3日目-2
太陽光にカメラを向けてはいけません!
「昨日は君の目を義眼師のところに引き取りに行ったんだよ。ほら、」
そう言って、彼は手の中の小さな芸術品を陽の光にかざした。
「君の目だ。こだわりにこだわって作ってもらった義眼でね。できればこの目も僕の手で作りたかったんだけど。だけどね、一応僕の手でいくつか試作品は作ってみたんだけど、僕の理想には遠く及ばなかった。だから、国内最高の義眼師に依頼したんだ。彼は僕の要望を最高の形で叶えてくれたんだよ。夏の空の深く深くどこまでも潜っていけそうな暗く深く遠い青は瞳。その周りの虹彩は深海の青から、常夏の海の浅瀬の明るく透明感のある青へうつろうように。彼は本当に美しい義眼を作りあげてくれた。ほら…...。目はなくても君も感じるだろう?」
ー彼は離れにある光差し込む小さな窓に向かって2つ目の目も1つ目と同じようにかざしている。。ああ、そうだ。あれをやってみようか。カメラを光の方に向けて、僕自身の目を傷つけないよう、何があっても絶対にファインダーは覗かないように手で覆って。昔、映画の世界では御法度と言われていた太陽光にカメラを向ける。僕の目に映る、真っ白な朝の柔らかな光の中に、小さなガラス玉の中の空がぽつりと浮かぶ光景は、カメラの中でも同じようにどこまでも退廃的で、もろく崩れてしまいそうなほどに張りつめた緊張感を持っているのだろうか。そうであって欲しいと、願う。
彼はしばらく瞳を白い物体と共に眺めた後、机に向かった。
ー彼は花の彫刻のある木製のペン立てらしき長方形の箱から、細いメスを取り出して机の上に置くと静かに、丁寧に彼の子供が育つ試験管の蓋を開けた。キュポンと可愛らしい音がなり、試験管の中の液体がゆったりとゆれる。と同時に中の白っぽい物体も横にゆらゆらと揺れた。僕にはとても生命が宿っているようには見えないその物体にしきりに話しかける、彼。いかに彼の特注の瞳が美しいか、白い肌に青い瞳はさぞかし美しいであろうことを熱心に語りかけている。
「これを今から君の目として組み込むよ。......少し痛いかも。ごめんね。」
ー話しながら彼は、彼の熱のこもった言葉に返事もしないその物体の顔らしき場所のほんの少しもりあがったところに迷いのない手つきで細く一筋メスを入れる。メスを、入れたのだ、彼がヒトであると考えているモノに。
すると驚くべきことにメスを入れられた先にはぽっかりとビー玉くらいの穴が空いていた。そこに彼は小さな宝石のような義眼を入れる。つぷり、つぷりと。
不思議なことに、瞳を入れられた後、ひとりでに瞳は閉じてしまった。
「ああ!とうとう君の目は私の姿を写してくれるのか!愛おしい君。君からみた僕の姿はどんな風に君の目に映っているのだろう。想像するだけで幸せな気持ちになるよ。こんな感情ここ10数年の間抱いたことがなかったけれど……。君のおかげだね。それにしても太陽の下でみる君の目は本当に美しい。この色にして良かった。この瞳の色は僕の一番好きな色なんだ。雪のような滑らかで真っ白な君の肌と真っ青な君の瞳がとても神秘的だよ。」
ーその後も彼の愛の囁きは続いた。それは瞳の美しさに始まり、白い物体の身体の細かな造形まで及んだ。長い間それを聞かされていると、本当にそんな気がしてくるから不思議だ。見るからに試験管の中の胎児とも呼べない存在にしきりに話しかける男の様子は異常な光景であるはずなのに、最近その光景に慣れつつある自分がいる。この白い物体は僕の知らない人間のほんとうに初めの頃の姿形をとっているだけなのではないだろうかと思ってしまう。