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銃の勇者の英雄譚  作者: NAO
一章 時を駆ける者
5/15

3話 ティミタス

 

「ハァ.....ハァ.....まだ......つかないのか.....?」


 肩で息をしながら、蓼はそんな事を言う。


「まだ5分も歩いていないわよ?」


 その言葉に、面倒臭そうに雪奈はそう答えた。

 これで13回目である。


「5分23秒経過だ.....歩いてるっての.....ハァ.....ハァ.....」


「ちゃんと数えてるならすぐ済むでしょ?」


「引きこもりに......山道は......かなり.....辛いものがある.....」


「あ、見えたわね。」


「なに!?」


「嘘よ。」


 この日、蓼は初めて希望が絶望に変わる瞬間を知った。


 --------------------------------------------------


「ハァ.....ハァ.....やっと.....着い.....た......」


 蓼はゼエゼエと息を切らせながら近くの木に背を預け、座り込む。


「着いたって言っても、ここから見えるだけだけどね、あとはこの崖降りないと。____で?着いたらどうするわけ?」


 蓼は息を整えてから口を開く。


「_____この世界にはゴブリンやドラゴンといった異生物が存在する。当然、そいつらによる人里への被害も出ているはずだ。なら当然そいつらを狩る役職、ハンターみたいな物が存在する可能性が高い。だったらそこで金を稼げばいいだろ。」


「じゃあそれになるの?」


「いいや、まだだ。恐らく資格が必要になる。確かに日本語は通じた。だが文字まで一緒とは限らない。」


「つまり?」


「____ま、これは俺の得意分野だ、任せろ。」


「出来るの?」


 雪奈のその言葉に蓼は口角を釣り上げる。


「雪奈......僕の経歴を忘れたか?」


「____それもそうね、じゃあ任せるわ。」


「任されました。」


 そう呟くと、蓼は再び立ち上がった。


 --------------------------------------------------


「かなり賑わってるな....さて、図書館的なものがあれば楽なんだが.....」


 そう言い、蓼は街を見渡す。

 しかし、当然の事ながらなにがなんの建物なのか全く理解出来ない。


「ふむ.....仕方ない、誰かに聞くか。」


 そう呟き、雪奈の方を見ると、蓼の首の回転に合わせて首を180°回転、直ぐに目を逸らした。

 その動作を見て蓼は「アハハ......」と苦笑いをしつつ、聞き易そうな相手を探し始めた。


「_____彼奴とかどうだろう......」


 そう呟き、蓼は一人の男性に歩み寄る。


「すまない」


「?」


 蓼が話しかけると、その男は直ぐに反応した。

 ムキムキの筋肉に、鎧、そして特徴的な紋様の入った兜を被っており、腰には剣、背中には盾を背負っている。


「あの建物なんだ?」


「あれか?」


 男は蓼が指差す建物を一瞬見てから続けた。


「ああ、ありゃ図書館だ。」


 蓼が脳内でビンゴ、ととなえると男は付け加えるように言う。


「あんたらこの街は初めてか?」


「まあな。____それより、俺達のいた街では金は必要無かったんだが、この街ではどうなる?」


「まあ基本的には要らねえな、その場で読むならまず金は要らない。借りるなら、身分証が必要だが一定期間内に返さないと金を取られる。あと購入も出来るぞ。」


「へぇ、俺らの街とそう変わらないんだな。___ありがとう。」


「あいよ、また見かけたら声掛けてくれよな。」


 そう言うと、その男は去って行った。


「流石、コミュ障とは思えないようなコミュ力ね。」


 男が去った後、雪奈は直ぐに蓼へそう言った。


「当たり前だ、男相手ならなに一つ問題ない。だが......女性の場合はお前よりアガる。」


「全く.....なんで私はどっちもアガるのよ.....」


 雪奈はその後もブツクサ言い続ける。


 そう、僕らはコミュ障____一種の自閉症って奴だ。

 僕は雪奈以外の女性とまず話せない、幼女から老婆までその範囲は異常に広い。

 雪奈は僕以外の男女共に話せないが、僕ほどアガらない。しかもこれは個人的会話に限った話で演説、挨拶、必要な会話その他ではまず発症しない。いや発症しているが全くそれを感じさせない。


