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ブレイクオンスルー  作者: カレーライスと福神漬(ふくじんづけ)
22/40

22 結界(けっかい)

 まどそとながめている、智子ともこ

 


 授業中じゅぎょうちゅうだが、

 頭の中は、

 もっぱらバスケットボール、がめていた。

 国体こくたいの東京代表のレギュラーになれるかどうか?

 国体のあとは、

 ウィンターカップの予選よせん

 のこ半年はんとしを切った、高校生活は、

 バスケットボール一色いっしょくになりそうな、気配けはいである。

 

 そういえば・・・

 優希と卒業旅行そつぎょうりょこうをしようという、話もあったっけな。

 ふうー、めまぐるしい。


 外を見つめる。

 雨にケム校庭こうてい

 鉛色なまりいろの空から、大粒おおつぶの雨がち、

 地面じめんに、

 えんをえがき出しては、

 えてゆく。


 落ち着いた、なんともいえない感じ。

 まるで雨に遮断しゃだんされた、

 別世界べつせかいにいるみたい。

 脳派のうはは、アルファレヴェルにとどまり、

 ・・・リラックスの水平線すいへいせん

 純度じゅんどの高い時間。

 

 そんな静けさが、いっきょに、ちやぶられた。

 校門こうもんの前には、

 数台すうだいのワンボックスカーやバイクが、

 きゅうブレーキをかけて止まった。


 腕章わんしょういた、

 マスコミ関係者がキャメラとうを持ち、

 校門こうもんの前に、たむろした。


 すわ、なにごと?

 教室内はどよめき、

 授業などそっちのけで、

 クラスメートの私語しごが、とびう。

 

 いったい、なにが、起こったのか?

 

 その解答かいとうが、提出ていしゅつされたのは、午後ごごだった。

 

 午前中の授業が終了した時点じてんで、

 講堂こうどうに、

 全校生徒ぜんこうせいとが、あつめられた。

 

 校長が、沈痛ちんつうな表情で、マイクに向かい、

 言葉をえらびながら、慎重しんちょうに、話をすすめた。

一昨日いっさくじつのこと・・・ある生徒が、

危険きけんドラッグを摂取せっしゅして、

無免許むめんきょでバイクを運転し、

交通事故こうつうじこを起こしたあげく・・・

被害者ひがいしゃを、死亡しぼうさせてしまうという・・・

なんとも、いたましい事件じけんが、こりました。

生徒は、現在げんざい

警察に身柄みがら拘束こうそくされ、

事情じじょう聴取中ちょうしゅちゅうです・・・

・・・まことに、遺憾いかんであります」

 

 校長こうちょう教頭きょうとう

 事故を起こした生徒のクラスを、担任たんにんしていた教師は、

 マスコミ対応たいおうに、大わらわであった。


 夕方ゆうがたのテレビニュースでは、

 三人が頭をげ、

 陳謝ちんしゃする映像えいぞうが、流された。


危険きけんドラッグ、名門めいもん私立高校しりつこうこうにまで!】

 事件は、

 新聞の夕刊ゆうかん社会面しゃかいめんに、

 紙面しめんを大きくさいて、掲載けいさいされた。


 生徒たちのうわさからうわさへ、

 メールからメールへと、

 多大ただい好奇心こうきしんをみたすべく、

 膨大ぼうだい情報じょうほうが、やりとりされた。

 

 その結果、取り調べ中の生徒の名前や、

 さまざまな事情じじょうが、あきらかになった。


 事故じここしたのは、美術部びじゅつぶの部長であった。

 コンクールで、しょうたこともある、

 有能ゆうのうな生徒である。

 インターネットをつうじて、

 個人輸入こじんゆにゅうしていたらしい。


絵画表現かいがひょうげん限界げんかいを、ちやぶろうとした」

 と供述きょうじゅつしているそうだ。

 


 彼は、

 ある霊山れいざんを、おとずれていた。

 標高ひょうこう二千メートル地点ちてんにつくられた、

 結界けっかいに、さしかかる。

 きりが、視界しかいを、おぼろげにしていた。


≪従是俗人結界≫

 と表示ひょうじされた、

 石造いしづくりの道標どうひょうが、鎮座ちんざしていた。

 中央には、

 木材もくさいでしつらえたもんが、

 せいぞくとの境界線きょうかいせん

 すなわち━結界けっかい━となり、

 足をふみいれる者を、

 睥睨へいげいするように、かまえられていた。

 

 この、俗人拒否ぞくじんきょひ結界けっかいを、ふみこえると、

 役角寺えんかくじゆかりの、

 密教寺みっきょうでらが、存在そんざいした。

 

 古来こらいより、

 きびしい修行しゅぎょうとして、

 えらばれし、行者ぎょうじゃむかえ入れていた。

 修行しゅぎょうの前に、剣〈つるぎ〉を、わたされ、

 ぎょうに、失敗しっぱいしたさいには、

 これを使って、みずから、いのちつのだ。


 結界をえ、

 もどってこれなかったものも、

 数知かずしれず。

 

