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婚約破棄された男爵令嬢〜盤上のラブゲーム〜  作者: 清水ちゅん
2章 お茶会
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迫りくる恐怖

 向けられる視線。


 まるで値踏みでもするかのように私の身体を上から下へ、下から上へ眺めるベアトリック様。その目は全く笑っておらず、鋭く、い貫くようにして私の全身へと向けられます。


 また、その眼差しからは感情が全くと言っていいほど伝わってきませんーーーーいえ、違いますね。感情は伝わってきます。ただその感情がどのような感情なのか、うまく輪郭を掴む事が出来ません。


 朧げに伝わるこの感じは……怒り……もしくはただ単純な悪意とか……そんな感じでしょうか。


 でも、なぜ、ベアトリック様が、そんな風に、私を……。


 私の心は一瞬で恐怖に支配されてしまい、咄嗟にベアトリック様から視線を外しました。


 何が起こったんですか……いったい何がどうなったんですか? あそこに座っているのは本当にベアトリック様なのでしょうか。もし本物のベアトリック様だとしていったいどうされたんでしょう? 何をそんな……。


 言い知れぬ恐怖心から、私の目には自然と涙が溢れてきました。


 両手を胸の前でぎゅっと握りしめて、何とか気持ちを落ち着けようと試みますが身体の震えが両手へと伝わり落ち着くどころではありません。


 アレンビー様とルークレツィア様の方をちらりと見ると、お二人もさっきまでの和やかな雰囲気ではなくなっていてベアトリック様と同様、言い知れぬ重い空気感を放ちながら横目で私を見ています。


 本当に何なんですか、これ。いったい御三方はどうなされてしまったのですか。


 私が場の雰囲気に戸惑い今にも泣きそうになっていると、


「こっちへいらっしゃいよ、ローレライ」


 そう言って、ベアトリック様は不敵な笑みを浮かべながら私に手招きをしています。


 私は反射的にベアトリック様の方へ歩みよろうとしますが足がいうことを聞かず、ふらつきながら二、三歩前に進むのがやっとでした。


「あっ……足が……」


 まるで別の生き物のようになってしまった私の足は一向に動く気配さえなく、力さえまともに入りません。


 すると、その場から動く事が出来ない私を見かねたのかアレンビー様とルークレツィア様が私の方へ歩み寄って来て、お二人は私の両腕を掴み抱えるようにしてベアトリック様の所まで運んで下さいました。


「あ、ありがとうございます。アレンビー様、ルークレツィア様」


「…………」


「…………」


 お二人にお礼の言葉を述べましたが、お二人はうつむいたままで何も喋りません。


 そして、


「さあ、早く本当のお茶会を始めましょうよ。楽死んで逝ってちょうだいね。ねえ、ローレライ?」


 ベアトリック様は優雅に椅子に座って口元を扇子で隠し言います。しかし、そのお言葉からは今までにない特別な恐怖を感じます。なぜでしょう。


「ーーーーは、はい。ベアトリック様」


 私はベアトリック様が言う本当のお茶会という言葉の真意がよく分かりませんが、無視するわけにもいかないのでとりあえず返事だけする事にしました。


 私の両腕を掴んだままのアレンビー様とルークレツィア様は相変わらずうつむいたままでいて、やがて肩をわずかに揺らしながら笑い始めました。


 何が可笑しいのか私には理解出来ませんでしたが、そんなお二人の笑う姿に私は安堵しました。


 だって、怖い顔より笑顔の方がいいですよね。


「あの……ベアトリック様? 私はいったいどうすればよろしいでしょうか? あっ! 紅茶のお代わりをメイドの方にお願いしてーーーー」


「あっはははははははははははははは!」


 突然、ベアトリック様が大きな声で笑い始めました。すると、ベアトリック様に続くようにアレンビー様とルークレツィア様も笑い始め、重苦しかった薔薇園の雰囲気は一気に吹き飛んでしまいました。


「あ、はははは……」


 私は皆様が何が楽しいのか相変わらず理解出来ませんでしたが、重苦しい空気が吹き飛んだのが何だか嬉しくて一緒になって笑いました。


 そして、


「ーーーーははは。はぁ……ローレライ。あなた、今日は何しにここへ来たと思っているのかしら?」


「それは……お茶会に、ベアトリック様がお誘い下さった、この、素敵なお茶会に……」


「そうね……。でも、まさかあなた。本当に紅茶を飲んでお菓子を食べて、それで帰るつもりだったの?」


「えっ……?」


 ベアトリック様の言葉の真意が分かりません。紅茶にお菓子、それに楽しい会話。他に何があるんでしょうか。


「何か違和感が無いかしら……?」


「違和感、ですか……?」


「ええ、違和感。この場全体を考えて、ものすごく違和感があると思うのだけれど……何かしら? ねえ、アレンビー嬢。あなた分かる? 私が感じている、この違和感」


「ええ、もちろん。ずっと感じていたもの」


「ーーーーそう。あなたは? ルークレツィア嬢」


「お茶会が始まる前からずっと感じていました。正直、その事が気になって気になって落ち着きませんでしたし、内心腹立たしく感じていました」


「あら、私と全く同じね。良かったわ」


 ベアトリック様は私の方へちらり視線を送ると、私の答えを待っているような素振りを見せました。


「…………申し訳ありません。私には、分かりません」


 何度考えても、皆様の言う違和感の正体に気付けない私は視線を伏せベアトリック様に謝罪します。


 すると、ベアトリック様は扇子をぱたりと閉じ、閉じた扇子で私を指し示し言いました。


「貧乏男爵の娘風情がこの神聖な薔薇園にいるのが気にくわないって言っているのよ」







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