11話 親方!向こうから女の子が!
カリッ
蓼がトリテを齧ったその瞬間だった、聞き覚えがあるが、聞いたことの無い口調の声が聞こえる。
『おっめでと〜!!時の勇者が銃の勇者に敗れたよ!これで勇者は後14人だね!』
「!?」
蓼は周りを見渡すが、その大声に反応している人間は雪奈と自分以外にいない。
つまり今のは自分達にしか聴こえていないと言う事だ。
その事実から、蓼は直ぐにこれが誰かわかった。
「自称......神か.....?」
『自称、とは失礼だね。私は列記とした神だよ!』
呟く様に言った言葉に帰ってきた返答に、蓼は雪奈とアイコンタクトを取る。
それで、外に行くのだと雪奈は理解し、席を立った。
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「誰かと思えば.....お前か。つか口調変わりすぎだろ気持ち悪いぞ。」
『いやぁ〜ホントは神様らしくあれで行こうと思ったんだけどねー、やっぱり面倒臭くなったんだよね、うん。』
「おいおい....神の名が廃るな。で?時の勇者を殺ったお祝いだけが用か?」
『ん?木田君が時の勇者って知ってるのは未来の君じゃなかったかな?まさかもう知ってたの?』
「馬鹿が、雪奈は撃たれた痕が見えたと言った。この世界の銃の弾痕はどちらかというと溶けた感じだ。だったら雪奈はもっと適切な言い方をする。だがそれは現代兵器で撃たれたに違いない。だが俺達に撃った覚えはない。だったら答えは一つだろ?」
『へぇ〜そういう考え方か....惜しかったな、君を勇者にすれば良かったよ。』
「そりゃどうも。」
『それじゃ、これからも期待してるよ。津田 蓼___いや、ゼウス-2かな?』
その言葉に蓼は深く溜息を吐く。
「何のことだ?ゼウス-2?まるで訳がわからん。」
『あはは〜やっぱシラ切るよねー。ん?いや本当に知らないんだっけ?まあいいや、それじゃ健闘を祈るよ。』
それを最後に、神の声は聞こえなくなった。
暫く空を見上げた後、蓼は雪奈に向き直る。
「よし、エルヴィス大陸に行こう。」
「また急ね。っていうかエルヴィス大陸って?」
「エルフ達が支配する大陸だ。因みにここがここはヒュマド大陸、人種が支配する大陸な。お前も字は読めるだろ?地理くらいは覚えたほうがいいんじゃないか?」
「まあ.....そうね、気が向いたらそうするわ。___それで?どうしていきなりエルフなの?」
「折角他種族のいる異世界に来たんだから彼らと触れ合いたいだろ?だが何故かは知らんがこの世界は種族毎に大陸を所有してて、それぞれがその大陸で文明を築いている。書物から仮定するにこの世界は地球の数倍広い。だから海も広い。長旅は面倒だ、だから一番近いエルフを選んだ。」
「まあ、貴女らしいというかなんというか.......いいわ、それで船はどうするの?」
「突然どっか行くって言ったことにはつっこまないんだ。」
「面倒でしょ?」
「____まあいい、船は港にいる貿易船で連れてって貰うのが一番手っ取り早いっぽい。後は船を買うか自分達で作るか.....」
「作るか?」
「港の船を奪う。」
「____最初のが一番簡単そうね。」
「だろ?わかったらとっとと荷造りと行こうじゃないか。」
蓼のその言葉に頷くと、二人は冒険者ギルドを後にした。
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あれから数十分後、荷造りを終えた蓼達は山道を歩いていた。
港町に続く道で、行商人等がよく通るのか道が舗装されている。
すると突然、雪奈が口を開いた。
「そういえばこの世界、暦は無いの?」
「いきなりだな......いいや、あるぞ。」
いきなりの問に驚きつつも、蓼は答える。
「あるの?」
「ああ、この世界で一番寿命の長い種族、エルフ種の王達の年齢が暦だ。」
「王達?」
「エルヴィス大陸にも多数の国が存在する。ヒュマド大陸と同じようにな。それで、その中でも強大な権力を握る幾つかの国の王の年齢がそのまま暦になる。暦は彼等の名の頭文字を合わせて呼ぶ。今はルーク、ユビス、ナクサス、エヴィンの頭文字を取ってLUNEと呼ばれてる。」
「へぇ〜......で?今はルーン暦何年?」
「622年。エルフの平均寿命は1000年だから、人間の寿命を80と仮定して50歳って言ったとこか。結構なご老体だな。」
「____ねえ蓼。」
突然服の裾を引っ張られ、何事かと雪奈を見る。
すると彼女は前方を指差していた。
蓼はその指差す方向を見て、彼女が何を伝えたかったのかを悟る。
向こう側から、一人の少女が走ってきていたのだ。
____なんだありゃ?
夜逃げ的な?いやそれだったらこんなお日様テンテンの時間じゃ無いか。
って、ん?お、おい待てよ、まさか彼奴こっちまで来る気か?
