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婚約破棄された男爵令嬢〜盤上のラブゲーム〜  作者: 清水ちゅん
2章 お茶会
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大地の子

 木製の車輪が回ってカラカラカラと小気味のいい音色が鳴っています。


 私はこの音色が大好きで、お父様が言うには私がまだ赤ん坊の頃はこのカラカラカラという車輪の音色を聞かせると、それまでどれほど泣きじゃくっていてもすぐに泣き止み機嫌が良くなっていたらしいです。


 もちろん私にはそんな記憶はないのですが、この音色を聞いていると気持ちが落ち着くのは事実です。


 目を閉じて聞いていると眠ってしまう事もしばしば。


 なので、私にとってこの音はさながら子守唄のようなものなのでしょうね。


 どんなに心が乱れていても穏やかにその心を癒してくれる魔法の音色。


 魔法、ですか。


 恥ずかしながら、私も幼い頃は魔法使いになりたいとずっと思っていましたね。


 もちろん、絵本で読んだ悪い魔女のような魔法使いではなく、みんなを幸せに出来るような可愛い魔法使いにですが。


 でも、幼い頃のそんな夢は現実を知れば知るほど遠ざかっていって絶対に叶わないと知る。色々ケースは違えどみなさんも当然、経験済みの事でしょうが。


 しかしそれでも魔法と呼べるものなのかは分かりませんが、呪術だとか呪いだとかいう恐ろしい不思議な力は本当にあるらしく、大昔にその力を使って王国を支配しようとした貴族もいたようです。なので絵本に出てきた悪い魔女はその貴族をモチーフにして作られたのだとかなんとか。


 もう何が本当で何が偽物なのか、魔法はあるのかないのか、分からなくなってしまいますね。


 それでも、たった15年という浅い経験と知識しかない私が出す答えは、魔法なんてないです。


 それくらいの常識は持ち合わせています。悪い貴族と魔女なんて、きっと幼い子供に言い聞かせるためのおとぎ話です。


 そんな事をつらつらと考えているうちに、馬車の揺れが次第に小さくなってきました。


 ポーンドット男爵領とダグラス子爵領を抜けてギネス伯爵領へと入ったと言う事でしょうか。そうなればニルヴァーナ公爵領ももうすぐですね。


 窓の外に視線をおくるとずっと続いていたのどかな畑の景色から一変して、木々が鬱蒼と生い茂る広大な森が辺り一面に広がっています。


 ギネス伯爵が治める領地にはとても巨大な森があって、その広さは領地の約八割を占めるほどとも言われています。そんな巨大な森の中で育った鳥獣類の狩猟が日頃から盛んに行われており、このチェスター王国に豊富な食材を送り届けています。


 また、狩猟で培った弓矢の腕前は他の追随を決して許さず、ギネス伯爵の次男さんを筆頭にした平民の方々を含めた数百人からなる大規模な狩猟集団はギネスの矢とも呼ばれ他国にもその名を轟かせています。


 逆に私達のポーンドット男爵領とお隣のダグラス子爵領では負けず劣らずの広大な畑が広がっていて、畑で採れる穀物やお野菜などを国中に届けています。


 しかしながら残念な事に、我々ポーンドット男爵領に住む人達はギネスの矢みたいな素敵な異名ではなく皮肉のこもった、大地の子と呼ばれる事もしばしば。


 大地の子、と聞けば大地から恵みを授かり大地と共に生きている。みたいな大層な印象を受けますがその実は、泥まみれの子供と言う意味合いで、つまり泥にまみれて生きている取るに足らない存在というものです。


 地面に這いつくばって、泥にまみれて、卑しく天を仰ぎ見ている。


 そうしなければ生きていけないほど脆弱な存在。


 それがーーーー私達。


 まあ、そんな事を言っているのは本当に一部の貴族の方々であって、目に見えるような酷い差別があるわけでもありませんからあまり気にはしていません。


 それに、ここギネス領に住む人達も僅かですが畑で野菜などを育てていますし。規模は違えど結局私達と同じ事をしているんです。


 なのに私達だけが大地の子と皮肉を言われる。


 同じなのにまるで別物扱い。ようするに権力による偏見ですね。きっと。


 偉い人がやっているから高尚だとか、低い身分の人がやっているから低俗だとか、そんな根拠も何もないそんな話。


 どうしてそんなに他人と比べたがるのでしょうか……。


 私にはよく理解出来ません。




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