7話 思わぬ再会
今回も.....一種のトラブルにより投稿した話が修正前になっていたのでこういう形になりました。バグって怖い。
蓼は目の前に立つ....と言っても、馬に乗っているのだが、その男を凝視する。
短く整えられた髪、どこか優しげな表情に、落ち着くような声。
身長180cm以上あることを蓼は知っているが、馬に乗っているせいかそれ以上に思える。
磯貝.....
蓼は心でそう呟いた。
磯貝 尊。
それが奴の名だ。
イケメンな上に優秀な成績、スポーツ万能で2年生にしてバスケ部副キャプテン。
しかも誰にも優しく接するから、超絶人気だ。
おそらく......いや、確実に女子から一番の人気者だろう。
まさに、俺とは正反対って奴だな。
しかし......なぜこいつは俺が俺だと....?
ああ、フードか.....油断したな、どうせ遭遇しないだろうとフード取って歩いてたのが裏目に出たか。
「磯貝じゃないか、久しぶりだな。」
「ああ、久しぶり。君もこの街に来てたんだね。」
そう言いい、馬を下りた磯貝に、蓼は違和感を覚える。
こいつ.......鎧を着ているな.....しかもスチールアーマーだ。
これは結構高価な物だ。
つまり奴が着るってのは中々におかしい。
その割に、こいつは武器を持っていない。
だが、商業で稼いだ可能性は極めて低い。
まずこんな新人のもつ商品を買ってくれるような人間なんてほぼいない筈だ。
仮に居たとして、そして奇跡的にその額に達したとしてもこいつが鎧を買うのはおかしい。
それならボディーガードを雇った方がよっぽどいい。
なら冒険者となったか.....それとも傭兵等をして稼いだか。
だがこいつは武器を持っていない。
しかも馬は大量の荷物を背負ってる。
恐らくこの街に来たばかりだ。
でなきゃ、噂になって俺の耳に届くはず。
つまりどこかに預けた可能性も低く、この鎧を買う為に武器を売るだなんて行為も、こいつの頭からするとありえない。
つまりこいつは......おそらく勇者だ。
「それで?お前はなんでこんなとこに?つかなぜ馬。」
「ああ、こいつはリブっていう。俺はこいつと一緒に各地を回って人助けをしてるんだ。」
人助け.....まさかこいつ勇者の力をそんな事に使ってるのか?
馬鹿な....そんな奴....
「こいつを見てくれ。」
磯貝の手に、突然光が収束し始める。
それは棒のような形に変わり、やがて剣の形、そして完全な剣の形になった。
間違いない....こいつは剣の勇者だ。
なら、他の勇者の事も知ってるかもしれない.....ここは探りを入れてみるか。
蓼は直ぐに表情を変え、驚いたような素振りを見せる。
「す、凄い.....なんなんだそれは!?どうやったんだよ磯貝!」
「ハハハ、そんなにガッツかないでくれよ。___まあ、驚くのも無理はないか。俺も最初は驚いた。どうやら俺は、剣を作り出すことが出来るらしいんだ。」
「それってまさか.....あのわけのわからない奴が言っていた、勇者、という奴か.....?」
「ああ、多分な。」
「そ、それじゃあお前.....殺し合いを.....」
「そんなこと、俺がする訳がない。」
「でも、そのゲームとやらに積極的な奴がいれば?」
「その時は、俺が説得する。分かり合えられればもう同じ異世界人同士で殺し合いをすることは無くなる筈だ。」
「それで?その他の勇者とやらは?」
「それが......さっぱりわからないんだ。勇者同士互いが互いの居場所はおろか誰が勇者かすらもわからない。」
持ってないのか.....使えない奴だな。
うーむ、どうしたものか。
まあいい、別に今動かなくても奴は絶対に俺達が銃の勇者であると嗅ぎつける。
それまでゆっくりと待とう。
「津田君とこれだけ話したのは初めてだね。こんなに話せる人だったとは。」
「酷いな、確かにひきこもりではあったけど、別に話せない人間って訳でもない。それに、今この街で知ってる奴らは雪奈とお前、あとはここで知った奴らくらいだ。」
「ああ、やっぱり叶香さんと一緒なんだ。君達は仲が良いしね。___それで、叶香さんは?」
「さあな、逸れて探してたらお前とあった、ってとこだ。」
「そうか.....なら、俺も手伝うよ。」
「いや、いいよ。俺はなんとか出来る。だからお前は他にもっと困ってる奴の役に立ってくれ。そうして回ってるんだろ?」
「ふッ.....君にそう言われるとはね。そうか、じゃあ俺はこれで。じゃあね。」
「ああ、じゃあな。」
.......チョロ。あとなんか腹たつな。
さて.....14人中2人の身元が割れたな。
まあ、うち一人は顔だけで名前がわからないんだが。
瓦礫に埋もれてなかったって事は上の方ってことだよな.....じゃあ3年なのか?
