表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された男爵令嬢〜盤上のラブゲーム〜  作者: 清水ちゅん
2章 お茶会
25/125

リラックスして

 ベアトリック様が目配せすると、それからものの十秒くらいで華やかな甘い香りをふりまくティーセットがメイドの方々によって運ばれて来ました。


 恐らくは侍女の方がずっと後方に控えていてベアトリック様の合図を待っていたのでしょうね。そしてベアトリック様の合図を受け、すぐさまここからは死角になって見えない位置にいるであろう運搬係のメイドさんに指示を飛ばしたのでしょう。合図からこの短時間でティーセットを運んでくる手際のよさ、少し怖いくらいです。


 このお屋敷全体に侍女の方が配置されていて、合図があった次の瞬間には行動が終えられるようにスタンバイしているのでしょう。全神経を研ぎ澄まし、ただその一瞬を待ち構えている。素晴らしい働きぶりだと思います。まさにプロのお仕事です。


 手際の良さも凄いのですが、それにしても全く気配を感じませんでした。私が入って来た時にも当然テラスの今いるあたりにいらっしゃった筈なのですが、全く気付きませんでした。


 なんというかレベルが桁違いですね。仮に私がこのお屋敷で働いたとしたらきっと一日で即クビにされてしまうと思います。いえ、半日くらいでしょうか……。


 それにさすが公爵様のお屋敷で働く侍女の方ですね。身なりや佇まいが綺麗です。着用している仕事着も落ち着いた印象の深いワインレッドですごく上品ですし、見ようによってはドレスを着ているようにも見えます。当然あれが一人三着程度は支給されているのでしょうからまた驚きです。 


 ティーセットを運んできたメイドさん達が着る黒を基調としたメイド服もかなり上質な布で作られていて、こちらは侍女の方と違って落ち着いた印象というよりも、どちらかと言えば可愛らしい印象といった感じでしょうか。


 配膳を担当するメイドさんのその多くが若い女性である事がほとんどなので、当たり前といえば当たり前なんですけどね。


 それにしても本当に可愛らしいお洋服ですね。細部にまでフリルがついていてアンナが着たらすごく可愛くなる事間違いなしです。


 いつか着せてあげたいですね。いつもの安価なメイド服じゃなく、とっても可愛いメイド服。


 可愛い子には可愛いものが良く似合う。これも当たり前ですけれどね。


 いけません、私とした事がつい注意力が散漫になっていたようです。御三方に対し失礼があってはいけません、絶対に。私が失礼を働けばお父様にもご迷惑がかかる事になるんですから。集中集中。私、集中。


 さて、まず現状ですが私がいるのはついさきほど外から見ていた圧巻の薔薇園の中でして、辺り一面どこもかしこも薔薇の花に囲まれています。そんな場所に立っているとまるで不思議の国にでも来たような気分になってしまいます。そして薔薇園にあつらえられたテーブルセットに腰掛け、メイドの方々が手際よくカップに紅茶を注いでくれているのを私達は静かに待っています。


 注がれている紅茶から甘い濃厚な香りが立ち上っていますが、ポットの中はやはりローズティーでしょうか。


 圧巻の薔薇園でいただくローズティー。


 身体の中も外も全部薔薇づくしですね。


 カップから視線を外してふと前方を見ると、あろう事かベアトリック様と目が合ってしまいました。


 私は反射的に肩がビクついてしまいましたが、ベアトリック様と同じように微かな笑みを浮かべてどうにか誤魔化しました。


 そうでした。この圧巻の薔薇園も異常なのですが、それを優に凌ぐ異常さはこのテーブルを囲んでいる方々でした。


 何の罰ゲームなんですかこれ……。本当にもう嫌だ、今すぐ帰りたい。帰ってアンナを思い切り抱きしめたい……。


 私を取り囲む異常すぎるほどの異常事態に勝手に自滅しそうになっている私ですが、そんな私の事など気にも止めずに時間はただただ流れていきます。


 やがて、紅茶の準備を終えたメイドの方々がテーブルから足早に離れていき、ベアトリック様がテラスの方へと視線を送り右手を宙で軽く振るようにすると、パタンとドアの閉まる音が微かに聞こえました。


 目の前のカップからは芳醇な甘い香りが立ち上っています。


 ドアの閉まる音が完全に消えたタイミングでベアトリック様は胸の前で両手をパチンと打って、


「さあ、もう誰もいないからリラックスして!」 


 と、無邪気な笑顔で言ったのでした。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