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婚約破棄された男爵令嬢〜盤上のラブゲーム〜  作者: 清水ちゅん
3章 同性愛と心崩壊
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台風のようなお客様のお越し

 あれから少しして、朝食の知らせに来てくれたアンナと少し気まずい雰囲気の中一言二言言葉を交わし、食堂へと向かい朝食を済ませ再び自室へと戻りました。


 アンナは当然と言えば当然なのですが、いつもの輝くような笑顔は見せずにずっとうつむいたままでした。その際、目元が泣き腫らしたように赤く見えたのはきっと気のせいではないと思います。


「はぁっ……」


 アンナの元気のない様子に胸が締め付けられるように痛みます。


 早く、早く元気になって欲しい。いつもの輝く向日葵のような笑顔を見せて欲しいです。


 一刻も早くアンナが元気を取り戻すように自身の中で強く祈ってから、私は本を片手に机に向かいます。


 お勉強に対する確かな熱意を持って椅子に座り、本を開くとまるで条件反射のように眠気が襲ってきました。


「……ふわぁっ……」


 ついさっきまで眠気なんかまるっきり感じなかったのに、いったいどうなっているのでしょう。


 私の身体は勉強が出来ないようになっているのでしょうか? 確かに最近は色々な事が立て続けに起こって十分な睡眠は取れていませんが、しかしそれでもこの反応は変でしょう。


 私……もしかしてお勉強の適正無いんでしょうか?


 私は襲いくる眠気を必死に押し殺し、お勉強を開始します。


 温かな陽の光も、肌を撫でる優しい風も、陽の光を受けて白く輝くベッドも、小鳥のさえずりも、それら全てが私に寝るように囁きかけているように感じられてしまいます。


 私はついついその魅力的な甘い誘惑にのってしまいそうになったのですが、すんでのところで思い留まり本の内容に集中します。


 重いまぶたを両手で擦り悪戦苦闘を繰り広げていると、部屋のドアがノックされました。


「ーーーーはい」


 通常ノックはドアを二回叩くのが一般的なのですが今回は珍しい事に一回のみのノックでした。


 不思議に思い小首を傾げてドアを見つめましたが、ノックの波長は明らかにアンナのものであるのでドアの向こうにはきっとアンナが立っているのでしょう。


 恐らくは叩き損ねてしまった、といったところでしょうか。


 私がノックについてのあれやこれやに考えを巡らせていると、ドアの向こうから声が届きました。


「ーーーーお嬢様。お客様がお見えです」


 いつになく、妙にかしこまった口調でアンナはそう言いました。


「お客様? どなた?」


「申し訳ありません。初めて見る方で……お名前はアレク様とおっしゃるようで、急いでお嬢様とお会いしたいと……」


「アレク様……?」


 聞き覚えのないその名前を頼りに自身の記憶の中を必死に探りますが、残念ながら該当する人は居ないようでした。


「その方は間違いなく私にお会いしたいとおっしゃっているの? お父様ではなく?」


「はい。ローレライ嬢と確かにおっしゃっていました」


「そう……では、すぐに向かいますのでもう少しだけお待ち頂いて」


「はい。かしこまりました」


 そう言うと、アンナが廊下を小走りする足音が遠ざかっていきました。


 私は急いで姿見の前で身嗜みを整え自室を後にしました。


 階段を足早に降りながらアレク様の人物像を探りますが、私の脳裏にはわずかばかりのヒントさえ浮かんではきませんでした。しかしそれでも私を訪ねて来るぐらいなので全く面識がないと言う事は考えられませんし……何か、きっと、ずいぶんと昔にお会いした方とか……。


 結局何も手掛かりを掴むことも出来ないまま、一階へと降りた私は応接間へと向かいそこで一人の男性ーーつまり私を訪ねてきたアレク様と対面しました。


 ほっそりとした身体つきに、頭部中央で綺麗に分けられた髪型、緊張しているのかわずかに身体が震えていて、少し不自然な笑顔を浮かべ私の事を見ています。


「初めまして、ローレライ嬢。私はラルドー子爵家の長男アレク・ラルドーと申します。突然のご無礼をお許しください」


 言って、アレク様は両手を背後に回したまま私に頭を下げました。


「いっ、いえ……そんな……」


 困りました。こうしてご本人様を目の前にしても私の記憶には引っかかるものが全くなく……と、そこでようやく意識の片隅にちらついていた違和感に気が付きました。


 初めまして?


 そんな違和感に小首を傾げてぼんやりとアレク様の事を眺めていると、アレク様は突然私の前にひざまずき背後に回していた手をこちらに差し出すようにしました。


 差し出された手には真っ赤な薔薇の花束が握られています。


 そして、



『うっ……美しき! 美しきローレライ嬢! 私とけっ……けっこ……結婚して下さい!』



 アレク様はそう、おっしゃいました。


 




 


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