24 お寿司のメリーゴーランド♪
「ラーメンでも、食べよっか?」
お腹の虫を、ぐーっと鳴らして、
智子が提案する。
優希はクンクンと、
可愛らしく小鼻をひくつかせ、
大きな瞳を、ある場所へ向けた。
新装オープンしたばかりの、
回転寿司チェーン店。
店名を連呼するCMで、
おなじみの・・・『ラッパ寿司』だった。
新宿西口店。開店記念!
<中トロ、ウニ、イクラ、甘エビ・・・
どのネタも、二貫一皿で、 120円均一>
と、うたわれていた。
ふたりは、小走りに駆けより、
行列の最後尾に、加わった。
一時間とすこし待たされ、
ぶじ、カウンター席に、腰を落ちつけた。
皿の上に、二貫並んだ、
お寿司が回転し、目の前を通りすぎていく。
種類が豊富であった、
ハンバーグやヤキソバ、お菓子が乗った、お寿司まである。
そのようすを、
興味深そうにみつめながら、目を輝かせている優希。
智子は、
友人に、食べ方のルールを、
かいつまんで説明しながら、
ティーバッグのお茶を、大きな湯呑みに、淹れてあげた。
「まるで、お寿司のメリーゴーランドみたい」
口もとを、ほころばせる優希。
智子は・・・想う・・・
そういえば、優希と回転寿司の店に来るのは、初めてだ。
彼女は、魚貝類を、好まない。
寿司も、うなぎも、ほたて貝も、すべてNGである。
彼女自身、こういった形式の店に入るのは、
たぶん、初めて、じゃなかろうか?
それにしても、食の好みというものは、
かくも急激な変化を遂げる、ものなのだろうか?
大好物の、
ねぎトロが乗った絵皿へ、手を伸ばす。
顔には、例の、
逆への字(V)笑みが、浮かんでいる。
軍艦巻きを、見るたびに、感心するのだ、
型の決まりきった、
江戸前寿司から、
よくぞ生まれたコロンブスのたまご。
・・・グッド・アイディアだ。
うちのオヤジも、
もっとアイディアを練りあげて、
後世に残るパンをつくりゃあいいのに。
小皿のしょう油に、ネギトロをつけて、口にはこぶ。
海苔の良き香りが、口の中いっぱいに広がる。
ネギトロと酢メシが、口の中で、トロけそうだ・・・もぐもぐ。
隣りの席の優希へ、チラッと目をやる。
すると・・・智子の顔・・・『逆への字(V)』が、
分解され、
変形し、
瞬時に、
再構築されて、
『へのへのもへじ』と化した。
「あわわわわわわ」
丸椅子から、すべり落ちる・・・『へのへのトモコ』。
優希は、自分の前に、パッとお皿を取り置くと、
シャリ〈酢メシ〉を、残し、
ネタだけを、ペロンペロン、平らげていた。
肩を寄せあうシャリだけ乗ったお皿が、
彼女の前に、十皿ほど、並んでいた。
「こ、こらっ!優希、お行儀が悪い!
こんな食べ方は、前代未聞・・・これこそ笑えない」
起き上がりこぼしのように、すっくと起き上がり、
メガネの奥の目を、ミクロからマクロ、またはその逆へと、
何度も、収縮させ、マナーを説いた。
「お寿司というのは、ネタとシャリを、一緒に食べるものでしょうが。
さっきのマックの一件といい、たいがいになさいよ。
食への冒涜!
あなたのマナーを、根本的に、疑りたくなってくる」
顔を、真っ赤にして、注意する。
しかし、優希は、友人の言葉など、さっぱり耳に入らない。
エビ・イカ・タコ・中トロを、
ネタのみ、
陶然とした表情で、食べ続ける。
顔の方を、お寿司に、接近させ、
手を使わず、
くちびると舌でもって、巧みに、
ネタのみをすくい上げ、
口の中に、おさめていく。
おそろしく、オリジナリティーに富んだ、食べ方であった。
カウンター内の寿司職人は、
ビックリ人間を、目のあたりにしたように、驚き!
信じられないというように、口をあんぐり、開けている。
「こら・・・こらっ・・・!」
広いおデコに手をやって、絶句し、
うつむいてしまう智子。
どのように、言葉をかけていいのか、まったく分からない。
お手上げだ!
