9話 疑惑
パタンッ
勢いよくとじられた本から飛び出したその音は狭い部屋に良く響き渡る。
しばらく背もたれに背をかけ力を抜いて上を向いていた蓼は溜息の後に椅子から立ち上がり、机に本を置いた。
この世界の銃......どうやら2種類あるらしい。
一つは、ダニアスの持っていた魔石型。
あれは魔石と呼ばれる鉱物に存在する魔力と自身の魔力を合わせて弾を発射するタイプの物らしい。
魔石とは、この世界特有の鉱物資源だ。
落としたら割れる程度には脆い。
大きさによって蓄えられている魔力の量は違っているらしく、この世界の加工技術.....いや、恐らく現世の加工技術でもだろうが二つの魔石を合わせる事は不可能だそうだ。
魔石は自分の魔力を蓄えたりする事が出来るし、放っておいても勝手に魔力は回復する。
因みに枯渇性資源では無く非枯渇性資源らしい。
詳しくはまだ知らんがなんかのモンスターの背中からも取れるとか。
の割にはなんかめちゃくちゃ値が張るが。
で、この魔石型の長所は安定した火力を誇ることだ。
しかも魔石を使う為、自身の魔力も枯渇し難い。
短所は魔石の魔力が無くなったら当然魔石を入れ替える必要があり、その魔石自体お値段が中々張るということ、あと魔石が無いと撃てない事、そしてこいつ自体値が張るってとこだ。
そしてもう一つが魔力型。
自分の魔力を使用して撃つタイプだ。
こっちは魔石が無くても撃てる。
長所は魔力の込める量で威力が増減するから、コスパがいい。
あと全体的に安く、魔石を使わない分堅牢な作りで鈍器としても扱えることらしい。
短所は自分の魔力を使用する為、魔力の枯渇に繋がりやすく、緊急時に対応出来ない事だ。
この二つだけだがいずれも弾は魔力の塊である。
実包の概念は無いようだ。
あと、魔力を使うから、火の玉吹いたり水圧カッターぶっ放してきたりするらしい。
やだなにそれ怖い。
最後に、ダニアスの持ってたのはリボルバーだったが他にもライフルとか自動拳銃とかあるらしい。
さて、お勉強終了。
でだ、この街に来て1週間が経った。
異世界人も何名かこの街に来ている。
知ってる顔もチラホラ。
この世界には冒険者ギルドの他に冒険者がギルドを作ることの出来るシステムが存在するらしい。
同じギルドと名のついた物同士だが本質は全くの別物だ。
冒険者ギルドは言わば冒険者管理協会、ギルドは冒険者が集まって組織を築いている物だ。
で、磯貝はこのギルドを立ち上げている。
名前は『聖銀騎士団』。
厨二全開の名前だが俺は知らん。
だが剣の勇者がギルドマスターというだけあってその人気は計り知れんらしい。
どうやら強い奴が上に立てばどれだけ痛い名前でもかっこよくみえるらしい。
全く、人間は不思議な生き物だ。
雪奈はいつもと変わらず.....ってか身元バレ難いように最近はナイフしか使ってないらしい。
それでドラゴン討伐してんだからどうなってんだか。
俺はいつも通りここでひきこもってる。
金は払ってるんだ、長期滞在しても問題は無い。
迷惑法?HAHAHA、この世界にそんなのある訳なかろうに。
さて、そろそろひきこもるのも飽きた。
パソコンがあるならともかく、この部屋には本しかない。
今は.....13:25。
雪奈がギルドで飯食ってる時間だ。
行ってみるか。
蓼はマントを羽織り、ドアノブに手をかけた。
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「うぅ〜.....」
宿屋から出てすぐ、背を伸ばして息を吸う。
ハァ.....空気が澄んでいる。
ひきこもりにこの空気は猛毒だ、とっとと雪奈と合流しよう。
そう思い、歩き出した蓼をある声がとめた。
蓼は半ば面倒臭そうに振り返る。
「どうしたんだ磯貝?」
「酷い顔だな......なんかあったのか?」
「いいや、寝すぎただけだ。」
「そうか.......」
「それで、何の用だ?」
「ああそうそう。君達を、俺のギルドに誘いたいんだ。どうかな?」
「君達って.....雪奈込み?」
「勿論。」
アハハこいつ正気かー?