 というよりも緊張し過ぎるせいで側から見ればとても高潔な人間に見える。

 廊下を堂々と歩くその振る舞いはまさに可憐で美しいものだが実際は極度の緊張によってそうなっているだけで普段はああじゃない。


 余談だが新入生代表演説の際僕は辞退した。全て雪奈に任せて。


「さて.....と。」


 蓼は本棚から適当に本を抜き取る。


「・・・」


 無言で本を開き、中を見ると蓼はあからさまに面倒臭そうな顔をした。


「マジかよ......やっぱり、言語は違うらしい。」


「どうするの?」


 蓼の肩から本を覗き込みつつ雪奈はそう問う。


「まあ、覚えるしかないだろうな......」


「頑張ってね。」


「はいはい。」


 蓼は数十冊の本を抜き取ると、机に置いた。


「スゥ.....ハァ.....___雪奈」


 そして深呼吸をすると、雪奈の名を呼んだ。


「ん?」


「話しかけるなよ、今から本気出す。」


「はいはい。」


 雪奈はそう答えたが、蓼にその言葉は届かなかった。

 それ自体、雪奈は理解しているので、適当な本を開き、挿絵やイラストを見ながら時間を潰した。


 ー10分後ー


 パタンッ


 蓼が本を閉じた音に図書館内にいた人間が反応する。


「あ、すいません。」


 それを笑って誤魔化すと、皆自分の持ってる本に向き直る。


「で?どうなった?」


「憶えた、今なら俺達の世界でいう漢検で1級取れる。」


「流石、人間コンピューターの称号は伊達じゃないわね。」


「茶化すな。」


 そう言うと、蓼は本を棚に戻し始める。


「面白い本はあった?」


「ま、ない事はなかったな。欲しいとまではいかなかったが。」


 そう答えると、蓼は入り口に向かう。


「で?どんなジャンルだった?」


「まあ、外出てから言うよ。」


 その言葉と同時に蓼は扉を開ける。

 そして二人は図書館を後にした。


 --------------------------------------------------


「で?結局何の本読んだの?」


 大通りのような場所を歩きながら、雪奈は蓼にそう問いかける。


「ああ、20冊中10冊がアダルト小説、5冊が魔法学、2冊が言語学、3冊が歴史だった。」


「アダルト小説多いわね....」


「ああ、触手プレイから寝取り、男の娘まであったぞ。」


「多趣味ね、そう言うのが好きなの?」


「馬鹿な、俺は根っからの脚派ってなに言わせてんだ恥ずかしい。」


「まあまあ。」


「___さて....冒険者ギルドはどこだ....?」


 そう言い、蓼は再び街を見渡す。


「冒険者ギルド?」


「ん?あ、ああ。どうやらこの世界じゃそれがハンターの役割を担うらしい。資格っていうより冒険者登録なるものをするらしいが。」


「まるでソシャゲね。」


「ああ、チェスゲームが殆ど運営停止するのはいい加減仕様な気がしてきた。」


「もう出来ないけどね。」


「そうだな。」


「それで?字が書けるの?」


「ああ、流石にネイティブな字は見たこと無いから書けないが、読める程度には書ける。」


「それは良かった。」


 そのまま探し続けていると、先程図書館前で出会った男性を見つけた。


「お、運がいいな。____おーい、あんた。」


 その声に気が付いたのか男性は振り返る。


「おお、さっきの。お目当の本は見つかったか?」


「いいや、残念ながら無かったよ。___それより、冒険者ギルドを探してるんだが何処のある?」


「ん?あんた冒険者になりにきたのか?そうだな......それなら、今から報告行くし一緒に行くか?」


「ああ、助かるよ。」


「俺はダニアスだ、よろしくな。」


 そう言い、その男性____ダニアスは右手をだす。

 どうやらこの世界にも握手の習慣は存在するらしい。


「リクだ、こっちはセツナ。よろしくな。」


「おうよ。」


 そう言うと、ダニアスは歩き始めた。


 --------------------------------------------------


「(それで?本名教えていいの?)」


 雪奈が小声で蓼にそう問いかける。


「(ああ、下しか教えてないしな。情報機関は現世程発達してない上に俺達はこの街に住んでない。特定はまず不可能だ。)」


 蓼のその言葉に、雪奈は肩をすくめてみせる。


「(ま、あなたがそう言うなら大丈夫ね。)」


「(プレッシャーかけてくるなー)」


「そういえばあんた、何処から来たんだ?」


「ん?俺達か。ずっと東の方だよ。」


「東?なんて名前の国だ?」


ノン・(存在)エグシ()スト・()カント()リー。()まあ小さな国だから知らないだろうな。」


「うーむ....聞いたことねえな。」


 ハハハ、だろうな。


 蓼は内心でそう笑いつつ、ダニアスについて行った。


 --------------------------------------------------


「着いたぞ、ここがギルドだ。」


 巨大なレンガ造りの建物を背に、ダニアスは蓼達に向かい、そう言う。


「ほぅ、これが.....」


 暫く建物を鑑賞した後、ダニアスに小走りで追いつく。

 そして蓼が一歩ギルドに入った途端、その鼻に懐かしい香りが漂い、蓼の動きが止まった。


「ん?どうした?」


 突然止まった蓼に、ダニアスが反応する。


「ダニアス.....ここ(冒険者ギルド)って.....酒があるのか?」


「ん?酒があるっつーか....酒場を兼ねてるな。」


 陸のその質問に、ダニアスは不思議そうに答える。


「そうか.....雪奈。」


「ええ、わかってるわよ。」


 雪奈は入り口の直ぐ横の壁に背を預ける。

 それを確認すると、蓼はギルドの中へ入っていく。


「あの嬢ちゃん___セツナだっけ?はどうしたんだ。」


「ああ、彼女に酒はまずい。それも日夜酒三昧の酒場ともなれば、匂いだけでアウトだ。


「へぇー、そういうもんか。」


「_____それで?どうするんだ?」


「ああ、あのカウンターにいる青い服を着たお嬢に言えば登録できる。じゃ、俺は報告があるんで__」


 そう言い、立ち去ろうとしたダニアスの腕を蓼は反射的に掴んだ。


「ん?まだなんかあるか?」


「そ、そのなんだ.....ほ、ほら手順とかわかんないだろ?で、出来たら一緒に来てくれないかなって......」


 冷静を装いながら蓼は無理に笑顔を作る。


「ああ、その事なら大丈夫だ、お嬢が全て説明してくれ......」


 言いかけたところでダニアスは言葉を切る。

 蓼が半泣きだったためである。


「そ、それなら.....」


 ダニアスは苦笑いをしつつ、その願いを聞き入れた。

使用武器:無し

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