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婚約破棄された男爵令嬢〜盤上のラブゲーム〜  作者: 清水ちゅん
3章 同性愛と心崩壊
47/125

重ねられるーー

※このお話からガールズラブ要素が強くなります。苦手な方は数話飛ばしてからお楽しみ下さい。

「ーーーーっ⁉︎」


 背中に伝わるアンナの柔らかさと温かさ。


「すごく、すごく痛かったですね。それに怖かったんじゃないですか? 怪我をするとどうしても弱気になっちゃいますよね。ひとりで心細いって、寂しいって思っちゃいますよね。でも、大丈夫です。お嬢様には私がついています。私は大した事は出来ませんが、お嬢様のそばにいるくらいの事なら出来ます」


 優しく、そして力強く私を抱きしめながらアンナは言います。


「お嬢様の怪我は私の見立てでは大した事はありません。もちろん跡も残らないと思います。怪我のプロの私が言うんだから間違いありません。だから安心してください。もう怖い事なんて何もありません。辛い事なんて何もありません。大丈夫、大丈夫。私がついていますから、絶対に大丈夫です」


 背中越しに聞くアンナの言葉はいつもとは違った印象を受けます。いつもの元気いっぱいな夏の晴れた日に燦然と咲く向日葵の花のような清々しい印象ではなく。柔らかくて、温かくて、身体全体を包み込んでくれるような安心感を与える印象でした。


 それは幼い頃によく感じていた、大好きな温もり。


 身体の奥底まで温かくなるような、優しい温もり。


 遠い過去に置き去りにした、今はもうない温もり。


 そう、いつも私を優しく抱きしめてくれたーーーーお母様と同じ温もりでした。


 私は無意識のうちにアンナの手のひらをとって、ぎゅっと握ります。


 もう二度と離れないように、失くさないように、ずっとそばにいられるように。


「…………」


「…………」


 目を閉じてアンナの、お母様の温もりを感じていると私の目からは涙が流れ落ちました。


「お嬢様……泣いているんですか?」


「泣いてなんか……ないわよ……子供じゃないんだし……」


「お嬢様が嘘をつくなんて珍しい。貴重な体験をありがとうございます」


「だから、泣いてなんか……ないって」


 なんでしょう、この感覚。


 なんだかいつもと逆になったような……まるでアンナがアンナじゃないような、不思議な感覚。


 その時、私を抱きしめていたアンナの手が緩み私の背中からアンナの温もりが消えてしまいました。


 瞬間、言い知れぬ寂しさが私の胸に押し寄せ、私は咄嗟に後ろを振り返りました。


 ですが、私の心配をよそにそこには当たり前にアンナが立っていて、なんだか驚いたような表情で私を見つめていました。


「綺麗……」


 と、私の目を真っ直ぐに見つめてアンナはぽつりと呟きます。そして、


「ーーーーっあ! ごめんなさい!」


 アンナはそう口にすると、慌てて視線を伏せました。 


「…………」


 いったい急にどうしたのかと考えを巡らせていると、アンナは視線を伏せたまま口を開きました。


「お……お嬢様の涙に濡れた瞳があまりにも綺麗だったから……つい見惚れちゃいました。ごめんなさい、不謹慎ですよね」


 そんなアンナの言葉に私は顔に火がついたかと思うほど急に恥ずかしくなってしまいました。


「もうっ! 冗談ばっかり!」


 私は少しだけ口角を上げながら、目元を拭います。


「冗談じゃありません! お嬢様はすごくお美しくて、それでいて時折見せる可愛らしい一面を持っていて、それに今初めて見ましたが泣いているお嬢様のお顔は儚げで美しいと思いました。様々な表情を持っているお嬢様はなんだか紫陽花の花のようですね。花びらの一枚一枚がそれぞれ違う色でその時によって見え方が変化する。今のお嬢様はさしずめ、雨露に濡れた可憐な紫陽花といったところでしょうか。それくらい心奪われる魅力がありました」


「…………」


 いつになく、ものすごく褒めてくれるアンナに私は言葉を失います。


 そんなアンナは相変わらず視線を伏せたままでいて、両手を胸の前で落ち着きなく動かしています。やがて、戸惑いながらぎこちない手つきで私の両腕を掴むと、


「ーーーーごめんなさい」


 そう呟いたアンナは可愛らしいその顔を私の方へと近づけ、自身の唇と私の唇を重ねました。



















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