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ブレイクオンスルー  作者: カレーライスと福神漬(ふくじんづけ)
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最終回  グッバイ・ハロー!

 鹿間しかまもとへ歩いていく二人。


 彼の顔に、智子ともこが、白いハンカチをかけた。

 優希ゆきちかくから、んできた、白い花をそなえた。


 わせて、

 鹿間の冥福めいふくを・・

 心からいのった。


 高熱こうねつ火焔かえんで、けて、

 波打なみうっている、

 仏様ほとけさま・・〈鹿間しかま〉・・の、

 ノートパソコンが、

 遠目とおめにうかがえた。


 それは、今夜こんやのバトルの、

 象徴しょうちょうのように 智子の目には うつった。

 


 優希のほうを向き、

 ためらいがちに、

 相手あいて視線しせんをとらえ、

 固定こていえると、

 智子は、あらたまった口調くちょうで、言った。

「ゴメン。

あなたが一人でくるしんでいた時、

私はバカみたいにかれてた。

めちゃくちゃずかしい。

友達の資格しかくないね」


ぎたことは・・もういいよ。

今夜の活躍かつやく帳消ちょうけし。

智子は、

私にとって最高の友達・・かけがえのないひと!」


「そう言ってくれるのは、とってもうれしい。

けどさ・・優希・・

もし、私があのまま、

ズーっと火鳥ひどりと、

っていたら、

どうするつもりだったの?」


「もし?という仮定形かていけいの質問には、

もしも、という副詞ふくしをつけて答えたい。

「もしも、あなたとの友情が、本物ほんものなら、

いつかかならず気づいてくれるだろうと確信かくしんしていた。

私たちが、生きている、この世界には、

バランスというものが存在そんざいしていて、

複雑ふくざつ軌道修正きどうしゅうせいが、

たえず、なされていると私は信ずる!

結果けっかはごらんのとおり・・いかが?」

 

 独特どくとくやわららかい表情で、

 言葉ことばつむぎ出してくる、優希。

 彼女のひとみは、

 確固かっこたる、自信じしんひかりに、満ちていた。


「そういえば、神秘的しんぴてきとしか、形容けいようのできないコトが起こった。

むしらせ>って・・本当ほんとうにあるものなんだね!」

 

 智子の言葉をめ、深く、うなずく優希。

 

 智子は、あらためて、実感じっかんする。

 私という・・

 いたらない存在そんざいを、

 いつでも的確てきかくに受け止めて、

 啓発けいはつしてくれる。

 優希って、やっぱりサイコーだなァと。


 たとえ<もの>になってしまっても。


 優希ゆきの顔には、

 大きな仕事を終えたような、

 安堵感あんどかんただよっていた。


「ねぇ、優希・・

火鳥さんとのバトルで、

つくづく感じたんだんだけど、

絶体絶命ぜったいぜつめい状況じょうきょうめられた時、

ポジティブに反応はんのうすることが、

いかにムズカシイか・・

ノリでやっているうちは、本物ほんものじゃないね。


戦略せんりゃくや、

とおりいっぺんでない努力どりょくくわえて、

柔軟じゅうなん強靭きょうじん精神力せいしんりょくを、

あわせつこと。

そういった、いくつものはしら補強ほきょうしてこそ、

さずかった能力のうりょくかされる。

「これは・・もう、

一生いっしょうをついやすようなだいテーマだよ。

「そのうえ

うん>みたいな、

ワケかんないないモノまで、

ついてまわってくるしさ」

 ふーっと息をつく智子。


「いいこと言うじゃないの。

バスケットボールのみならず、あなたの人生じんせい

これから、飛躍ひやくする可能性かのうせい

おおいにりだね。

せいいっぱい生きてちょうだい・・わたしのぶんまで」

 

 智子の、

 片方かたほうまゆが、

 ピクリとがった。

「待って、優希!

どこへも行かないで。

ずっと、友達だよね?

