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ブレイクオンスルー  作者: カレーライスと福神漬(ふくじんづけ)
33/40

33 不協和音(ふきょうわおん)

 火鳥の、手のひらには、

 キメのこまかい、白いこな小山こやまが、あらわれた。


 智子のが・・・てんになる。

 


 火鳥が、ミステリアスなみを、かべた。


 のひらを、くちに、ちかづける。


 くちびるをすぼめた。


 つよく、いきを、きかけようと・・・・・・


「ハックション!!」

 智子が、

 豪快ごうかいな、クシャミをした。


 しろこなは、あっというに、残らず、飛散ひさんした。


 その瞬間しゅんかん

 火鳥の表情が、変わり、

 後方こうほうに、バッと、んだ!


 スタイリストのかれらしくもない、

 なまなましい、

 不恰好ぶかっこうな、動作どうさであった。

 

「ゴメンなさい、火鳥ひどりさん。

きゅうに、はながムズムズしちゃって」

 

「ハハハ・・・だれかさんが、

きみのうわさをしているのかもね・・・」

 火鳥が、

 手のひらを、

 ズボンでぬぐいながら言った。

 


 かえりぎわに智子は、

 彼のコレクションの中から、

 ジム・モリソンの貴重きちょうハガキを、

 数葉すうようもらいけた。


 ことわったにもかかわらず、火鳥は、駅まで送ってくれた。


 かたにまわされた、

 彼の腕のぬくもりは、

 家に帰ったあとも、

 えることはなかった。

 



 そらには、

 灰色はいいろくもから、顔をだすように、

 半月はんげつが、かんでいる。


 なまあたたかい風が、ほおをなでる。

 湿気しっけおおい、よるだった。


 

 智子を駅まで送った、かえみち

 火鳥ひどりは、

 不吉ふきつ足音あしおとを、

 聴知ちょうちした。


 「・・・?・・・!」


 足音を、めないふうを、よそおって、

 あるきつづける火鳥。


 見当けんとうは・・・ついていた。

 予測よそく範囲内はんいないであった。


 彼のくちもとが、冷酷れいこくに、ゆがむ。

「ククククク・・・」

 

 あるくテンポを、はやめる。


 尾行びこうしてくる、

 何者なにものかの、足音あしおとも、

 おなじように、はやまる。


 ピタリと、かさなりあった、足音あしおとが、

 夜道よみちに、あつく、ひびきわたる。


 役角寺えんかくじへいぎわに、

 をよせるように、あるいている火鳥。


 グッ!と気合きあいをこめ、

 へいの上に、手をかけ、ひとりくれた。


 こうがわへ、乗りこえる。

 寺内の墓地ぼちに、ひらりと、着地ちゃくちした。

 

 ひとのまったくない墓地ぼちに、

 湿気しっけをふくんだ、おもかぜが、そよぐ。


 墓石ぼせきが、月光げっこうを、つめたく反射はんしゃさせていた。


 なまあたたかいかぜは、

 しだいに、

 いきおいをし、木々(きぎ)らす。


 が、

 えんえがくように、いあがる。


 つきあかりのもと

 円状えんじょうに舞い上がる、の葉。


 その・・・えん中心点ちゅうしんてんから、

 犬城けんじょう優希ゆきが・・・姿をあらした。

 

 半月はんげつが、雨雲あまぐもにかくれた。

 霧雨きりさめが、りだした。


 火鳥が、腕組うでぐみをして、むかえつ。

 

 優希の身体から、

 得体えたいのしれないパワーが、

 放出ほうしゅつされる。


 墓石ぼせきが、はげしく振動しんどうした。


 墓所内ぼしょないらす街灯がいとうと、

 卒塔婆そとば数本すうほんが、

 するど金属きんぞく音をともない、

 連鎖れんさして、ヒビれ・・・

 粉々(こなごな)に・・・くだけった。

 

 ひかりおびを、放射ほうしゃする、

 優希のシルエットぞうを、

 遠方えんぽう街灯がいとうが、

 おぼろに、らし出す。

 

 はげしさをした、雨が、

 視界しかいを、せまくする。


 強風きょうふうが、

 雨を、四方八方しほうはっぽうに、まきらした。

 

   犬城優希けんじょうゆき

    と

   火鳥翔ひどりしょう

    が

   対峙たいじする。

 


 やみなか・・・


 優希の全身から放射ほうしゃされる、

 ざまじい

 それは、無数むすうの、

 鋭利えいりはりのよう!

 

 シルエットの優希が、

 垂直すいちょくに、宙高ちゅうたかく、んだ。


 地上ちじょう・・・約10メートルで・・・静止せいし

 

 ハイスピードで、方向転換ほうこうてんかん

 身体を、

 するどく、かたむける。


 夜空よぞらにした、

 鋭角えいかく姿勢しせいで、

 標的ひょうてきに、

 あたまを、け、

 攻撃態勢こうげきたいせいに、移行いこうした。


 限界げんかいまで、

 キリキリっと、ゆみを引ききって、

 

 一閃いっせん


 弾丸だんがんが、射出しゃしゅつされた!