・・・フリーズ状態↓
お嬢さまは、イクラやウニなどの軍艦巻きをも、
鮮かに、ネタだけを、舌先で、すくい取った。
残された、
ハゲ山のような寂しげな軍艦巻きを見て、
二の句が継げない、バスケ部主将。
まわりのお客たちは、
開店祝いのアトラクションでも見るように、
面白がって、注目している。
「わわわ、どうしよう?困ったなぁ・・・
なんとかして、事態を、収拾しなきゃ」
うろたえまくる智子。
残念なことに、
彼女に、妙案は、浮かばなかった。
しかし、哀しいかな、
智子のDNAには、母親譲りの、
倹約家の資質が、たっぷり備わっていた。
とうぜんの帰結というべき行動に、出る。
食べ残しのシャリを、
自分の胃袋で、
かたずけるという、原始的手段だった。
次からつぎへ、シャリを口に放りこみ、そしゃくする智子。
「これじゃあ・・・〈もしゃもしゃ食べながら〉、
・・・正真正銘・・・
・・・スターと付き人だよ・・・!」
シャリを、ほおばり、グチる。
ネタを担当する優希、
シャリ担当の智子。
急転直下、
役割分担が決定された。
ペロン、ペロン・・・もしゃ、もしゃ。
リレーしながら食べ続ける。
熟練の餅つきコンビさながら、
息もピッタリ。
まわりのお客たちや、
カウンター内の寿司職人は、
この、めったにお目にかかれない、光景を、
歴史の立会人になったような目つきで、
見物していた。
カードで、会計を、すませる優希。
開店祝いの景品、
招きネコの
<吸盤付き>スマートフォン・ストラップを、
二個もらった。
黒ネコは優希、白ネコは智子へ。
「ああ、美味しかった!」
黒ネコのストラップをかざし、
満足顔で、見つめる、優希。
「うっぷ!シャリだけで、
60皿以上だなんて、
新種の拷問だよ・・・
胃袋が破裂しそう・・・」
関取りなみに、せり出したお腹を、
両手でおさえ、
のそのそと、店から出てくる智子。
学校をさぼってドカンとはじけそうなのは、
どうやら、智子のお腹のようだった。
そのあと、ふたりは、デパート巡りをした。
コスメ売り場で、優希の長居は、三時間を超えた。
彼女は、真剣勝負のように、
化粧品を、
じっくりチェックしながら、見て回る。
智子は、じれったさに、音を上げそうになった。
けれども・・・
友人の、輝ける瞳の中に、
なんとも形容しがたい、哀しみを見つけたとたん、
その感情に、不可思議な経路で、シンクロしてしまった。
智子の意識に・・・変化がおとずれた・・・
<閉店までだって、
優希に、付き合ってやるぞ!>
デパートを出ると、
ふたりは、シネコンへ直行した。
「なにを見ようか?」
たがいの希望を、口にする。
注目の日本映画が、どーしても見たい智子、
かたや、見たくてたまらない洋画を、推してくる優希。
希望は、意見に変わり、
主張に変化、
やがて、議論にまで、発展していった。
智子は声のオクターブを上げ、
全身を使って、自己の主張をする。
優希は、両手を腰にあて、
一歩も引かない、ソリッドの構えで、受けて立つ。
激しい応酬を重ねた結果、
ついに、智子が折れた。
こういうシチュエーションで、
優希に、
勝てたためしは、なかった。
ふたりは、恐竜の出る、アメリカ映画を見ることになった。
シネコンを出ると、
喫茶店に入り、映画の感想戦や、
とめどないおしゃべりに、花を咲かせた。
その日のフィニッシュに、
ふたりは、カラオケ店に入った。
バスケ部主将が五曲に対して、なぜか、
ミス・水晶学園は一曲という、割り当てであった。
智子は、ヒット曲を、かたっぱしから、がなりたてる。
カラオケボックス、今宵のMVPは、
優希がアカペラで唄った・・・『アヴェ・マリア』にさらわれた。
智子は、息を呑み、恍惚とさせられた。
ウーロン茶のグラスを、危うく、落っことしそうになった。
曲名は忘れたが・・・
イギリスの著名なバンドの、
三声を重ねたバラードを、
聴いたときと、同種の、
聖なる感動に打たれた。
夜も遅くなってから、
智子が、帰宅すると、
海先生が、訪ねてきていた。
さばさばした表情で、エスケープを詫びる。
彼女のケロッとした顔を見て、
海先生は、安心して、帰っていった
そのあとで、両親には・・・やんわりと叱られた。