ずっと、そばにいてくれるんでしょう?」

 

 優希は、

 悲しみをたたえた表情ひょうじょうで言った。

いて!

私は、もう、人間にんげんじゃないの!

こので、

三人のいのちを、あやめてしまった、

けネコ》なのよ!

地獄じごくちて業火ごうかに、きつくされる。

それがつみむくいというもの。

もう行かなくては」


「でも・・でも・・」


「さよなら、智子。

いつも、どこかで、あなたを見守みまもっているから。

みじかったけど、本当に楽しかった。

むねれる・・私の人生じんせい!」


「待って!もうちょっとだけ、話をしよう。

そうだ!

回転かいてん寿司ずしへいこうよ。

ネタだけ食べていいからさ。

それも・・好きなだけだよ。

お金の心配はいらない。

ぜんぶ私がつからさ。

優希には、おごってもらうケースが多かったから。

ぜひ、おかえしさせてしい!」


「ありがとう・・

気持きもちちだけいただく。

さよなら・・・智子・・・」


「ダメだよー!」

 智子のこえがピキューン!とハネがる。

「行っちゃダメだァー!!」

けネコだって・・傘化かさばけだって、

なんだっていいよ!

優希ゆきならば、かまいやしない!」

 親友しんゆう左腕ひだりうでをガッチリつかんだ。


きわけのないことを言わないの!

お願いだから、

その手を離して・・

ウエットなわかれだけは、カンベンして!」


「ダメだ!この手はんでも・離・さ・な・い!!

それから、ことわっておくけど、

あなたのつよ法力ほうりきも、いまの私には、通用つうようしないと思う。

神秘しんぴちからに、対抗たいこうするすべも、学習がくしゅうしたからね。

意志力いしりょくさ!>

「さあ、ためしに、私に法力ほうりきを使ってみてよ!

優希があじわった、くるしみの、

100ぶんの1でも、

けたいたい気分きぶんなんだから!

一度は、にかけたんだ。

もう・・こわいものなんて・・なにもない。

あなたを、あのには、絶対ぜったいに、行かせないから!

絶対ぜったいに!」


「お願いだから・・

こみげてくるじゃないの」

 優希の目から、

 宝石ほうせきのような涙が、

 こぼれ落ちる。

 

 智子の目にも、涙が、あふれ出る。


 ここは、なんとしても手を離すわけにはいかない。 

 二度にどと優希にえなくなってしまう。


 理屈りくつも、ヘッタクレもない。

 きずなられたくないゆえの、

 もう・・純度じゅんど100パーセント、

 母親ははおやにすがりつく子供こどもみたいな、

 本能ほんのう的な行動こうどうである。 



「ちょっとくらい、閻魔えんま大王だいおうを、

たせたっていいじゃないか、

もる話も、あることだし。

それでも行くと言いはるのなら、

私を、道連みちづれにするしかない!」

 

 パトカーのサイレンの音が、

 役角寺えんかくじ裏庭うらにわに、ひびいてきた。


 さざなみのように、おとが、接近せっきんしてくる。


「わかって、智子!

もう、タイムリミット!

その手をはなしてちょうだい!」


「イヤだ!

はなさない!」


はなしなさい!」

 優希がしかるように言った。


「い・や・だ!!」

 ダダっ子のように、

 智子がこたえる。


「もーう。

こうなったら、仕方しかたがない」

 優希がちからづくで、

 親友の手を、

 りほどきにかかる。

 

 しかし、智子の手は、容易よういにハズれない。

 とんでもないちからめられている。

 

 りほどこうとする、優希。

 スッポンのように離れない、智子。

 

 二人はコマのように、

 裏庭うらにわをクルクルまわる。


「しつこいぞ!この馬鹿ばかヂカラ!」

 優希がを上げる(うれし涙をながしながら)。


学習効果がくしゅうこうかプラス、

意志力いしりょくと言ってしい!!」


 いま、手を離したら・・終わってしまう、

 二度と、優希に会えなくなるのだ。

 こころのヤワな部分ぶぶんみょうにヒクヒクするが、

 ここでいては、絶対ぜったいにいけない!

