10話 チェックメイト
さて......と、どうなる?
蓼は前方を歩く木田の背を見つめる。
そして小走りで木田の横に並ぶと歩を合わせ、口を開いた。
「そういえば木田、時計はどうだ?」
「え?時計?」
「ああ、昨日お前に渡した奴だよ。」」
「ええっと......ああ!あれか。あるよ、今持ってる。」
そう言い木田はポケットから懐中時計を取り出し、蓼に見せる。
「役に立ってるか?」
「ああ、依頼を達成してる間にも時間を見てるってのは嬉しいよ。」
「ははは、そいつはよかったよ。」
「うーん.......それにしても、それ昨日だっけ?」
その言葉に蓼は内心口角を釣り上げる。
「_____ん?何言ってんだお前。ボケたか?」
「ひっでえな。」
「ははは。」
そう笑うと、蓼は少し歩を遅め、雪奈の前を歩き、右手を自分の腰辺りに回して雪奈にサインを送った。
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「ああ.....舗装されてんのはここまでか......」
そう呟きながら前方を歩いていた木田が止まると、背後を歩く二人も歩を止める。
「目的なんだっけ?」
「ここに住むトロールの討伐。トロールの住処は知ってるから、俺が前をあるくよ。」
そう言いながら蓼は木の葉の生い茂るジャングルに足を踏み入れる。
そして腰に下げていたサバイバルナイフを取り出すと、それを使って道を開いていった。
「・・・」
「ん?津田どうした?」
「いいや、なんでもないさ。行こう。トロールの住処も近い。」
「ああ、そうだな。」
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「おい津田、まだなのか?」
歩き始めてから数十分、木田は蓼にそう尋ねる。
しかし蓼はその言葉に耳を貸さず、ジャングルを突き進んで行く。
「おい、津田.......?」
やがて3人はジャングルを抜け、草原にでる。
そこに出てから暫く歩いて、やっと蓼は立ち止まった。
「なあ木田。」
「どうした?」
「俺の下の名前、覚えてるか?」
「ああ、勇輝だろ?」
その言葉に蓼の口角は釣りあがった。
「チェックだ、木田。」
「チェック.......?なんのチェックだ??」
「将棋でいう王手だよ。」
「ああチェスか。で、それが.....?」
「まだわからばいか?____まあいい、別にこれは重要でもないしな。なあ?時の勇者。」
「!?」
その言葉に木田はうろたえ、あとずさる。
「どうしたの?木田君?」
木田は背後から聞こえた雪奈の声に、硬直した。
「お、おいなんだよその冗談。俺が勇者だって?馬鹿な事言ってんだ。」
「おいおい、僕は一言もお前が時の勇者である、だなんて言ってないぞ?どうした?」
「い、いや今の言い方は確実に俺を指してたろ?な、なあ勇輝。」
「勇輝、ねえ.......雪奈、俺の本名言ってみ。」
「この場合だと、津田 蓼、かな?」
「!?」
「津田 勇輝.....いつ、誰から聞いたよ?それ。」
「・・・・」
木田は黙り込む。どうやらいつだったか思い出そうとしているようだ。
「お前の前いた時間軸の僕から、だろ?」
「おいそれ、どういう.....」
「津田 勇輝。これは偽名だ。ご存知僕はロクに登校しない。しかも教室に居てもほぼ誰かと話すことは無い。雪奈と話しても、それは時々ってレベルだ。しかもあの教室、あろうことか名簿が何処にも貼ってない。欠席時もフルネームでは記載されない。故に周囲の人間の殆どは、僕の下の名を知らない。で、この勇輝ってのはだな......俺がルール説明された瞬間、時の勇者と疑わしき人間に言う名前だよ。」
「そ、それがなんだ......偶々って事も___「偶々?まったく、往生際の悪い奴だな......ハァ.....」