「ヤッバイ....」
そう一つ呟き、雪奈方を見ると、彼女は少女に背を向け、もうクラウチングスタートの構えを取っていた。
「あ、あのぅ.....雪奈さん?」
雪奈は蓼の方をチラッと見ると、親指を立てる。
「グッドラック。」
そう言い残すと陸上選手顔負けのダッシュで逃げて行った。
「雪奈ぁ!?」
くッ、マズいッ!
「おッ、おいッ!落ち着けよ!なんでそんな無心になってこっちにきてんだ!?」
しかし少女はスピードを緩めない。
というより下を向いている。
距離は約50m.....あ、だめだこれ声届いてない奴だ。
つ、つかそれ以上近づかれると僕も中々にマズいのだが.....?
「!」
ふと、遠ざかっていた雪奈の足音が近づいてくるのがわかる。
「おお雪奈!流石だ、僕はお前を信じてたってあの....なんで羽交締めを?」
そうしている間にも少女は蓼達に接近してくる。
「なぜ逃げているのかを知りたいけど私が止めるのは嫌だ....ごめんね蓼、これは尊い犠牲なの。」
「ファッ!?しょッ、正気かお前ッ!?」
「アイ ミーン イット」
おい待てじゃあなんで笑顔なんだ!?
「くッ、くそッ!離せ!離せ雪奈ッ!」
少女の距離はどんどん近づいていき、もはや数mだ。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤb__グハッ」
少女が蓼にぶつかる。
そしてそれによって足を取られた少女は倒れる。
早期に雪奈は離脱していた為、バランスを崩し蓼も倒れる。
結果的に少女にのしかかられる形となった。
顔を真っ赤にして少女は蓼の目を見つめる。
殆どの男性からすれば正しく「やったぜ!」な展開であろうが蓼はそうじゃない。
これが彼の脳内である。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!
なんだこいつ!?なにしにきた!?なにしてんだ!?
もう訳わかんねえよなんで俺の上にいるんだよ超絶意味不明だよ早く退けよクソ!
お、おおお落ち着け俺、た、た、ただ異性が俺の上に居るだけじゃねえかなんの問題もないさむしろウェルカム.....じゃねえよ!とっとと退けよ!そうだ!俺が退かせばいいんだ!
ってあれ何で俺の体動かないの?
ハッ!動かないんじゃない、これ動かせない奴だ!
もし俺の手が彼女の体にあたってみろ!
あの時のように罵られて変態扱いだ!
よし、ナイスだ俺の体よく動かなくなった!
「ぁあ......あの......」
突然の声に蓼はビクッとする。
「あ!す、すみません、今退きますね!」
そう言い、少女は急いで蓼の上から退く。
実際、少女が蓼の上に乗ってから立ち上がるまで5秒程度しかないのだが蓼からすると数分以上に感じられた。
少女が退くと、蓼は少し後退してから立ち上がる。
雪奈をチラ見すると再び親指を立てた。
どうやら彼女は話さないらしい。
クソ....覚えてろよ.......
「スゥ.....ハァ.....」
蓼は深呼吸をする。
そして目を開いた。
「どうしたんだあんた?なにがあった?」
至って普通に会話を行う。
だが彼の目線から見た彼女は____顔の彫りが深くなり、眉が太くなっていた。
それは普通に男の顔である。
当然、彼女は女性であり、こんな顔ではない。
現実の彼女はフードを被った、顔立ちの整った少女だ。
フードの隙間からブロンドの髪が見える。
____では、なぜこう見えるのか?それは彼がそう見ているからである。
人の脳は、重度の思い込みによって治癒能力に劇的な差が出たり、難病にかかったり、痩せたりと色々な事が起こる。
偽薬を服用して思い込みによって症状が改善するというプラシーボ効果が有名だろう。
簡単に言えば、蓼はこれを本気で行っている。
深呼吸をした瞬間、彼は少女を青年に仕立て上げた。
勿論、彼自身本心では女性と理解している為そこまで問題は無い。
因みにこれは雪奈が引く彼の特技の一つである。
「あの.....その.....」
「おいいたぞ!」
突然男達の声がし、さっき少女(青年?)が走ってきた道からその声の主であろう山賊の様な男達が現れた。
成る程、大体理解した。
山賊風情が狙うというなら彼は、じゃなかった彼女は身分が高いのか、それとも何か希少な性質を持っているのか、或いはただ彼奴らの好みだったか。
こいつも彼奴らの仲間で、俺たちをはめるために一芝居打った可能性もあり得るな。