 イイ人じゃだめだ!

 ものかりの悪いイヤなやつになるのだ!


 意志いしかため、

 いしばって、

 必死ひっしで優希をきとめる智子の顔も、

 また・・涙でぐしゃぐしゃ。

 

 パトカーのサイレン音が、ひときわ、大きくなった。

 こちらへ向かってくる。

 

 優希が、

 急ブレーキをかけた。

 動きをストップさせ、

 真正面ましょうめんから親友を見すえた。

 

 智子の手は、

 あい変らず、

 優希の左腕ひだりうでを、つかんだまま、ロックしていた。


 呼吸こきゅうととのえる・・優希。


 彼女の目が、

 まるで、雪解ゆきどけ水のように、

 さーっとんでくる。


 すこしくをおいて、

 優希の口から、言葉が、はっせられた。


復活ふっかつ予約よやくは・・キャンセルしたの!」



「ハァーッ!?」


 智子の手のちからが、

 ストーンとけた。


 プロテクトがはずれる。


 優希のうでから・・

 みずからの意志いしはんして・・

 手が・・はなれてしまった。



 警官隊けいかんたいが、

 はしってくる足音あしおとがきこえる。

 

 優希は、

 脱力だつりょくした智子にヒシときついた。

「さよなら・・智子。

素晴すばらしい人生じんせいを!」


 そう言って、さっと、身をひるがえし、

 つきほうに向かって、けてゆく。

 

 途中とちゅうあしめ、

 かたしに顔をけた。


「私のむくろは、ここの無縁墓地むえんぼちなかにある。

それから・・記念きねんのボールを、

だいなしにしちゃってゴメンなさーい!

素敵すてきなアウターは、おおかえしするから」━━「byeバイトモコ!」

 

 智子は、親友の最後の言葉を、胸にきざんだ。

 

 

 優希は、月の光に、

 け込んでいくように、

 しずかに、姿を、消した。

 

 

 優希が、いていった、

 純白じゅんぱくのアウターが、

 月の光を反射はんしゃしていた。


 その下側したがわから、

 もぞもぞと、

 黒ネコのクリルが、

 小さな顔をのぞかせた。

 

 かけ寄る智子。

 優希のわす形見がたみきあげた。


「ミヤーオ♪」

 

 せき止められていた、

 疲労ひろう蓄積ちくせきが、

 津波つなみのように、

 一挙いっきょに、

 智子へおそいかかった。

 クリルをきしめたまま、

 その場に昏倒こんとうした。

 

 

 満月まんげつが、

 凄絶せいぜつなエネルギーの、ぶつかりった、

 現場げんば裏庭うらにわらし出していた。


 威容いようほこるクスノ木が、沈黙ちんもくしている。

 その年輪ねんりんには、

 今夜こんや出来事できごとの、

 一部いちぶ始終しじゅうが、

 きざみこまれたにちがいない。

 

 

 意識いしきうしなった、

 智子のほおを、

 クリルが、

 ピチャピチャとめている。






 目がめた。

 そこは、ベッドの上だった。

 智子の腕に、点滴てんてきくだがつながっていた。

 どうやら・・病院にいるらしい。

 

 あれから、

 どのくらいの時間がったのだろうか。

 頭がぼんやりおもい。

 意識いしきかすみがかかっているようだ。

 

 智子をのぞきこむ、いくつもの顔があった。

 母親、海先生、かおるほか、バスケ部のレギュラーじん

 

 見覚みおぼえのないロング・コート姿の男性の顔もあった。

 あとで知ったことだが、

 男性は刑事けいじだった。


「クリル・・子ネコ・・クリルは?」

 智子が、さきに、口にした言葉である。

 

