荘厳な庭園にて
息を飲むほどに立派な庭園で、場にいる全ての人間が頭を垂れています。
これほど大勢の人が、同じ場所で、同じ方向に向かっているというのはとても凄い事なのではないでしょうか。
そんな全ての出来事が新鮮な私はついつい視線を辺りに走らせます。
していると、
「皆、楽にしてくれ」
そんな言葉がぽつりと聞こえた途端、辺りの空気が一変しました。
それまで張り詰めていたものが瞬時に弛緩したように感じます。それでも、芯のところは相変わらず張り詰めたままのようですが。
それほどまでに影響力のあるお言葉なのでしょう。
視線を上げた先には、チェスター王国国王ハルバート・ウィンチェスター陛下と王妃のミルザ・ウィンチェスター陛下が並んで立っていらっしゃいます。
そんな両陛下の向かって左側、わずか後方にはキングス・ウィンチェスター王太子殿下が真新しい正装に身を包み、若干緊張したご様子で立っていらっしゃいます。
「ーー皆、今日は集まってくれて感謝する。さっそくだが、知らせにあった通り息子のキングスとアヴァドニア公爵令嬢ジェシカ・ユリアン嬢との結婚の日取りが正式に決まった。言うまでもなく、二人の結婚はこの国にとって重大なものとなる。今後二人には、この国を更に発展させるべく尽力してもらわねばならぬし、私達も当然それに惜しみ無く協力するつもりだ。だが、この国が更に大きく発展していく為には国中の人々が同じ方向を見据え共に力を合わせて前に進む以外にはない。そこで二人の結婚を期に今一度、皆と気持ちを一つにしたく集まってもらった次第だ。皆、二人の結婚を祝福しこれからも国のため協力してくれるだろうか?」
陛下の問いかけに、庭園のあちらこちらから一斉に盛大な拍手が鳴り始めました。
「ーーありがとう。皆の気持ちしかと受け取った」
言いながら、ハルバート陛下が右手を上げると数人の方々が両陛下の前へと歩み出て来ました。
その方々は両陛下に対し深々と頭を下げ、王太子であるキングス殿下の方へと向き直ります。
発光するような金色の髪に鮮やかなドレス姿、遠目でも分かります。
「ジェシカ様……」
アヴァドニア公爵様に手を取られ、その御令嬢たるジェシカ様が一歩一歩ゆっくりとキングス王太子殿下の元へと歩み寄ります。
そして遂に、キングス王太子殿下の元へと辿り着いたジェシカ様はアヴァドニア公爵様の手から離れキングス王太子殿下の手をとったのでした。
その瞬間、またしても盛大な拍手が巻き起こりました。
そして、私の胸の内では何とも言いようのない悲しみにも似た感情が渦を巻きます。
皆が注目する中、手を取り合ったお二人は深々とこちらへ向かい頭を下げます。
いつまでも鳴り止まない拍手喝采の中、幸せそうなジェシカ様のお姿を見つめ、私は自分の胸の中に溜まった酷く重たい感情をため息と共に静かに漏らしました。