蓼は自分の手に持ったナイフをよく見えるように木田に見せる。
「ON......TARIO......?」
木田は刀身に刻まれた文字を呟いた。
「お前は銃に多少の学がある。ゲームかどっかで知ったか?まあそこはどうでもいい。重要なのはお前がこれを見て何一つ動じなかった事だ。」
「え......?」
「この世界の文字は現世とは違う。なのになんでONTARIOの刻印を見逃した?しかもこいつは特別製。デカく刻まれた刻印に黒縁が降ってある始末だ。これを見逃すだと?しかも俺は抜刀時にお前によく見えるようだした。それでもか?____普通咎めるよな?じゃあなぜ咎めなかったか。_____俺らが銃の勇者と知っているからだろ?」
「そ、そんな事!____「俺、時計渡したつったよな?残念だけど僕の記憶にそんなものは無いぞ?」
「!?」
「忘れてたか?馬鹿な、昨日の事すら覚えられない脳みそなのか?」
「だ、だが俺は確かに受け取って!」
「いつ?それはいつだ?」
「ッ!い、いつって......昨日___「否。」
「違うな、お前はお前のいた時間軸の俺から、全く別の日に渡された筈だ。」
「ま、まさかッ!?」
「そのまさか、この時計ってのは、時の勇者にしか渡さない。____俺なりの皮肉だったが、気付かなかったか?」
「お前は......!」
「キングを上手く動かせなかったな。____チェックメイトだ。」
「ク.....クソッ!!」
木田の体が突然光始める。
これは時間移動の予兆と悟った蓼は____
「雪奈ッ!!」
そう叫ぶと同時に五発の銃声が鳴り響く。
「ぐはッ!!」
それが直撃した木田は吐血後に消え去った。
「逃がした?」
ホルスターにVBRを仕舞った雪奈はそう訊く。
「いいや、言ったろ?チェックメイトだって。」
そう呟いた蓼は笑っていた。
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クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!
なんて奴だ!
津田の野郎.....これで5度目......クソ!また正体がバレた......!
へへッ、だが津田、自分のカードを明かしたのがお前の敗因だ。
クッ......傷が.....これじゃ奴を殺せない.....やむ負えん、猪瀬 愛花に治して貰うか.....
彼奴はこのクソゲーが始まってから数日後にはもう教会にいる筈だ....
ヘヘッ、奴の好意を踏み躙るのはちょっと気が引けるが......こうするしかない、許せよ猪瀬。
木田は傷口を押さえながら教会に向かう。
この森を抜ければ......ッ!!
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「蓼、教会に誰か来てる。」
ドローンのカメラからの映像を見た雪奈は口頭で蓼にそう伝える。
「どんなだ?」
「木田君ね。」
「木田か.......どんな様子だ?」
「腹部を押さえているわね。トイレには見えないわ。歩いた後に血たれてるし。」
「他に何が見える。」
「______弾が貫通した跡。」
「撃て。」
「はいはい。」
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この扉を.......この扉を開ければ........!!!
木田は教会の扉のノブに手を伸ばす。
しかし、その手が届くことは無かった。
ダダダダッダダダダダダダダダダ!!!!
突然の銃声の後に、木田の身体に激痛が走り、倒れた。
「な.......にが.......おこ......て.......」
その映像をリアルタイムで見た蓼は口角を釣り上げた。
おいおい、一体何回奴の正体を見破ったんだ?未来の俺よ。
これでチェックメイト、ってか?