まあ、此奴のギルドには異世界人も何名か入ってる。
俺達を銃の勇者と知らないから別に引き込むのはいいっちゃいいんだが絶対こいつ勇者も知らずに入れてるだろ。
現に入れようとしてるし。
「いや、遠慮しとくよ、俺達は別にいい。」
「そうか......まあ気が変わったらいつでも言ってくれ。」
「ああ、感謝するよ。」
よし、今度こそ雪奈のとこ行くか。
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ギルドには相変わらず人がいない。
そんな中一人トリテを摘んでいる雪奈に蓼は近寄る。
「結局なんも変わってねえな。」
「まあ、することも無いしね。」
蓼は雪奈の隣に座ると、同じようにトリテを口に運ぶ。
「で、治癒の勇者はどうなってる?」
「教会でシスターやってるわね。」
「マジかよ。」
「マジよ。」
まさか教会でシスターやってるとは......何考えてんだ?
現実逃避の一種かなぁ......まあいい、シスターなら多分恐らく僕らへの被害も無いはずだ。
「で、なにしにきたの?」
「本読むの飽きた、以上。」
「それでここきた訳?暇人ね。」
「ああ暇人だ。それに......ん?」
「どうしたの?」
その声に、蓼はカウンターの方を指差す。
そこには、同じクラスの木田 海斗がいた。
レザーアーマーを纏っており、カウンターで報酬を受け取っている。
しかしこれに蓼は違和感を覚える。
......奴は俺達に声を掛けてもおかしくない.....いや、逆にかけないほうがおかしい。そういう性格だ。
初めてこの街であった時は声を掛けてきて、しかもその後も会う度に何かの話をしてきたのにだ。
何かあったか.....?
「木田。」
「ん、あ、ああ、津田.....と叶香か.....」
表情が引きつってる......絶対なんかあったろこいつ。
まさか......ふむ、探りでも入れてみるか。
「何かあったのか?例えば.....誰かの秘密を知ったとか.....」
「!」
その言葉に木田は激しく動揺する。
.......試しにやってみただけだが.......してみるもんだな。
こいつがか?いや断定するのはまだ早い。
あくまで可能性がある、ってだけだ。
「つ、津田こそなんでそんな質問を?」
「いやさ、なんかお前の様子が変だな〜って。ここには俺達以外だと受付くらいしかいないのにな。なのに声掛けてこないからなにかあったのかって心配になって......」
「そ、そういうことか。大丈夫、なんでもないさ。お前達とは一緒に依頼を受けようと思っていたところだ。」
「へぇ......そうか......じゃあ受けよう。」
蓼は依頼書を剥がす。
そして雪奈の後ろを通り、すれ違った瞬間こう呟いた。
「パターンD」
それを聞いて、雪奈は頷いた。
はい、ここでは使用武器を解説していきましたがこうも使用武器が無くなってしまうとコーナー的にも危ういので今回から《現代兵器解説コーナー》と称し、色々と解説させていただきます。
さて、今回の主役はこちらです。
サイレンサー(サプレッサー)
サイレンサー(サプレッサー)とは、要は銃声を軽減するものだ。
名称は色々あってサイレンサーとサプレッサーが代表的ですがこれらで割と喧嘩が起こってたり起こってなかったり。
結論をいうとどちらにも間違いは存在し、意味合い的にもどちらも同じ、となるためどっちでもいい。
因みに私はサイレンサー派である。
別にサプレッサー派を敵にまわそうという訳ではないがサイレンサー派である。
これを語ると尺が足りないのでそろそろ概要へ....
銃声は、3つの音から成り立っている。
一つは発砲時に発生した燃焼ガスと大気の気圧差によって生じる炸裂音(要は爆発音)
二つ目は弾丸が音速を超えることによって生じるソニックブーム。
3つ目は銃の作動音である。
サイレンサーはこの内一つ目を軽減するもので、構造は、内部にバッフル,ワイプと言った名前の部品でいくつもの空気室と呼ばれる部屋に分かれており、発砲時の燃焼ガスをこの空気室にすこしずつ分散させることで圧力を減少させ、気圧差によって発生する炸裂音を減少させるというものだ。
効果は様々で、全く変わってねえじゃんってものから本当に聞こえなくなるもの、銃声には全く聞こえない謎の音に変更させるものまで存在し、これだけでもお米3杯は食える程面白い。
また、サイレンサーには二つのタイプが存在する。
一つは銃口に取り付けるマズルタイプ、もう一つはバレルと一体化しているインテグラルタイプである
しかもマズルタイプに関してはこれまた二つのタイプが存在し、一人は銃口に切ってあるネジにはめ込むネジ式、そして突起やフラッシュハイダーにはめ込む形で使うクイック・デタッチャブル式のふたつである。
もう少し語りたいが、これ以上するとただでさえ薄い本編が更に薄くなるのでここまでとする。お疲れ様でした。