プロローグ① 俺は嫌われていた。
冷たい風が露出した肌に当たり、悴んだ手と手を擦りつけながら歩道を歩いていた賢二は、自分が立っている歩道とは反対側で手を繋いで歩いているカップルを目で追っている。
「いい歳した奴らが街なかで手をつないでいて恥ずかしくないんかねぇ。俺だったらぜってぇやらないわ。」
道路の反対側を歩いている40代の中年カップルに対して賢二は小言を言う。
「いいじゃないですか先輩!むしろ離婚や不倫ばっかりの世の中であれだけ仲睦まじい姿を見て逆にこっちの心が温かくなりますよ。」
そんなことを言っているのは賢二と同じ会社の後輩であるヨシミだ。いつもは別々で動いて営業をしている二人だが、今日は後輩であるヨシミのプレゼンをフォローする目的もあり一緒に行動している。
「あの中年カップルが不倫をやってんだよ、きっとな。お互い別々の家庭で溜まった欲求不満がここにきて大爆発なのさ。だから、あんな事出来るんだよ。」
後輩ヨシミの言葉をあっさり否定する賢二は、ただの推測で中年カップルへの批判を更に強くした。男女交際に関して賢二は、今まで付き合った事はあるが付き合い自体が長続きをした事がなく、現在彼の目に映っている中年カップルの仲睦まじい姿をどこかで羨ましいとか体験してみたいという感覚はあったのだが、その感覚を瞬時に批判という言葉で打ち消し妬みや嫉妬の類からきている言葉だということを彼自身は自覚をしていない。
「そうですか?そういうもんですかねぇ・・・。」
ヨシミは、偏見とあまりにも断定的すぎる賢二の言葉に呆れながらも、彼が会社の先輩であるために否定はせず流したのである。そんなヨシミの反応にも気づかず賢二は言う。
「今日のプレゼンは終わったし、早く会社に戻って明日の準備を終わらせて帰ろう。」
「あっ!でも先輩、今日会社の飲み会あるじゃないですか。やっぱり今日も行かないんですか?」
「あー行かない!飲み会終わりのカラオケも嫌いだし、金が勿体ない!仕事はちゃんとしてるし、飲み会にわざわざ行かなくても別にいいだろ。」
そうして二人は会社へと戻っていくのだった。
仕事も終わり真っすぐ自宅へと帰宅した賢二は、ひとりビールとスナック菓子を飲み食いしながらスマホをいじったりしていた。基本一人でいる賢二は何かと自分だけで行える何かを探している。そして賢二が最近ハマっているのはスマホのアプリ「数独」である。缶ビールをたまに口につけ、その後はただひたすらに数独をやっている時、後輩のヨシミから着信が鳴るのである。
ウザいなと思いながらも、今日一緒に同行した仕事の件で何か質問でもあるかと思いスマホの応答ボタンに触れ賢二は言う。
「もしもし?」
賢二の言葉に対してヨシミの応答は無い。
むしろ、「もしもし?」と言っている最中にもスマホの向こう側では複数の笑い声ばかり聞こえていたので、賢二は会社の飲み会の最中?と考えながらも「もしもし?」と言っていた。返事が無いので、どうやらヨシミのスマホは何かの拍子に賢二のもとに着信をしてしまったんだと解釈した。賢二は「やはりウザい着信だったな」と思いながら電話を切ろうとしたその時、
「あの先輩の独り言、マッッッッッジでウザいんすよ~。聞いてくださいよ!今日一日同行してたんスけど、何かを見るたびに文句ばっか言ってるんスよ。後輩の身としてはマジでたまんないッスよ↓」
「ギャハハハ(複数)」
明らかに後輩ヨシミの声であり、その内容を聞いて賢二の体は硬直する。
「分かる分かる。いっつも何かブツブツ言ってんだけど、それを面と向かって言ったりしないんだよなぁ。正直キモイんだよなぁアレ。やめてほしいよ。」
「ヨシミ大変だったな今日はw」
「マジ文句ばっか言ってキツかったっスよ↓しかも、昼飯食べて会計の時に何て言ったと思います?会計は別々で!ッスよ?ありえないでしょ!文句ばっか言って先輩面してるくせに、会計は別々かい!先輩面するならメシくらい奢れってんだよ全く。」
「ギャハハハh(複数)」
「おいおい、面白いけど飲むたんびに賢二話をするのは良くないぞ!・・・ん?あそこのカップル不倫だろw」
「でた!賢二w」
「hahahaha」
まさか自分がここまで言われているとは思いもよらなかっただろう。あまりの衝撃に強く胸を絞めつけられる感覚が駆け巡る。起きている現実を拒否するかのようにスマホの通話を切り、そして頭が真っ白になってしまった。
頭が真っ白になった時間は実際には5分もないだろう。しかし賢二にとっては体感として1時間近くに感じていた。何とも例えらえない虚無感が賢二を襲う。
何故ここまで言われなければならないのか。そんなに言われることをしてきたか?アイツ等が腐っているだけだろ!俺は嫌われていたのか。普段そんな態度とってないじゃないか!明日からどうする会社に行くか?どんな風に接すればいい?笑顔か?そもそもあいつ等が普段言ってくれないから俺も分からないじゃないか。何でこんな目に合うんだよ。ただの笑い話にしていただけじゃないのか?
考えているようで考えていない、悲しいのか怒りなのか悔しいのか何とも言えない状況がひたすら続いた末に賢二は苦しくてただただ涙を流していた。
初めての投稿で緊張しています。文章を出来るだけ良くしていこう思っていますが素人なので不出来な部分もあるはずです。申し訳ないです。
更新は週1回と決めています。