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婚約破棄された男爵令嬢〜盤上のラブゲーム〜  作者: 清水ちゅん
4章 おまじないがもたらすモノ
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本音と本当の名前

「ーーねえ、ローレライ」


「はい?」


「温かいわね」


「ーーはい。とっても」


「ねえ、ローレライ」


「はい?」


「気持ちがいいわね」


「はい。とっても」


「ねえ、ローレライ」


「はい?」


「心が安らぐわね」


「はい。とっても」


「ねえ、ローレライ」


「はい?」


「あなた、いつもこんな気持ちでいるの?」


「そうですね……晴れた日は特に。見ての通り、ここは周りに畑しかないから、楽しめるものと言えば自然くらいなんです」


「そう……」


 ぽつりとそう呟くと、ベアトリック様は深呼吸をひとつなさいました。


「ねえ、ローレライ」


「はい?」


「私……綺麗?」


「はい。とっても」


「……本当?」


「はい」


「ねえ、ローレライ」


「はい?」


「私の事……どう思ってる?」


「…………」


「いい気味だとか……思ってる?」


「…………」


「本当は今すぐにでも消えて欲しいって……思ってる?」


「…………」


「こんな程度の怪我じゃなく、いっそ死んでれば良かったのにってーー」


「ーーあのっ!」


「…………」


「…………」


 どうにも耐えかねて出した私の大声に部屋の中はしん、と静まりかえりました。


「……思いました。怪我をした事については、そう思いました。そんな不謹慎な事、思っちゃいけないって分かってるんですけど、そう思っちゃいました。そしてそんな事を思う自分自身にひどく腹が立ちました。嫌気がさしましたし、軽蔑もしました。見損ないました。嫌いになりました。信じられなくなりました。だから……ごめんなさい……」


「…………」


「……見損ないました? 私の事……」


「…………」


「最低な人間だって……思ってます?」


「…………」


「人の不幸に喜びを感じる悪女だって……そう思ってます?」


「あっはは、あっははは、あっはははは!」


「…………」


「ねえ、ローレライ」


「……はい」


「あなたって本当にまっすぐなのね。見た目通り、期待通り、決して意外性を持たない……嫌いだわ、あなたのそういうところ……」


「…………」


「だって、あんなに酷い目に合わされたのなら今の私を見ていい気味だって思うのは普通だもの」


「…………」


「なのにあなた、まるでそれが異常な事であるかのように思っているんだもの。しかもわざわざそれを相手に打ち明けたりして……普通はそういうのって心の中に隠しておくべき事でしょう? 相手には内緒でほくそ笑むべきところでしょう?」


「…………」


「先日のお茶会でも言った事だけど、あなたって本当にチェスで使うポーンみたいね。ひとつひとつ堅実で、真っ直ぐで、弱々しくって、決して期待を裏切らない。いいえ……あなただけじゃない……私達はみんなそう、ルークレツィア・カトレット嬢はまさにルークの駒のようにどこまでも勢いよく真っ直ぐに、アレンビー・ビショップ嬢はまさにビショップの駒のように斜に構え斜め斜めに突き進んで行くんだものね……そして私、ベアトリック・イーンゴットは絶対女王クイーンと言われている……」


「…………」


「ポーン、ルーク、ビショップ、クイーン。それぞれがそれらの駒のように生きる私達だけど、ローレライ……あなたは少し違う」


「…………」


「あなたは確かにポーンの駒のようではあるけれど、決して人間らしくない。綺麗すぎるのよ……」


「…………」


「どこまでも真っ直ぐで、堅実で、透明性さえ帯びるほどに綺麗なのよ。光はあれど闇がない。善であれど悪がない。私からしたら何を考えているのか、もうさっぱりね……。人間らしくなくって、人間離れしている。もはやそれって化け物じゃない。だから嫌いなのよ、あなたの事」


「…………」


「最弱のポーンだってね……真っ直ぐにしか進めない訳ではないし、きちんと韜晦(とうかい)しているんだから……最果てを目指して、ね」


「…………」


「はぁっ……本心を見せてくれたあなたに少しお礼でもしようかしら?」


「お礼……?」


「ーーええ。さっきも言ったと思うけれど、私はクイーンと呼ばれる事がしばしばある。けれど、本当は私なんて全然クイーンなんかじゃないのよ。ねえ、ローレライ。じゃあ、いったい誰がクイーンだと思う?」


「それは……やはりジェシカ嬢でしょうか?」


「そうね。この国の貴族で一番力を持ったアヴァドニア公爵家、その令嬢たるジェシカ・ユリアン。あの子がクイーンと呼ばれるに相応しい存在でしょうね。私もそう思うわ」


「はい……」


「けれど、あの子がクイーンと呼ばれるに相応しいのは、なにも地位や権力といったものが理由じゃない」


「…………?」


「ローレライあなた、あの子の本当の名前って知ってる?」


「本当の名前?」


「ええ……。ジェシカ・ユリアンは今の名前。あの子の、過去の、本当の名前はーージェシカ・キラークイーン」






 4章 終わり




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