召集
「ーーローレライ! ローレライ!」
慌ただしい空気感の中、お父様が声を張り上げ私の名前を呼びます。
「ーーはい。私はここです」
「おぉ、ローレライそこにいたか」
「どうなさったんです? そんなに慌てて」
「召集がかかったのだ」
「召集……ですか?」
「うむ。ハルバート国王陛下からな」
「国王陛下から……いったい何事なのでしょう?」
「王太子殿下の正式な婚姻の日程が決まったそうだ。だから、その発表を兼ねて王国中の貴族達を一堂に会するおつもりなんだろう」
「という事は……」
「ーーああ。遂にキングス・ウィンチェスター殿下とジェシカ・ユリアン嬢が結婚するという事だな。兼ねてより期待されていたジェシカ嬢のウェディングドレス姿が見られるぞ」
「…………」
「ローレライ、お前も楽しみだろう? あれほどお美しいジェシカ嬢のウェディングドレス姿なんだ、きっと今までに類を見ないお美しいお姿に違いない。お前もそう思うだろう?」
「ええ……まあ……」
「国を挙げての盛大な式典となるだろう。お二人のお祝いもさることながら幅広く深い人脈を構築するチャンスとも言えるからな、今から準備をしてかおかないと……ローレライ、お前もなるべく多くの人と触れ合って新たな人脈を築かなくてはいけないよ?」
「はい。分かりました」
「召集がかかったのは三日後だ。その日も当然、国中の貴族達が集まる筈だから失礼のないように気をつけるんだよ? まして今回は単なる召集ではなく結婚のお祝いパーティーをやる筈だから心の準備もしっかりとしておかないとね」
「はい」
「ニルヴァーナ公爵令嬢はあの怪我では残念ながら欠席だろうね。あっ、あとウェルズリー侯爵令嬢とギネス伯爵令嬢も不運な事に大怪我をして入院していると聞いたが……若い女性ばかりが次々に大怪我をするなんて……ローレライも怪我をしないように気を付けてくれよ?」
「は……はい」
「では、私も残りの仕事を片付けてさっそく準備に取り掛かるとしよう」
お父様は用件を伝え終えると足早に自室へと向かいました。
「…………」
ご結婚なさるんですね、ジェシカ様。
まあ、その事は以前から決まっていた事ですし今更驚くような事でもないのですが、ジェシカ様の美しさに魅せられ虜にされてしまった私としては複雑ですね。
ですが、今やジェシカ様に嫌われ失恋状態でいるので素直におめでとうございますと言って差し上げる事は可能かもしれません。
仮に今現在、ジェシカ様に嫌われていなかったとしても私とジェシカ様が結婚するなんて未来は絶対にないし、私がジェシカ様を幸せになんて出来るはずが無いので私自身の想いを押し殺してでもお祝いして差し上げなければいけないのですが。
私はジェシカ様を前にして笑えるのでしょうか?
笑って、おめでとうございますと言えるでしょうか?
そもそも、ジェシカ様は大嫌いな私にお祝いなんてして欲しくないんではないでしょうか?
当日、多くの人に紛れてこっそりとお祝いした方がいいのかもしれません。せっかくのおめでたい雰囲気を、ジェシカ様の幸せを邪魔してしまわないように。
うん、きっとそれがいいですね。
決して気付かれないように、邪魔しないように、密かに芽生えたいけない恋心に、終止符を打ちましょう。
その覚悟を決める事こそが、さっきお父様が言っていた心の準備という事なのでしょう。
「ふぅ……」
大好きな、それでいて嫌われている人にお会いするというのも、かなりの覚悟が必要ですね。