 母親が、ベッドの下から、

 ペット用のバスケットを取りげた。


 バスケット・ケースの、

 アクリルばんごしに、

 小さな黒ネコを確認する、智子。

 安心あんしんしたように、深く息をついた。


「お前・・四日間よっかかんも眠り続けていたんだよ」

 母親が、

 心配顔しんぱいがおで娘を見つめて言った。


月吉つきよし・・

いったい、なにがあったんだね?」

 海先生が、

 安心あんしんさせるように、

 福顔ふくがおをニコニコさせてたずねた。

 

 智子の意識いしきおおう、

 どんよりとしたヴェールがはがれた。


 記憶きおくがよみがる。


 はげしい錯乱さくらんを起こした。


 頑丈がんじょうな身体を、

 あらん限り、

 バタバタ痙攣けいれんさせ、

 暴風雨ぼうふううのように、たけくるう。

 蓄積ちくせきされた の 感情エネルギー!


 その発露はつろは、

 周囲しゅういの者を、思わず、金縛かなしばりにしてしまう。


 なみではないはげしさ。


「優希・・ああ・・優希・・」

 

 海先生が、

 智子の口内こうないに、

 素早すばやくハンカチを押し込んだ。

 そうして、母親とふたりで押さえにかかる。

 バスケ部員もヘルプする。


 冷静なかおるが、

 ナース・コールボタンを押した。


 

 意識いしき回復かいふくした智子の、

 証言(しょうげん)および、提出証拠ていしゅつしょうこ

 〈鹿間しかまから、ことづかった、フラッシュメモリのデータ〉

 により、

 ようやく、

 事件のアウトラインが明確めいかくになった。

 

 停滞気味ていたいぎみだった、

 警察けいさつ捜査そうさも、

 スムーズにながれだした。


 ここからさきは、

 メディアで報道ほうどうされたとおりである。

 

 俗称ぞくしょう❝《晶学しょうがく惨劇さんげき》❞は、

 面白おもしろおかしく料理りょうりされ、

 メディアによって提供ていきょうされ続けた。

 

 被害者ひがいしゃである犬城優希けんじょうゆきの、

 家柄いえがらが良く、

 くわえて、

 たいへんな美少女であったこと。

 

 加害者かがいしゃの、

 少年A〈火鳥翔ひどりしょう〉が、

 凄惨せいさんな、殺害場面さつがいばめんを、

 共犯きょうはんの少年たちに指示しじして、

 動画どうが収録しゅうろくさせた、という事実じじつは、

 世間せけん震撼しんかんさせた。

 

 少年Aのかく部屋べやからは、

 クロロホルムや、

 パウダーじょう睡眠すいみん導入剤どうにゅうざい発見はっけんされた。

 クローゼットには、

 被害者ひがいしゃ死体したい

 バラバラに解体かいたいした、エンジン・チェーンソーや、

 軍事用ぐんじよう火焔放射器かえんほうしゃきの、

 燃料ねんりょうボンベ(の予備よび二本)が保管ほかんされていた。

 

 殺害場面さつがいばめん動画どうがを、

 あるテレビ局が入手にゅうしゅして、

 放送ほうそうし、大反響だいはんきょうを、んだ。

 もちろん・・

 モザイクだらけの映像えいぞうだったが、

 インパクトは絶大ぜつだいであった。

 

 死者ししゃ四名よんめいが、たこと。


 <猪瀬いのせは、奇蹟的きせきてきいのちをとりとめた>

 

 事件に、深く関係した、月吉智子つきよしともこが、

 一部いちぶ〈高校バスケットボールかい〉では、

 の知られた生徒であったことなど、

 ニュースの材料ざいりょうには、ことかなかった。


 火鳥の遺体いたいは、

 智子の証言しょうげんをもとに、

 クスノ木の根元ねもとふかくからり出された。

 


 無縁墓地むえんぼちからは、

 パーツごとに解体かいたいされて、

 黒焦くろこげになった、

 優希の、

 遺体いたいが発見された。

 


 現場検証げんばけんしょうに、

 った智子ともこは、

 遺体確認いたいかくにんさい

 親友の、

 変わりてた姿に・・

 なにより、

 人の持つ悪意あくいの、

 みにくさ、おそろしさ、残酷ざんこくさに、

 感情かんじょう制御せいぎょうしない、

 声をげて泣いた!