ハハハ、笑わせてくれる、こんな手打たれちゃ誰も動けやしねえよ、我ながらおっそろしい手を考えたもんだ。
蓼はトリテを摘むと、その席を立った。
「もういいの?」
「ああ、面白い物が見れた。暇だからここに来たがもういいさ。」
蓼は片手のトリテを齧りながらギルドを出て行った。
《現代兵器解説のコーナー》
はい、恒例のおまけです。
まあ例の如く現代兵器は作者である私ですら名前不明なオリジナルナイフ以外登場していませんのでこれまた何か適当に説明致します。
さて、今回のお題はコレ
《拳銃》
ハンドガンの歴史は古く、回転弾倉式拳銃を原点とすると1597年にまで遡る事になる。
当時作られたリボルバー拳銃はフリントロック方式と呼ばれる方式を取っていた。仕組みは撃鉄が前進した際、打ち金と呼ばれる部品と接触する事によって生じる火花を火皿と呼ばれる場所に落とし、そこに入れておいた火薬に引火させる事で弾を発射させるというものである。
当然、当時は雷管なんてものは存在しないので銃口から火薬→弾丸の順番に入れ、その後銃口から棒を突っ込んで弾丸を引っ掛ける事で装填を行うという現代では考えられない方法を取っていた。又、弾も球形で現在のような形ではない。弾丸に丸と付くのはこれと考えられている。
リボルバーの話に戻るがこれを八発備えた巨大なシリンダーを装備していて、しかも全長はなんと4、5、60cm程あるという規格外っぷり。また発砲後速やかに撃鉄を起こし、打ち金を戻してシリンダーを手動で回転させるというなんとも手間な方法をとるのであった。
その後これを改良して様々なリボルバー拳銃が開発される事になるが全部言える筈もないので割愛。そして時は流れ19世紀初頭、パーカッションロック方式というものが開発された。これはパーカッションと呼ばれる雷汞(衝撃で爆発する火薬)を詰めた雷管を使用するというものであり、装填方法はパーカッション(雷管)→弾丸の順に入れて、あとは棒で押し込む(棒じゃない場合も)。そしてやっと実包が開発されると銃は飛躍的に進歩を遂げた。実包というのは薬莢と呼ばれる筒の最後尾にプライマー(雷管)を設置し、そこから少し離して装薬、弾頭の順に並べる物でようは弾と火薬の一体化である。撃針(撃鉄)がプライマーを押すとその圧力によってプライマー内の火薬が燃焼、フラッシュホールと呼ばれる場所から装薬に引火してそれによって生じた圧力で弾頭を発射するという現在使用されているもの。これによって銃は前装式(前から玉突っ込む奴)から後装式(後ろから玉突っ込む奴)に変化し、当然の如くリボルバーもこの方式を取った。それで開発されるのは西部開拓時代の覇権を握る銃の一つ、コルト社のコルトSAAである。ソリッドフレーム方式と呼ばれる固定式シリンダーを採用しており装填時は後方のキャップを開けて一発ずつから薬莢を排莢を行い、その後弾を詰める事で発射が可能になる。一番ロマンのあるリロードである。尚レボリューションなリロードは無理な模様。因みに拳銃で一番堅牢さのある方式はこのソリッド・フレーム方式である。欠点は装填速度の致命的な遅さ。その後中折れ方式が開発される。これはバレルをおってシリンダーを露出させ、そこから弾を込めるというもの。個人的にソリッドフレーム方式の次にロマンのあるカッコいい方法。因みに欠点は可動部分の耐久性が低く、大口径弾を使用できない事。次に開発されたのがスイングアウト方式。これはロックを外すと横からシリンダーが振り出される方式。多分これが一番多い。私的にロマンは最低ではあるが自動拳銃よりは遥かにロマンのあるやり方である。欠点は然程無く、堅牢さと装填速度を両立した仕上がりになっている。これが多い理由。以上3つがリボルバーの基本的種類である(例外としてマテバ2006Mのようにシリンダーが照門上部に振り出されるものもある)。
そして自動拳銃誕生。これは基本的な設計は中々単純で弾倉と呼ばれる物に大量の弾を入れ、発砲と同時にスライドが後退、その際から薬莢を引っ掛けて排出し、空いたスペースにバネによって上昇した次弾が薬室に送り込まれるというもの。もう少し掘り下げると流石に尺が持たないので割愛。尚リボルバー拳銃と自動拳銃の代表的なもの(あくまで個人)を上げるとリボルバーはソリッドフレームのコルトSAA、中折れ式のエンフィールド・リボルバー、スイングアウト方式のコルトパイソン。自動拳銃は9mmのベレッタM92F、45口径のコルトガバメントM1911、驚異の50口径、デザートイーグル.50AE型である。尚自動拳銃には他に3点バースト方式(一回トリガーを引くと三発ずつ発射)とフルオート方式(トリガーを引き続ける限り、弾倉内の弾を連射)が存在し、実にたのしい。中にはストック付きなんてものもある。あれはPDWだが本作に登場するVBR-Belgium PDWもサブマシンガンにように構えるあのフォームが堪らない。因みに私はリボルバー派なので近いうちに趣味突っ走った銃を出します。なんだか銃の歴史っぽくなりましたがハンドガンの解説はしてる気はするのでセーフ。またネタが消えたら今度は銃の本格的歴史でも........と言ったところで今回はここまでです。ここまで読んでいただいた方、お疲れ様でした。飛ばした方々、スライドお疲れ様です。それでは、ありがとうございました。