 目にもとまらぬ速さで、

 ターゲットに、おそいかかる!

 

 火鳥は片足かたあしを、半歩はんぽ、うしろに引いた。


 むねポケットから、

 おまもぶくろを、引っぱりだすと、

 優希のほうきだし、

 迎撃げいげき態勢たいせいを取る!

 

 45度上方じょうほうから、

 スピーディーに、

 ぐんぐんと、

 滑空かっくうしてくる優希。


 バリバリバリ!


 火鳥の2メートル手前てまえで、

 はじばされた。


「ギャーッ!!」


 高圧電線こうあつでんせんれたように、

 感電かんでんして、スパークを起こした。


 多量たりょう火花ひばなが、

 優希の身体から、

 四散しさんした。


 

 きりもみじょうになり、

 さけごえげ、

 落下らっかしながら、

 空中くうちゅうで、はげしく、のたうちまわる。


 火鳥ひどりは、

 おまもり袋を、かかげ、

 ねんを・・・めた!


 墜落ついらくすることから、

 どうにか、まぬがれ、

 優希は、

 宙空ちゅうくう3メートル地点に、とどまった。

 

 どくを、られたような、

 苦悶くもんの表情を、浮かべていた。

 

 火鳥を、保護ほごする、

 透明とうめいなバリアに、

 なすすべを・・・せない・・・


 魔除まよけの法力ほうりきが、

 幾層いくそうにも、ねんじこまれており、

 彼女のパワーを・・・ふうってしまう。

 

 極限きょくげんまで、

 パワーを、

 増幅ぞうふくしても・・・火鳥には・・・とどかない!


 みごとに、ハネかえされてしまう・・・


 まるで、かがみに向かって、

 光を、はなつようだった。

 

 あめ刻々(こくこく)と、はげしさをす。

 かぜ猛々(たけだけ)しく、きすさむ。

 暴風雨ぼうふうう様相ようそうを、ていしてきていた。


「悪霊退散!」「怨敵退散!」「派羅蜜多!・・・」

 

 おまもり袋を、きだし、

 おきょうを、

 一心いっしんとなえる、ズブれの火鳥。

 

 ねんめられた法力ほうりきや、

 おきょうの、

 とどかない地点ちてんへと、退避たいひ

 宙空ちゅうくうを、

 すべるように、

 きゅうバックする優希。

 

 地上ちじょうから、

 45度線上どせんじょう位置いちする、

 ・・・火鳥

     と

    優希・・・


 じ、

 お守り袋をかかげ、

 一心不乱いっしんふらんに、

 お(きょう)となえる火鳥と、

 宙空ちゅうくうの優希が、

 5メートルの間隔かんかくを、

 いて、

 かいう。

 

 優希は、

 火鳥を、キッ!とにらみつけると、

 夜のやみに、

 まれるように、姿すがたした。

 

 すると、うそのようにあめみ、

 かぜもピタリといだ。

 

 くもながれ、

 かおを、のぞかせた半月はんげつと、

 火鳥が、

 45度の角度かくどで、っていた。

 

 火鳥は、半月はんげつに、くるりとけ、

 おまもりを、むねポケットにしまうと、

 冷然れいぜんとした表情ひょうじょうで、

 何事なにごともなかったように、

 本堂ほんどうへ向かって、あるきだした。


 

 智子の学園生活は、ここにきて、

 あきららかな変貌へんぼうを、げていた。

 火鳥とごす時間が、大幅おおはばえたのだ。

 

 わりをかたちとなったのが、優希だ。

 

 智子は、休み時間には、火鳥とかたらい、

 昼休みこそ、義理立ぎりだてして、

 優希と屋上おくじょうで、昼食ちゅうしょくをともにしたが、

 事務的じむてきにすませ、

 カレシのもとへ、さっさと、行ってしまった。


 下校時げこうじも、

 優希のさそいを、のらりくらり、ことわっては、

 役角寺えんかくじへ、あしげく、かよった。

 

 登校とうこうの時は、さすがに、いままでどおりだったが、

 優希が話しかけても、うわのそら

 ねつかされたような塩梅あんばいで、

 こころここにあらず・・・

 会話かいわが、まるで、かみあわなかった。

 

 あれほどの、一致いっちを、みていた、

 ふたりのベースラインがズレ、

 不協和音ふきょうわおんを、かなではじめていた。

 

 火鳥は、とうぜんの権利けんりを、行使こうしするように、

 二人のそばにやってきてては、

 智子に話しかける。


 そのたびに・・・

 優希は・・・

 はなれることになる。

 

 火鳥を保護ほごする、透明とうめいなバリアが、あるかぎり、

 優希は、

 彼のギリギリ半径はんけい一メートル以内いないに、

 ちかるコトができない。


 バリアの内側うちがわから、

 優希の力を、無力化むりょくかし、くるしめる、

 法力ほうりき電波でんぱのようなモノが、

 放射ほうしゃされていた。


 まるで、孫悟空そんごくう緊箍児きんこじ・・・

 ・・・〈あたまの〉・・・であった。


 火鳥が、三蔵さんぞうで、

 自分が、悟空ごくうなんて・・・認めたくないンだな!

