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ブレイクオンスルー  作者: カレーライスと福神漬(ふくじんづけ)
8/40

8 「まぼろしの世界」

 ベンツは、西新宿にししんじゅくで、二人をろした。

 

 

 きょうは智子ともこの、たってのねがいで、

 勉強会べんきょうかいおくらせて、ここまで、やってきたのだった。

  

 きのう、知人ちじんから、中古ちゅうこではあったが、

 高価こうかなアナログ・レコード・プレイヤーをもらったので、

 ひどくウキウキしていたのだ。

 

 ここ西新宿にししんじゅくには、

 廃盤(はいばん)になったアナログレコードを、

 販売はんばいしている店が、点在てんざいしている。


 現在げんざいでは、全盛ぜんせいほこったCDが、

 退場たいじょうを、余儀よぎなくされ、

 ネットからのダウンロードやストリーミングが、

 主役しゅやく君臨くんりんしているけれども、

 アナログファンは、少数しょうすうながら、

 根強ねづよ存在そんざいするのだ。

 

 アナログ録音ろくおんされたきょくは、

 アナログばんくというのが、

 自然しぜんかなっているのではないだろうか。

 

 智子は、ドアーズの曲を、

 ちまたでわれるところの、

 人肌ひとはだあたたかみの感じられるアナログ音源おんげんで、

 聴いてみたかったのだ。


 プラスして、べつ目的もくてきもあった。

 どちらかといえば、

 後者こうしゃのほうに、比重(ひじゅう)がかかていた。

 

 中古店ちゅうこてんはいるのは、

 初体験はつたいけんであった。


 ネットで知識ちしきを使い、

 所定しょていの場所に、バッグを、いた。

万引まんび防止ぼうし措置そちである〉 


 CDには見向きもせずに、

 優希をともない、

 アナログLPレコードのコーナーへ、向かう。


 そして、インデックス「D」の場所へ移動いどう

 さらにその中からドアーズ「doors」とネームが書かれ、

 区切くぎられた、しょうスペースを、見つけだした。

 

「『ストレンジデイズ/まぼろしの世界』・・・」

 呪文じゅもんのように、つぶやきながら、

 アナログLP盤エルピーばんを、

 いささか、よろしくない、手際(てぎわ)で、

 表面おもてめん裏面うらめんを、

 慎重しんちょうにチェックし、

 ストン、ストン、とボックスだなに落としていく。

 CDとはちがい、に、たしかなおもみがある。

 それは、歴史の重みのようにも、感じられた。


「あった!」

 優希が、小さくさけんだ。

 真横まよこから手を出して、

『ストレンジデイズ』の輸入盤ゆにゅうばんをぬきだした。


「これでしょう、お目当めあてのアナログばん?」

 

 残念ざんねんながら、とくび左右さゆうにふる、智子。

 

 サーカスの一団いちだんうつっている、

 幻想的げんそうてき雰囲気ふんいきをはなつ、

 LPジャケットを、

 ひっくり返して、裏面うらめんをむける。


「リアジャケット写真がないのよ、このアナログ盤には。

表面おもてめんついをなす、

リア〈うら〉ジャケ写真しゃしんいたばんがあるはずなんだ。

ネットで確認かくにんしてるから、マチガイない。

表と裏のジャケットがそろったところで、

『ストレンジデイズ/まぼろしの世界』が、

ほんとうの完成かんせいをみるワケ」


「ふーん・・・なにやら、

おくふか世界せかいなのね」

 

 優希は、あらためて、ジャケットに目をやった。


 それは、ストレンジデイズという概念(がいねん)を、

 そのまま、写真に、きつけたような、

 不思議ふしぎでいて、

 見るものを、きつける、

 しずかなパワーを、ゆうしていた。


 かつて、美術館びじゅつかん画集がしゅうで見た、

 すぐれたシュールリアリズムの絵画かいがにも、

 匹敵ひってきするように、思われた。

 

 西新宿アナログLP盤めぐりは、

 合計6件の、

 中古店ちゅうこてんをおとずれたが、

 収穫しゅうかくはゼロ。


『ストレンジデイズ』

 リアジャケット写真付きアナログ盤は、

 まぼろしに終わった。



「ふーっ!」

 車に戻ると、優希は、息をついた。

 なれない事に、集中力を、使ったので、

 へんな疲労ひろうを、感じたのだ。

「智子・・・ひとつ・・・私から提案ていあん

ネットオークションでさがしてみては?

スピーディーかつ合理的ごうりてきでしょう」


「ネットは基本きほん、カード決済けっさい

わが現金主義げんきんしゅぎだから、

許可きょかがおりない」


「Amazon〈アマゾン〉だってあるじゃないの。

プリペイドカードはコンビニでも購入こうにゅうできるし、

たしか、銀行振り込みもOKなはず」


「それじゃロマンがないのよ・・・優希。

サプライズに遭遇そうぐうしたいの・・・私は!