 優希の遺体いたい解剖かいぼうされ、

 その結果けっか・・

 体内たいないから、

 睡眠薬すいみんやく成分せいぶん検出けんしゅつされた。


 少年A〈火鳥〉が、保管ほかんしていたモノと、

 同一どういつの、

 睡眠薬すいみんやくであった。


 日本では、販売はんばいが、許可きょかされていない、

 個人輸入こじんゆにゅうも、

 禁止きんしされている、

 猛獣もうじゅうを、

 捕獲ほかくするときなどに、使用しようされる、

 <強力きょうりょく睡眠すいみん導入どうにゅう作用さようつ>

 劇薬げきやく指定してい違法薬物いほうやくぶつであった。

 

 

 警察が、

 首をひねったのは、

 蜂谷はちやに手をくだしたのはだれか?

 ということであった。

 事故死じこしでないことは明白めいはくだった。


 一時いちじは・・月吉智子を、

 容疑者ようぎしゃとしてマークしたが、

 アリバイが証明しょうめいされた。

 

 火鳥をほうむり、

 土中どちゅうふかくにめた、

 実行犯じっこうはんだれなのかも、

 判然はんぜんとしなかった。


 そして・・その手段しゅだんなぞめいていた。

 

 められていた場所が、

 地下ちか35メートル地点ちてんとは、

 尋常じんじょうならざるふかさであり、

 掘削くっさく機械きかいでも使わなければ、

 不可能なレヴェルであったからだ。


 猪瀬の、

 寄生虫きせいちゅうけんと、

 紛失ふんしつした、

 生物せいぶつの教師〈海先生〉のシャーレが、

 どうむすびつくのか、

 決定的けっていてき一点いってんが、えてこない。

 

 とりわけ不思議ふしぎなのが、

 今回こんかいの事件で、

 ひんぱんに、そのが出てくる、

 犬城優希けんじょうゆきという・・生徒の存在そんざいだ。

 

 殺害さつがいされたあとも、

 事件にかかわるように、

 何度なんども学園に姿を見せている。


 被害者〈犬城優希〉が殺害さつがいされた日時にちじは、

 解剖かいぼう報告ほうこくと、

 動画どうが映像えいぞうを、

 詳細しょうさい分析ぶんせき検証けんしょうした、

 結果けっか・・

 検視けんしかんによって、

 ほぼ、正確せいかくり出されていた。


 月吉つきよし智子ともこ証言しょうげんに出てくる、

 犬城けんじょう優希ゆきは、

 九月の第四週だいよんしゅうに、実施じっしされた、

 推薦入学すいせんにゅうがく考査試験こうさしけん最終日さいしゅうび翌日よくじつに、

 死亡しぼうしているのだ。


 にもかかわらず・・彼女は、

 そのあとも月吉智子と行動をともにしている。

 

 刑事は、

 角度かくどや、質問内容しつもんないようを変え、

 任意出頭にんいしゅっとうした智子を、

 再尋問さいじんもん

 再々(さいさい)尋問じんもんしたが、

 証言しょうげん矛盾むじゅんほころびはなく、

 終始しゅうし一貫性いっかんせいがあった。


 第三者だいさんしゃ証言しょうげんも、

 彼女〈智子〉の話を、

 うらづけるばかりであった。

 

 時系列じけいれつわない!