 と、

 もとミス・水晶学園は・・・ 内心ないしんで、愚痴ぐちった。

「《わたくしこと・・・犬城優希けんじょうゆきは、

 いまだかつて、

 いっぺんだって、

 おサルにているなんてコト、

 言われたことないのにィ。

 ・・・あー・・・ヤだ・・・ヤだ!》」


 平常時へいじょうじの、法力ほうりきの、

 有効範囲外ゆうこうはんいがいは、

 おおよそ()メートル(・・・・)

 そこまで、距離きょりければ、だいじょうぶだった。


 火鳥が、近くにってくれば、

 磁石じしゃくのマイナスきょく

 あるいは、プラスきょく同志どうしのように、

 ハジキされ、はなれざるをえない・・・優希だ。

 

 りかえされる、彼女かのじょ離脱りだつぶりを、

 自分じぶんたいする、てつけと、

 智子ともこは、けとった。

 

 うごとに、

 二人の関係かんけいは、ギクシャクしたものとなり、

 修復しゅうふくが、すんなりと、なされなくなってきていた。


くない傾向けいこうだ。

こういう関係かんけいのぞましくない」

 

 智子の、だいのニガテと、するところだった。

 生来せいらい、さっぱりした気性きしょうの持ちぬしである、

 バスケ主将しゅしょうは、

 反省はんせい意味いみもこめて、

 友人ゆうじんとの関係かんけい軌道きどうを、

 修正しゅうせいしようと、

 早めに来て、朝の新鮮しんせん空気くうきい、

 待ち合わせ場所の、大噴水だいふんすい前で、待っていた。


 熟睡じゅくすいしたあとのあたまは、

 クリアで冷静れいせいである、

 よくよく考えてみれば、自分のまいたタネじゃないか。

 

 優希は、

 友人を見つけると、

 小走こばりに、かけって来た。


 右手には通学用つうがくようバッグ、

 左脇ひだりわきには、なにかを、かかえている。


「はーい、智子。おはよう!!」

「はーい、優希。おは」

 

 大きく破顔はがんすると、

 優希が、いきおいこんで言った。

「ああ、良かった。きのうの感じでは、

もしかしたら、もう一緒いっしょ登校とうこうできないんじゃないかという、

不安ふあんにさいなまれていたのよ。

あきららかに気分きぶんを、がいしていたでしょう?」


「バカバカしい、とりこし苦労ぐろうだよ。

こっちこそ、優希に、あいそをつかされたのかと思ってた。

よけいな、をまわすのはやめよう。

親友しんゆうなんだから、うちら!」


「智子、受け取ってくれるよね・・・私からのプレゼント!」

 優希はそう言うと、

 前衛的ぜんえいてきなデザインが、

 ほどこされたビニールぶくろを、わたす。

 

 進呈しんていされたおくりものを、ひらく智子。

 

 ドアーズの『ストレンジデイズ』アナログLPエルピーばんてきた。

 ちゃんと、リアジャケット写真も、いている。

 

 カラフルなドレスにつつんだ、

 神秘的しんぴてきな女性に、

 愛嬌あいきょうのある少年が、

 うやうやしくタンバリンを、

 しだしている写真が、

 リア(めん)に、っていた。


「どうしたの、これ?」


「うん。きのう一人で、西新宿へ行って、

中古レコード店巡てんめぐりをしたの。

七件目でようやく見つけてね。

もう、ラッキーセブン、ビンゴ!って感じ。

あなたのヨロコブかおが、まえかんでさ!」

 

 興奮気味こうふんぎみに、まくしたてる優希。


「へぇー、ほんと。サンキュー、どーも、ありがとう」


「どうしたの?あんまりウレしそうじゃないみたいね」

 友人の顔を、のぞきこむ優希。


「なに言ってるの。ウレしいに決まってるじゃん」

 口元くちもとを、ぎゃくへの(V)にして、笑ってみせる。


「それは、かった!」

 優希はホッといきをついた。


 かたならべて、登校とうこうするふたり。

 とりとめのない話をしながら、歩いていると、

 背後はいごから、こえがかかった。


「おーい、ご両人(りょうにん)!」

 

 同時どうじにふり返る、智子と優希。

 

 火鳥が、口もとに、硬質こうしつみをかべ、

 足早あしばやに、ちかづいてた。

 むなもとには、むらさき色のおまもり袋がれている。

 

 優希は、彼の姿を見とめるや、

 小さな悲鳴ひめいげ、

 一目散いちもくさんに、

 学園方面がくえんほうめんへと、けだした。

 

 

 火鳥は、すまなそうに頭をかきながら、智子にびる。

「どうやらぼくは・・・犬城くんに・・・

・・・毛嫌けぎらいされているようだね。

和気わきあいあいな空気くうきを、

ブチこわしにしてしまった。

ほんとうに、もうしわけなく思う」


「いいえ、火鳥ひどりさんは、

ちっとも、わるくありませんよ・・・

・・・わるいのは・・・」


 

 智子ともこかおが、

 どすぐろあかみを、びた。


 


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