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婚約破棄された男爵令嬢〜盤上のラブゲーム〜  作者: 清水ちゅん
3章 同性愛と心崩壊
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誇れる意思

 閉じたまぶたを照らす朝日を浴びながら頬杖をついていると、屋敷の近くに立ち並ぶ木々の方から小鳥達の可愛らしい声が聞こえてきます。


 朝はいいですね。


 お日様が顔を出すと途端に舞台にライトが当たり始め、みんなが活発的に行動を始める。その際の勢い付いた流れや雰囲気といったものは、自身を奮い立たせる良いモチベーションとなります。


 それはそうと、ついさっきマイヤーさんとお母様の過去についてのお話を聞いた後から、何だか胸の奥の方が締め付けられるような感覚がずっと続いています。


 考えてみれば……いえ、考えるまでもなくその理由は明確ですね。


 立場の垣根を越えた関係性、それほどに親しい間柄、つまりは私とアンナのような関係。


 マイヤーさんはそんな存在を失くしている。


 自身の事を姉のように慕ってくれる心の底から信頼できる大切な存在を。


 それは言い換えれば私がアンナを失うのと同じくらいに辛い事だと思います。


 あの日、泣きながら仕事を辞めると言いだしたアンナを私は平静を装って抱きしめた。


 けれど、


 本当はとても怖かった。とても不安だった。アンナがいなくなってしまう事が嫌で嫌で仕方がなかった。だから、アンナがどこにもいかないように、消えてしまわないように強く強く抱きしめた。


 もし仮にあそこでアンナが私の言葉を聞かずに辞めてしまっていたのなら、私はどうなっていたのでしょう。


 アンナというかけがえのない存在を無くした私は独りで立つ事は出来たのでしょうか、歩く事は出来たのでしょうか。


 マイヤーさんのように悲しみを押し殺し生きる事は出来ていたのでしょうか。


「…………」


 その全てが定かではありませんが、きっと目も当てられない姿となってしまうのでしょうね。


 考えるだけで背筋が凍りつきそうですが、私はそんな辛い想いはしたくありませんし、もちろんアンナにもそんな想いは絶対にさせたくありません。


 漠然とした絶対的な不安感や恐怖感が前に前に出てしまいがちですが、マイヤーさんの話から得たものはそれだけではありません。


 マイヤーさんが変わっている、と表現したお母様の考え。


 平民と貴族の関係性。


 みんながみんな、ひとつの舞台でそれぞれの役割を果たす、ただの役者。


 そこにはーーーー偉いも強いもない。


 そんなお母様のお考えは表現の違いこそあるものの、大筋では私の考えと同じものなんですよね。


 それはつまり私のこの考えはお母様から受け継いだものであって、お母様と同じ考えだという事。


「…………」


 なんでしょう……なんとも言えない感情が胸の中で朧げな形を形成しつつ、どんどんと大きく膨らんでいきます。


 その事が原因なのか、胸の奥の方からぼんやりとした温もりがじょじょに広がっていきます。


 これは……安心感でしょうか?


 私の心を迷わせていた何かが、胸の奥でゆらめく確かな熱によって全て溶けてなくなってしまった。そんな気がします。


 ベアトリック様に否定された私の気持ちも、アレンビー様に改めるようにきつく言われた私の考えも、ルークレツィア様に蔑まれた私の価値観も、その全てが今となってはどうでもよく思えました。


 御三方の言っている事は確かに正しいと思います。けれど、私のこの思いだって正しいんです。


 私は世間と明らかに違っている異様な人間だとばかり思っていましたが、本当はそんな事はないんですね。


 なぜなら一番尊敬しているお母様と同じ考えなんですから。


 たったそれだけの事で私は自身の中に芽生える気持ちに自身を持てるようになりました。真っ直ぐに立って、胸を張っていられます。


 独りじゃないのなら、お母様と一緒なら、この先何を言われようとも平気です。


 私の胸に無限の勇気と誇りが湧いてくる、そんな朝でした。










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