 

 犬城けんじょう優希ゆきは、死後しごも、生きていたことになる。

 彼女に姉妹しまいや、

 それにじゅんずる者はいない。

 

 学園には、

 死後しごに、

 優希を見たというもの続出ぞくしゅつした。

 

 新聞部しんぶんぶ保管ほかんされていた、

 体育の日に開催かいさいされた、

 球技大会きゅうぎたいかい動画どうがを見た刑事たちは、

 すじのさむくなる思いがした。

 

 躍動やくどうする犬城けんじょう優希ゆきの姿が、

 そこに、

 しっかりうつされていたからである。

 死後しご10日以上が、

 経過けいかしているのにもかかわらず・・だ。


 

 まるで・・現代の怪談かいだんではないか!?

 

 刑事たちは、頭を、かかんだ。


 

 事件の責任せきにんを取るかたちで、

 水晶学園の校長と、

 三年C組の代理担任だいりたんにん辞職じしょくした。

 校長はともかく、

 かい先生が学園をっていったことは、

 智子をふくめ、

 C組の生徒たちを落胆らくたんさせるにあまりあった。

 

 例年れいねん

 大にぎわいの『水晶祭すいしょうさい』も、

 まったくがりにけた。

 

 ミス・水晶学園すいしょうがくえん選出せんしゅつイベントも、

 今年は中止ちゅうしになった。

 

 ❝《晶学しょうがく惨劇さんげき》❞のあと、

 水晶学園は、

 なにか、

 火が消えてしまったようになってしまっていた。

 

 智子は、

 ともすれば、

 脱力だつりょくしそうになる、

 自分自身じぶんじしんをムチ打ちながら、

 残された高校生活を、

 バスケットボール部の後輩指導こうはいしどうにあてていた。

 

 後輩こうはいたちは、

 歯をいしばって、

 主将しゅしょうの、 

 きびしい指導しどうについていった。

 

 シュートの練習で、

 ダンクがまるたびに、

 智子の中に、

 優希の面影おもかげが、

 鮮明せんめいかびがる。

 

 記憶の中に、

 ありありと残る、

 感触かんしょくともなった優希のイメージが、

 立体化りったいかして、

 ホログラフのように現出げんしゅつする。


 炸裂さくれつする花火群はなびぐん色彩しきさいが、

 脳内のうない乱反射らんはんしゃする。


 ボールをわきかかえた、

 智子の動きがピタリと止まり、

 両手のひらを、じっと見つめる・・

 

 放心状態ほうしんじょうたい

 

 コート周辺しゅうへん不穏ふおん空気くうきひろがっていく。

 部員ぶいんたちが、不安ふあんそうに、主将しゅしょう見守みまもる。

 

 また、れい発作ほっさはじまるのではないか・・

 先日せんじつも、

 錯乱さくらん状態じょうたいになってあばれまわり、

 部員ぶいん全員ぜんいんちからわせて、

 やっとのことで、

 主将しゅしょうさえた経緯けいいがあったのだ。

 時間にして、わずか10分程度であったけれど、

 全員ぜんいんが、あせまみれになり、あらいきいた。

 

 

 かおるが、機転きてんかせて、

 主将しゅしょうのボールをたたきとしインターセプトする。


「ヘーイ、どーした、トモコ!」

 ボールを、

 左右の手で交互こうごにドリブルさせ、

 挑発ちょうはつする副主将ふくしゅしょう


主将しゅしょうガンバ!」

 後輩こうはいたちがエールをくれる。

「ハートに火をつけて!!」

 

 闘争心とうそうしんが、智子のうちに、メラメラと呼びさまされる。

 かおる正面しょうめんを向く、

 そして気合きあいを入れた。

「よーっしゃ!いくぞ!」


 


 冬が過ぎ去り、春が来た。

 高校生活は、風のように、過ぎていった。


 卒業式そつぎょうしきを終えた・・その日。

 智子はおともれ、

 優希のお墓参はかまいりに出かけた。


 おともとは、

 ペット用バスケットに、

 お行儀ぎょうぎよくおさまったクリルである。

 

 風のない、おだやかな、春の午後であった。

 

 霊園れいえん小高こだかい場所に、

 犬城家けんじょうけの、

 立派りっぱ墓所ぼしょが見える。


 墓前ぼぜんくすかのように、

 沢山たくさん仏花ぶっかそなえられ、

 線香せんこうけむりがモクモク立ちのぼっていた。

 

 戒名かいみょうに変わってしまった優希の、

 真新まあたらしい墓前ぼぜんで、

 神妙しんみょうな顔をして、手を合わせている人物じんぶつがいた。

 

 海先生かいせんせいであった!

