2日目-1
2日目
君は結局何がしたいんだ?
ーーそうだな、ただ僕は、僕がここにいたことを証明したいだけなのかもしれない。
きっかり朝10時。新しい光の中からあいつはやってくる。もちろん、離れの住人の彼ではない。
「何言っているんだか。」
不覚にも思わず一人で笑ってしまった。そういうとこだぞ、と以前友人に言われたことを思い出す。友人曰く、だから僕は恋人がいつまでもできないらしい。
木造二階建ての階段を降りて、玄関へと向かう。こんな朝早くにこの家を訪ねてくるのはたった一人以外ありえないから扉を開けなくても、ありありとそいつのしかめっ面が目に浮かぶ。
「入って。」
「あれはプロットじゃないだろ!」
くすりと笑う。こうして怒鳴り込んでくるときも、あいつは前日の夜9時までには律儀にもメールを僕に送ってくるのだ。以前僕が一人で住んでいたときはこんなに律儀ではなかったような気がするし、怒鳴り声もこんなに生易しいものではなかった気がするが、まあ、彼は気遣いができる男だということだろう。
「ちなみに、もう彼は離れに行ってるから気にしないでいい。」
「そうか……。彼はもう?」
本当に優しい友人なのだ。優しすぎるくらいに。
「本当に気にしないでくれ。」
この話題はもうこれっきり。
「で?あれのどこが気に入らないんだ?いつもよりも格段に簡潔で、明快だろう?素晴らしいプロットだと思うが?」
友人は、汚らしく汗染みができた茶色の革のカバンの留め具をがしゃんと外して、僕の送ったプロットを勢いよく目の前に突きつける、僕の顔の前で手を開く。床にはらりと一枚の白い紙が落ちた。思ったよりも白っぽかった僕の次のプロットだ。
「こんなプロット、誰にだって書けるんだよ!読んでやろうか?音読って、脳の活性化に役立つらしいからな、お前の隠居生活で錆びついた頭も少しはしゃんとするだろうよ!!」
友人はいかにも不快そうな声で読み上げる。
「登場人物は2人。片方は死んで、片方は生き残る。死体は密室の中で発見され、部屋の中にいたのは、その2人だけ。さて、犯人は誰でしょう?」
一瞬の間。ツッコミ待ちだろうか?つっこんであげないけど。
「こんなのわかりきってるだろ?どこが面白いんだよ、ああ?」
「そこが作家の腕の見せ所だろ?わかってないなあ。」
友人はぎろりとこちらを睨んできた。
「じゃあ、俺を納得させられるだけの根拠を持ってこい!それはそうと、前のプロットとまったく同じじゃないか!しかもお前はプロットと180度以上も方向転換したピュアなラブストーリーを持ってきた!そんな奴をどうやったら信じられるんだ?」
「僕が書きたい話を書いてる。その事実だけで十分だ。」
ー傲慢さは、自分の弱さを覆い隠すための大げさな嘘。
友人はピキリと音を立てそうなくらい顔を歪め、正確に言うと眉間にしわを寄せて、僕をにらんだ。
「俺の身にもなってみろ。お前が気まぐれに書いてくる原稿をただ待ってることしかできないんだぞ?この間にどれだけ売り逃してると思ってるんだ。販売部にも嫌味を言われるし。全く……。」
「相変わらず金の亡者だな、君は。」
「当たり前だ。これくらい貪欲にならないといまのこの業界ではやっていけない。お前もわかってるんだろ?」
「分かってる。毎度のことながら感謝してるよ。」