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試験管ボーイ  作者: 森中満
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3日目-1

3日目



この子は美しいだろう?

ーーやっと僕にも分かったよ。あなたは狂ってるんだ。



昨日は結局撮影はできなかった。昨日彼は友人が帰った後、一度母屋に帰ってきてそれから一人で出かけてしまったのだ。どうしても実験に使うものを買いに行かなければならなかったらしい。それだけなら何も気にすることはなかったのだが、問題なのは彼は自分が同じ部屋にいるときにしか、僕を離れの部屋に入れてくれなかったこと。おかげで僕がまるで1日坊主であるかのような映像記録になってしまった。いや、逆に潔いかもしれないけど。


「誰に向かって言い訳してるんだか。」


思わずそう口に出していた。やはり僕もクリエイターの端くれだということだろうか。何かを作るとき必ず他人の目を意識してしまうのだ。この当たり前を”当たり前”にできない、いや、やらないクリエイターこそが天才と呼ばれる人種なのだと僕は思う。


朝ごはんは軽くとった。きつね色に焼けたトーストと麦茶。あまり朝から胃袋を膨らませると撮影中に眠くなってしまうから、朝ごはんはいつも少しだけで済ませている。もちろん彼はもう母屋にはいない。彼の朝は早いのだ。


ひと通り朝食の後片付けを終えて外に出た。外は相変わらずの晴天で、あまりにも陽光が眩しすぎて外に出てしばらくは景色が白くとんで見える。強い光に目をやられて、しばらくは苔のような緑色の残像が見えていた。しばらく歩くと木立の中の離れが見えてくる。その頃にはようやく目が外の光に慣れてきて、光の下に立ち並ぶ木立の緑が美しい。ありがたいことに、今日は風がなかったようで、僕はこの前のようにほこりまみれにならずに済み、今日も木の扉に手をかけた。


今日も、まあ、まだ実質的には2日目だが、離れのドアノブをひねり中へ入る。途端に光がなくなって、また視界が緑色に支配される。ほんの少しの立ちくらみ。くらりとした陶酔感。これは本当に眩しすぎる光のせいだろうか?ああ、そうだ。ビデオカメラを構える自分に少し酔っているのも確かだ。


「…昨日はごめん。君に必要なものを買いに行ってたんだ。構ってやれなくてごめんね。ああ、またきたのか、君は。」


ーー気にしないで。


ー彼と、彼の愛人の邪魔をしないように、静かにモニターを開いて、赤い電源ボタンを押す。途端に聞こえるモーターの駆動音。彼とその愛人は何も言葉を交わさない。僕がカメラを構えてここにいなければ、きっとここはひどく静かな場所なのだろう。試験管に伸ばされた彼の病的なほど真っ白な手は、たおやかに薄いガラスの上を滑って、試験管の中の真っ白な物体も彼の手の奏でるわずかな振動で青っぽい液体のなかでゆったり揺蕩い、試験管の外にいるよりも居心地が良さそうに見える。


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