 

 久しぶりに再会さいかいたした二人は、

 〈クリルも一緒に〉、

 優希の冥福めいふくを心からいのった。


 智子は道々(みちみち)

 海先生と、

 学園の想い出ばなしをしながら、

 もと代理担任だいりたんにんのマンションに向かった。

 

 八階でエレヴェーターをり、部屋へ入る。

 

 リビングに通され、かいに、ソファーへすわる。

 


 家具かぐもの絵画かいがとう

 配置はいち塩梅あんばい、そのバランス感覚かんかくが素晴らしい。

 モダンだけれども落ち着きがある。

 室内しつないはアルファ派にちている。

 海先生の、

 趣味しゅみの良さが、にじみ出ていた。

 


 先生も、

 智子との再会さいかいを心から喜んでいた。

 福顔ふくがおを、

 よりいっそうニコニコさせ、

卒業祝そつぎょういわいだ!」

 とウィンクして、

 ベルギー・ビールのせんいてくれた。

 

 海先生の手料理てりょうりや、

 おせした、

 めずらしい缶詰かんづめを食べ、

 もる話をかたり合った。

 

 やもめらしである、

 先生の料理は、かけねなしに、美味おいしかった。

 

 プラス・・

 缶詰かんづめあじには刮目かつもくした。

 みなと水揚みずあげされたばかりの、

 新鮮しんせんなサバを、

 しおのみで味付あじつけした、それは・・絶品ぜっぴんであった。

 

 学園を辞職じしょくしたあと、

 先生は、四国しこく霊場れいじょうを、

 お遍路へんろしていたそうだ。


 日本酒をちびりちびりやりながら、

 その時のエピソードを、

 お得意とくい話術わじゅつで語ってくれた。


 先生のユーモアに、

 智子は久しぶりに、腹をかかえて笑った。


 みそぎのたび最中さいちゅうにも、

 好奇心こうきしん茶目ちゃめを忘れない、

 先生にあらためて・・感心させられた。

 

 海先生はかたりかけながら、

 以前いぜんより、成長発達せいちょうはったつした、智子の身体に目をみはった。

 まさに、ハチれそうな肉体にくたいである。

 高校生の、時の経過けいかは・・本当ほんとうに早い。

 

 クリルは、

 智子の足もとで、

 缶詰かんづめのサバにしたづつみをうっていた。

 

 もと代理だいり担任たんにんおしは、

 意識いしきして、

 犬城けんじょう優希ゆき話題わだいは避けてとおった。


 核心かくしんをさけ、

 その円周えんしゅうを、

 まわかたち会話かいわが、

 いまは、必要ひつようであり・・

 また、それが、自然しぜんなのだ・・と感じていた。

 

 時をわすれ、

 飲み、語り、交歓こうかんした。


 智子は、門限もんげんがあるので、

 帰宅きたくしようと、何度なんどかアクションをこしたが、

 海先生は、そのたび引き止めて、はなしてくれなかった。

 

 智子も、

 このを、去りがたかったが・・

 母親のキビシイ説教せっきょうを考えると、

 そうそう、長居ながいもしていられなかった。


 ブレスの強烈きょうれつな、

 おもい言葉のジャブ、フック、ストレート、アッパー・カットが、

 際限さいげんなくり出されてくるのだ。

 それを、正座せいざしながら、聞く。

 苦行くぎょう以外いがいの・・なにものでもない。


 智子が、こので、

 もっと回避かいひしたい事態じたいであった。

 