____まあいい、それならどちらに転んでも大丈夫な方法を取ろう。
「雪奈、パターンE。」
その言葉に頷くと、雪奈はナイフを抜く。
「まあどちら様かは知らんがなんか面倒くさそうなんで死んでもらおうと思う。嫌なら逃げるって手もあるがどうする?」
「ああ?んだてめえら、そいつは俺達の獲物だ勝手に邪魔を____」
言いかけたところで蓼は男達に接近し前にいた奴の顔に後ろ蹴りをかます。
「先手必勝。」
「なッ!なにしやがr___」
剣を抜こうと柄を握った腕と腰の間に逆手で握ったナイフを差し込み、手首を斬撃、その後腹を蹴る。
「あぁ.....疲れた、雪奈交代.....」
そう言うと、次は雪奈が蓼の横を通り過ぎ、男達の的確に喉を切断していく。
そいつら全てが倒れる頃には、雪奈のマントは血に染まっていた。
「ワオ、すっごい真っ赤。臭く無い?」
「臭い。」
「ああ、そう。____それで?詳しく話を聞こうじゃ無いか。まあ場合によっちゃ、あんたも只では帰さないが。」
「こ、殺さ....ないで.....」
「そんな怯える必要もないだろ?で、なにがあったんだ。」
蓼の口角は、無意識に釣り上がっていた。
《現代兵器解説のコーナー》
はいどうも、ここまでの御読書、お疲れ様です。
ではこんなクソどうでもいいコーナー9割以上の方が飛ばしてると思いますが今回も気張っていこうと思います。今回のお題はコレ。
《モーゼルC96ファミリー》
前回、ハンドガンの説明をしたが一つ忘れていた形態がある。
それがこのモーゼルC96だ。
本銃はパウル・マウザーとフェーデフレ兄弟の手がけた物で、19世紀末、即ち自動拳銃黎明期における傑作の一つだ。
トリガーガードよりも前方に弾倉を備える為重心が前方に掛かり、競技用銃の様に安定して射撃が出来たとされ、一切の機構が備わっていないグリップは細く、その見た目から「箒の柄」ともよばれた。
この細いグリップの形状は掌の小さい民族などでも安定して握ることが可能で、そのまま採用されたとされている。
機構は簡単ではあるが言葉にすると分かり難い。
プロップアップ式の反動利用式。
うん意味不明だよね、説明しよう。
プロップアップ式。
これは薬室から薬莢を吐き出す穴を塞ぐ閉鎖方法の一つ。
コッキングラグなる部品をコッキングブロックなる部品で固定することで閉鎖結合する形態だ。
雷管を突かれ、弾が発射されるとその反作用で薬莢に同等の負荷が掛かる。
だがこの時点でボルトはコッキングブロックによって阻まれ、後退せず、ガス漏れを防ぐ。
その後弾丸と燃焼ガスが移動、加速するとその際の反動を利用し複座ばねによる抵抗を受けつつボルトは交代する。
そして銃口から弾丸が離れた瞬間、その反動は高いものとなり、コッキングブロックが数mm後退、その後レシーバー上部の突起に押されて下部の凹に引っかかる。すると自由になったボルトは後退を続け、薬莢を排出、複座ばねで戻ってきたボルトは再び次弾を掴み、薬室内に固定する。
____わかんない?図があるとわかりやすいんだが......残念ながらやり方がわからない、興味のある方は自分で調べて欲しい。
因みにボルトが後退した時、撃鉄も起こしてる。
この撃鉄がボルト内のファイヤリングピンを押すことで発砲を可能にしている。
初期の構造ながら凄まじい出来栄えだ。
弾倉は、10連収容可能なクリップを上部に差し込み、弾丸を押すことで装填を行うタイプだ。
弾を一気に装填できる利点があるが、ボルトを保持解放する部品がマガジンフォロー以外に存在しない為、クリップ無しでの装填が困難なのとマガジン内に弾が残っている時の装填が困難という欠点がある。
尚後期モデルではライフルの様に下側からマガジンを差し込むタイプに変わる為、この問題は存在しない。
また、特徴的なグリップも欠点が存在し、その構造上反動を受け止めにくく、発砲時に手の中でグリップが暴れる問題が生じる。
平たく言うと素手で撃つと痛い。
また、プロップアップ式という関係上パーツ数が多く、少々値が張るという問題も生じた。
しかし当時はまだ騎馬戦してた時代。
馬上でも片手で打てる自動拳銃という強みと、高い信頼性、ストックによる安定した射撃にいざとなった時の鈍器としての使用も可能な事からベストセラーとなった。
あと結構愛称が多い。
有名な所でいうと某ゾンビゲーにも登場したレッド9だろうか。
あれはグリップに赤字で9と書かれていたからついた愛称である。