いや、それよりもあの剣の召喚方法だ。.
銃の勇者と違いすぎる。
神(仮)の話によるとこの召喚方法は銃の勇者特有の物だ。
ってことは他の、武器などを召喚できる勇者もあんな風に出せる可能性が高い。
こりゃ不利だな...
まあいい、なんにせよ今は雪奈と合流するのが先か。
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ギルド内は全く人がいない。
ダニアスの話では早朝に賑わい、その後皆依頼を受け、夜に帰ってまた賑わうという。
壁に掛かった時計は午後3時をさしており、殆ど人はいない状態だが、酒場の机に一人、座ってトリテと呼ばれる揚げ物を口にする少女がいた。
蓼はその少女を見つけるなり近づく。
それに気づくと、その少女____雪奈は顔を上げた。
「どうしたの?」
「依頼受けては速攻でクリア、そしてギルドに戻って昼飯食って依頼受けて速攻クリア、またギルドに戻るとすぐ依頼受けて速攻クリア。これを日が暮れるまで繰り返すと。楽しいかよそれ?」
「まあ楽しい訳ではないけど退屈凌ぎにはなるわね。あなたはひきこもって本読んでるだけだし。逆に聞くけど、それは楽しいの?」
その言葉に蓼はハハハ、と笑い「お前と同じ意見だ。」と答えると雪奈の隣に座りトリテをつまむ。
「さて......剣の勇者が割れた。磯貝だ。しかもこの街にいるときた。」
その言葉を聞くと、雪奈はトリテを器に置き、真剣に話を聞き始める。
「_____壁外で話すか。」
それに頷くと、雪奈は再びトリテに手を伸ばす。
蓼も同じようにトリテをつまんだ。
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「奴....磯貝は馬に乗ってた。名はリブというらしい。まあこりゃどうでもいいか。奴は恐らく剣の勇者だ。目の前で剣を召喚して見せた。しかもその召喚の速さは使い勝手の良さそうなことこの上ない。召喚能力じゃ確実にお前が劣ってるな。」
ジャングルを歩きつつ蓼は磯貝の特徴をつたえる。
「それで?敵意は?」
「全く無し。それどころか説得する、とまで言い出した。」
「凄いわね....もし私達がぶつかったら?」
「200m先から蜂の巣にする。」
「やっぱり召喚能力に規制かけたのは妥当な判断だと思うわ....」
「いいや、そうでもない。色々と読み漁って来たが、どうやらこのゲーム、過去に何度も行われてるらしい。一番最近の本には174回と書かれていた。つまりこれは175回目以上だ。で、その本によると銃の勇者は.....最弱の勇者らしい。」
「へ?」
「最弱だ。第一回は銃の勇者が真の勇者となったが、それ以降は一度もなってない。たった一回しか真の勇者になってないのは銃の勇者だけだ。あと一番最近行われたゲームは380年前だそうだ。だから皆勇者の存在は確認してる。そいつらも銃の勇者は最弱の勇者言ってたしな。さらにさらにゲームの開始日は予言されてる。だから民衆の殆どはもうゲームが始まってる事を知ってるだろう。」
「どうしてかしら?」
「ん?」
「現代兵器に関する知識は全て手に入って、身体能力にも補正が掛かるはず。じゃあ別に最弱になっても勝数1は.....」
「まあ色々と考えてみたが多分あの召喚方法が問題なんだろ。まあ、これは置いておこう。本題はこれからだ。」
「なに?」
「このゲームがされる理由....わかるか?」
「さあ?ただ楽しんでるだけじゃないの?」
「まあそれもあるだろうが......実は、魔王の復活が近いらしい。」
蓼の言葉に雪奈は思わず「は?」と素で答える。
その反応を見た蓼は、やっぱりか、といい続けた。
「まあ信じられんだろうな。だが、事実だ。魔王とやらの復活が近くなったら、このゲームを始めて魔王を討伐する真の勇者を決める。これで色々とサイクルしてたらしい。」
「勇者全員で掛かるって手は無いの?」
「まあやった奴があるらしいんだが.....大敗したそうな。」
「それで?魔王は?」
「世界征服、その後この世界で崇められてる5大神が降臨、世界をお救いなさったそうだ。始めから神が頑張れば済む話な気がするんだがどうやらそれは通用せんらしい。」
「神って....それ何年前?」
「7500年前。」
「素晴らしい事になってるわね。本当なのそれ?」
「知らん、古代人の妄想を俺が理解できるはずも無い。__さて、話は終わった。俺的には早く帰りたい。だからとっととこれ終わらすぞ。まだ集めなきゃならん情報が山済みだ。」
「はいはい。」
そう答えるなり、雪奈は銃をとりだした。
使用武器:無し