 門限もんげん関門かんもんは、

 海先生による、

 母親への電話一本で、

 あっけないくらい簡単かんたん解決かいけつした。

 先生に対する、母親の信頼しんらいは、いまでもあつかったのだ。


 こうして、海先生と智子による、

 優希の追悼式ついとうしきは、真夜中まよなかぎても、

 そのパワーを、うしなうことなくつづけられた。


 先生の話術わじゅつは、

 いよいよわたり、

 ブランデーで、いのまわった智子は、

 七転しちてん八倒ばっとうして、笑いころげた。

 

 

 マックスまでアルコールを、摂取せっしゅした、海先生は、

 ついに・・ちからきた。

 

 気絶きぜつしたように、

 ソファーに、ばったりとたおれ、

 深い寝息ねいきをたてはじめた。

 

 その、丸い寝顔ねがおには、

 ゾッとするようなけわしいシワが、

 〈傷痕きずあとのように〉

 きざまれていた。

 

 智子は、寝室しんしつから持ってきたまくらを、

 先生の頭の下にすべらせ、毛布もうふけてあげた。

 


 ベランダへ出て、外の空気を、胸いっぱいいこむ。

 夜明よあけの太陽が、

 そろそろ、姿を見せはじめていた。


 新鮮しんせんな空気、

 小鳥ことりのさえずる声に、朝のキラメキが感じられる。


 智子の若い身体に、

 わけもなく、

 エネルギーがちてくる。

 

 ベランダの手すりから身を乗りだす。  


 太陽に向かって、

 コブシをし、

 さけんだ━━━「ブレイクオン・スルー!」

 

 すると、呼応こおうするように、

 可憐かれんな声が、

 ひびいてきた━━━「トゥ・ジ・アザーサイド!」

 

 おぼえのあるこえだった。

 

 もう一度、さけぶ。

「ブレイクオン・スルー!!」


「トゥ・ジ・アザ―サイド!!」

 

 たしかに、優希の声が、こえた。

 

 たとえ、このにいなくても、どこかで、つながっているんだ!

 そんな思いを強くする。

 


 目の前の手すりに、

 クリルが、

 ピョン!とった。


 長いシッポを前足まえあしに、

 マフラーのようにきつけて、

 ひんのいいおすわりをしてみせる。


 智子は、

 いつくしむように、

 黒い子ネコを見つめた。

 その表情には、母性ぼせいが、ちあふれている。

 

 クリルは、智子の、ジャスト正面しょうめんいた。


 ふいに、みぎ前足まえあしをヒョイ!とげ、

 まねきネコのポーズをとった。

 続く動作どうさで、

 カクンと、小さな顔を、下に向ける。

 それから・・おもむろに・・顔をこした。

 

 目が、反転はんてんして、白目しろめになっている。

 

 白目しろめ黒目くろめ、白目、黒目、白目、黒目・・・

 白黒しろくろ連続技れんぞくわざなり。

 

 いかにも、

 得意とくいそうな表情で、

 かくしげいを、披露ひろうしてみせるクリル。


「あぁ あぁ あぁ あぁ あぁ あ!」


 あとずさりしながら、

 目を・・大きく見開みひらく・・智子。

 

 まばたきをかえしホッペタを・・つねる。


「ああ、ああ・・まさか・・優希ゆき・・優希ゆき!」

 

 智子のむねが、

 息苦いきぐるしいほどあつくなった!


 クリルを手に取り、

 き上げ、

 ほおずりをする。


「ああ・・優希・・」

復活ふっかつ予約よやくは・・キャンセルしていなかったんだね!」



                the end




皆さん、最後まで読んでくださって、本当にありがとう!

また、いつの日か、お会いしましょう。

グッド・バイ!


2017年1月1日から、

『汐坊の哉カナ』を連載開始しました。

おヒマな時間があれば、覗いてやって下さい!

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