないですよね⁉︎ みんながやっても何も起きないのにアリー姉様がやると本当に何かが起きるって、その時点で普通じゃないですよね⁉︎ みんなとは違う力があるって、それはもう……」
そこまで言いかけて私は口を閉じました。変に興奮してしまって、余計な事まで口にしてしまいそうだったからです。
口は災いの元です。
「ーーレライ」
アリー姉様は短く私を呼ぶと、自身の左手を小さく動かし私をベッドの側に来るように指示します。
差し出されたアリー姉様の手をとると、アリー姉様は口を開きました。
「ふむ、そうねえ……。何をどう言えばきちんと伝わるかしら……。おまじないで伝わらないのであれば……ふむ。気付いていないだけ、というのはどうかしら?」
「気付いていないだけ?」
「ええ、気付いていないだけ。例えばあなた、今日ここに来る前に使用人から『お気を付けて下さい』や『道中の無事をお祈りしています』といったお見送りをされてきたんじゃない?」
「はい……」
「それでこの後、あなたは特に何の問題もなく無事に家に帰る筈よね」
「そう……ですね……」
「そこよ。レライあなた、無事に帰って来られた理由とかって考えた事、ある?」
「いえ……特には。運が良かったとか、たまたまとか、当たり前とか、でしょうか?」
「でしょうね。あなたはきっと今日、無事に家に帰る事が出来る、きっとね。だけど、それはただの偶然や幸運といったものではない。もちろん必然でも。あなたの帰りを待つ使用人、いえ……あなたに携わる人達のおかげなのよ。それらの人達の想いと願いがあなたを無事に家に送り届けるのよ」
「想いと、願い……」
「普段、それほど気にも留めないようなそれらには力が宿っているのよ。あなたの事を守ろうとする強い力が」
「…………」
「けれど常にその力があなたを守ってくれる訳ではない。私と同じで少し気まぐれなところがあるから、ね」
言って、アリー姉様は少しだけ口角を上げます。
「では……多くの人が願ってくれれば実現すると、そういう事ですか?」
「概ねそうね。けれどさっきも言ったように、気まぐれだから……。それに実現したとしても、願った本人達はもうその事なんて忘れちゃって自身の願いが実現した事なんて全く気付いていないのよ」
珍しくアリー姉様が分かりやすくきちんと説明してくれているおかげで、話をすんなりと理解する事が出来ます。
私もお父様を見送る時に無事を願いますが、その後お父様が無事に帰ってきたとしてもそれを当たり前のように思っていて、まさか自身の願いが叶ったなんて思いもしません。
つまりは気付いていない。という事です。
「ーーまあ、気まぐれと言ってもそうするのにはちゃんとした理由があるのだけれど……」
「……?」
「願われた願いを叶えてあげたのにぞんざいに扱われてしまったのでは、誰でもへそを曲げてしまいそうなものよね」
「……?」
どなたがへそを曲げるのでしょう? 途端にアリー姉様のおっしゃっている事が分からなくなってしまいました。
「うん……?」
アリー姉様は考えを巡らせる私を横目で見ながら今日一番の笑顔で、
「ーー感謝しなさいって事よ」
とても嬉しそうに、そうおっしゃいました。