汚ならしいぃぃぃ!
「汚ならしい! 汚ならしい! 汚ならしいぃぃぃぃ! 汚ならしいわ、ローレライ!」
ベアトリック様は自身の身体を抱きしめるようにして激しく震えながら言います。
「だってあなた、だってローレライ。そんな事って……そんな……ああっ! ああっ! 汚ならしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
激しく興奮しているベアトリック様の隣では、アレンビー様とルークレツィア様も露骨に嫌そうな表情でいて、私の事をまるで汚い物でも見るような眼差しで見ています。
「はぁっ……はぁっ……。よ、よく聞いてローレライ、私ね昔、本で読んだ事があるの。この豊かな大地と豊かな世界には様々なものが協力しあって今のこの状態が保たれているって。だから、そう。分かりやすく言えば畑で採れるお野菜なんかはすごく分かりやすい例よね。私達が知らないところで虫達が土を綺麗にしてくれたり、肥えた大地にしてくれる。そこで美味しい立派なお野菜が採れるのよ。そんな美味しいお野菜を食べちゃう虫も中にはいるけれどね」
ベアトリック様は土作りや野菜作りの基本知識を述べ始めました。でも、なぜ今そんな事を言い出したのかは私には分かりません。それがいったい何だと言うのでしょう?
「私は美容の為にたくさんのお野菜を食べるようにしているわ。ローレライあなたはどうかしら? お野菜は好き?」
「はい……」
「そう、気が合うわね。良かったわ。でもね……ローレライ?」
ベアトリック様は私の顔を覗き込むようにして言います。
「お野菜を食べる時は、土や虫を綺麗に洗い落としてから食べるものよ⁉︎ それをあなたっ……ああっ! テーブルに汚ならしい虫を並べて、泥まみれのテーブルで、一緒にアップルパイを食べていたのぉぉぉ⁉︎ ああっ! あっ……あああっ! 汚ならしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「ローレライ。あなた本当に大丈夫なのですか? もう少しちゃんと勉強した方がよろしいですわ。その内、絶対身体を壊してしまいますわ」
「うへぇ……虫を食べる人種もいるって聞いた事はあるけれど、まさかこんなに近くにいただなんて……あ、でもローレライは食べてはいないんだっけ? あくまでもテーブルに虫を並べてパイを食べただけで……それだけもゾッとしちゃうけどね」
違う。
「虫に土やお野菜を作らせて、私達貴族はその仕事結果だけを受け取ればいいのよ。支配する側とされる側、互いに仕事内容が決まっていて違っている。虫は私達の為に存在していて、私達の為に仕事をして、私達の為に死んでいく。当たり前の事じゃない?」
違う。
「もちろん、虫を褒めてあげるのは大事な事ね。それに感謝もしなくっちゃ。だけど、だからと言って虫と同じテーブルにつくのは変じゃない?」
違う。
「そういうところなのよね。あなたの価値観のズレ、はっきり言ってかなり異質だわ。感謝するのならお父様やご先祖様になさいよ。今、あなたが貴族であるのはそういった方々のおかげであって間違っても虫のおかげでは無いのだから」
違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違うーーーー。
みんな、虫なんかじゃない。
アンナは、虫なんかじゃないっ!
 




