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婚約破棄された男爵令嬢〜盤上のラブゲーム〜  作者: 清水ちゅん
3章 同性愛と心崩壊
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葛藤

 アンナを抱く腕が次第に冷たくなってきました。


 その冷たさを感じれば感じるほど、アンナを抱く私の腕にはより一層の力が入ります。


 なぜこんなにもきつくアンナの小さな身体を抱きしめるのかは、正直なところ私自身にも分かりません。


 ただ、こうするしかなかったんです。


 湿った腕の冷たさからアンナの気持ちがありありと伝わってきて、でもその気持ちには答えてあげられなくて……。


 もし答えてあげられるのであれば、今夜眠りに落ちるまで互いの熱を感じ、息遣いを感じながら一緒に過ごす事は出来るのでしょうが、そう出来ないのが申し訳なく思えてしまって……強く抱く事で罪滅ぼしでもしているつもりなのでしょうか。あるいは謝罪のつもりとか。


 どれだけ考えてもよく分かりませんが、私はアンナの事を強く強く抱きしめました。アンナもまた私の身体を強く引き寄せるように抱いて、ときおり嗚咽を漏らしています。


 それからどれほどの時間、互いに抱きしめ合ったか。五分か十分か。私達はまるで互いの心の機微を感じ取ったかのように全く同じタイミングで腕の力を緩め背中から腕、肘から手のひらへと互いの手を滑らせていきそして、ついに互いの指先が離れようとした瞬間、アンナは別れを惜しむように指先に力を込めて私の指先を握りました。


「…………」


「…………」


 一度、駄々をこねる子供のような瞳で私を見つめた後、アンナは自身のかかとを浮かし再びその可愛らしい唇をこちらへと向けます。


 目の前に差し出された魅力的な薄ピンクの唇に私の心は少なからず揺れ動きました。


 ですが、


 私は首を横に振ってその想いには答えませんでした。


 答えてはいけないんです。私にはその資格がないのですから。私にはーーーーその気持ちがありはしないのだから。


 それでも、資格や気持ちがなくともアンナの事をこのままずっと、一生離さずに独占していたいという想いもまた私の胸の中にあるのは事実です。


 答えるつもりも、受け止める気も無いのに、期待だけさせておいて自分の都合のいいように振り回していたいだけ。


 そんな身勝手な悪魔みたいな私のわがままに大切な友人を巻き込むわけにはいきません。


 絶対にやってはいけないんです、それだけは。


 私はアンナの手を振りほどき、両手でアンナの手を元の位置へと押し戻して最後に告げました。


「おやすみなさい、アンナ。ずっと、ずっと私の大切な友人でいてね」


 そんな私の言葉にアンナは完全にうつむいてしまい、なにひとつ言葉を発することもないまま踵を返して部屋を後にしました。


 そんな悲しげな友人の背中を見ていると、なんだか取り返しのつかない事をしてしまったような漠然とした罪悪感と不安感に苛まれました。


 アンナの事を傷付けないよう気を付けてはいたのですが、それでもやはり少なからずアンナの心を傷付けてしまったようです。


 傷付けられる痛みや苦しみをあれだけ体験したばかりなのに、あろう事か大切な友人を私は傷付けてしまいました。


 難しいものですね。上手くやろうと必死になっても、どれだけ気を付けていてもままなりません。


 私は部屋のドアを閉めてテーブルの上にドレスを置き、ベッドに突っ伏しました。


 ドレスは明日の早朝にでも洗いましょう。本当なら今すぐにでも洗った方がいいのでしょうが、こんな気分ではとてもそんな気にはなれません。それに今、どこかでアンナと鉢合わせでもしたら何と声を掛ければいいのか見当もつきません。


 きっと、すごく気まずい雰囲気になるんでしょうね……。


「はぁ……」


 なんだか近辺が一気に騒がしくなってきましたね……。


 私はぼんやりと窓の外の闇を眺めます。


 今日もぐっすりと眠るのは難しいようです。



 

 



早いものでもう大晦日ですねー。

ちなみに私の今日の予定はガキ使で笑って、温かい蕎麦をすすり、ゆく年くる年を見ながら年を越す、です。


それではみなさん良いお年を!

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