親からさずかった、じょうぶな、この二本にほんあしを使ってね。

チャリンコ〈自転車〉通学つうがくをしないのは、

登校時とうこうじに、あなたと待ち合わせをするという理由りゆうもあるけれど、

歩いたり、走ったりするのが、心底しんそこきだから!

衝動的しょうどうてきに、突如とつじょ

全力疾走ぜんりょくしっそうしたくなったりするんだ!>

それに・・・

私くらい、情熱じょうねつを持っていれば、

ちかいうちに、

現物げんぶつのアナログ盤が、

こうのほうから、やってくるって!」

 ウィンクしてみせる智子。

 楽観主義者らっかんしゅぎしゃの、

 めんもく躍如やくじょといったところだ。

 

「ふーっ!」

 優希は、シートに身体をしずめると、もう一度、息をついた。


 

 試験二日前の、土曜日。

 授業は午前中に終了。

 

 連日れんじつの勉強づけのせいで、

 さすがに、テンパってきたのか、

 智子のようすが、どことなく、おかしかった。


 優希は、気分てんかんのために、

 ワンクッションおいた方がいいだろうと、判断はんだんした。

 

 車に乗り、

 学園から、なるべくはなれた地点ちてんまで、移動いどう

 

 制服せいふくうえに、

 薄手うすでのホワイト・ジャケットをた二人は、

 通学用つうがくようバッグを、車にのこし、

 手ぶらで、マクドナルドにはいった。


 優希は、『月見つきみバーガー』のセット、

 智子は、『フィレオフィッシュ』のセットを、注文ちゅうもんして、

 それぞれのプレートを持ち、二階席へ。

 

 向かいあわせに、こしかける。


 いつものように、優希は、

 月見バーガーの包装紙ほうそうしを、ていねいにむく。

 精巧せいこうなオリガミのように、

 ピチッとりととのえ、

 バーガーを、すい込むような感じで、パクリとひとくち食べる。


 きんおかして食べる、

 ファーストフードは、どうしてこんなに、美味びみなのか?

 考察こうさつしてしまう優希だ。

〈水晶学園は、放課後の、

飲食店いんしょくてんへのみちを、みとめていない〉。



運命うんめいの試験まであと二日ね。泣いても、泣いても」


「それを言うなら・・・泣いても、笑っても。

きがふたつかさなると・・・不吉ふきつじゃないのさ、」

 智子は、広いおでこに手をやり、

 頭を、左右さゆうにふった。


週末しゅうまつは、

時間延長じかんえんちょうしても、

オーケーだよね・・・ラストスパートをかけましょう」

 指についたポテトの塩を、

 パンパンと、センスくはらいながら、優希が言った。

 

 どうも、智子に、いつものノリが・・・感じられない。

 ふだんは、食欲旺盛おうせいなのに、

 好物こうぶつのフィッシユバーガーにも、

 まったく、をつけていなかった。

 

 友人のようすを、しげしげと、観察かんさつする優希。

連日れんじつの勉強会、

ちょっと、ばしすぎて反動はんどうきちゃったかな?

かつてないくらい、密度みつどかったから。

それに私・・・れいしっして、

あれこれ、ぎたきらいが・・・あったと思う」


「ちがうよ。そんなことは気にしていない。

優希の指摘してきは、

いつも、間違まちがいいなく核心かくしんをついてるよ。

今回こんかい勉強会べんきょうかい

私にしてはめずらしく集中しゅうちゅうして、りくめたと・・・」

 智子は、両手で、頭をおさえて、うつむいてしまった。


「あなた、ぐあいが悪いの?」

 すばやく友人の広いおデコに手をあてる。

「すごいねつ・・・!これで、よく、学校にこれたね」


「朝、起きたときから頭がいたい。

さむけもする。う~ッ・・・ゾクゾクする!」


「車で送るよ。家に直帰ちょっきする?

それとも、かかりつけのお医者さまのところへ、行く?」

 優希は、親ゆびをかんで、冷静れいせいになろうと、つとめる。


「ゴメン、きょうの勉強会はムリみたい。

とてつもなく、ベッドが・・・こいしい・・・」


「とうぜんよ。健康けんこうが、まずは、第一だいいち

さあ、帰りましょう。私のかたに、つかまってちょうだい」

 

 まるで自分のことのように心配してくれる、

 優希ゆきのけなげな姿は、

 ぼんやりした意識いしきの智子に、

 無形むけいちからを、あたえてくれた。

 

 

 友達ともだちって・・・ありがたい・・・


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