 

 本堂ほんどうでは、護摩ごまかれ、

 ほのお正面しょうめんに、

 住職じゅうしょくが、して、

 しずかに、手をわせ、

 おきょうとなえていた。

 

 本堂ほんどうへ、とおされる・・・火鳥ひどり

 住職じゅうしょくは、

 おきょう中断ちゅうだんすると、

 姿勢しせいを変えて、こちらを向いた。


 火鳥ひどり正座せいざをし、

 頭をげ、

 バッグから、

 紹介状しょうかいじょうを取り出すと、

 住職じゅうしょくに手わたした。

 

 高僧こうそうと謳〈うた〉われる住職じゅうしょくを、

 至近距離しきんきょりで見た火鳥は、

 いささか拍子抜ひょうしぬけした。

 ごく平凡へいぼん風采ふうさいの、

 小柄こがら老人ろうじんでしか、なかったからだ。

 

 古老ころうという形容がピッタリだった。

 

 眼光がんこうが、

 特別とくべつするどいわけでもなく、

 威圧いあつするようなオーラもなかった。

 

 形式的けいしきてき内容ないようの、

 紹介状しょうかいじょうを読み終えると、

 住職じゅうしょくは、

 おだやかな目を向けて、言った。


「どうさなれた?」


役角堂えんかくどうこもって、

堂入(どうい)り>の荒行あらぎょうをしたい、

そう、決意けついして、まいりました」


「なぜじゃね?」


「おのれの限界げんかい可能性かのうせいを、

見究みきわめてみたいのです。

不浄ふじょうきよめ、

できることならば、

真実しんじつちかられてみたい・・・

・・・そのような思いからです」


「ほほう。七日間なのかかん断食だんじき

節水せっすい断眠だんみん

よこになることも、ゆるされず、

ひたすら自己じこを、見つめる。

・・・やり意志いしを、おちか?」


「はい。覚悟かくごは、できております」

 住職の目を、見据みすえて、言った。


「では、しばし」

 住職じゅうしょくは、

 ふたたび護摩ごまほのおに向き合い、

 念珠ねんじゅの、百八つのたま交差こうささせ、

 おきょうとなえる。

 

 火鳥も、おな方向ほうこうを向き、手を合わせた。

 

 住職じゅうしょくのおきょうは、

 空気をらすこともないほど、清静せいせいとしている。

 うちからうちへと、

 沈潜ちんたいしていくような、印象いんしょうであった。

 

 しばらくすると、

 住職の身体からはっせられる、

 <質感しつかん>が、

 かすかな・・・

 ・・・変化を・・・げた。

 

 は、徐々(じょじょ)に、

 気体きたいから、

 透明とうめいなペーストじょうへと、

 メタモルフォーゼしていった。

 

 えはしないが、

 触感しょっかんのある<>は、

 えんえがくように、

 少しずつ、少しずつ、ひろがっていって、

 本堂内ほんどうないを、

 くまなくつつみこみ、支配しはいしてしまった。


 そのれた、

 とたん・・・火鳥は、

 はげしい、嘔吐感おうとかんに、おそわれた。

 

 心身しんしんいずれも、制御不能せいぎょふのう

 身動みうごきできなくなり、

 猛烈もうれつな、が、せりあがってくる。


 強力きょうりょく自白剤じはくざいを、

 注射ちゅうしゃされたような、状態じょうたいにおちいり、

 心の・・・中の・・・

 ひたかくしにしたい、

 やみ部分ぶぶんが、

 深奥〈しんおう〉から、

 強奪ごうだつされるように、引きはがされた。

 

 護摩ごまの炎は、

 いきおいを、増幅ぞうふくさせ、

 火柱ひばしらとなり、

 高い天井てんじょうに向かって、

 轟音ごうおんをうならせ、

 昇竜しょうりゅうのごとく、

 垂直すいちょくに、びあがった。

 

 ほのおの中から、

 黒点こくてんが、

 ズン!と現出げんしゅつした。

 それは、大きさをし、

 黒いかげへと、かたちえた。

 

 かげ短時間たんじかんで、

 はっきりした、像〈ぞう〉を、ともない、

 明瞭めいりょうに、認識にんしきされた。

 

 犬城優希けんじょうゆきの姿が、

 蜃気楼〈しんきろう〉のように、

 かびがった。

 

 正座せいざをくずし、

 思わず、

 うしろをついてしまう・・・火鳥。


火鳥ひどりくんとやら・・・どうやら、

もの>に、ねらわれておるようじゃのう。

きみを、

心底しんそこ憎悪ぞうおし、

取り殺そうとしているようじゃ!

「・・・いわずもがな・・・

他人たにんは、いつわれても・・・

・・・おのれは・・・いつわれんのじゃよ!」

 

 住職はひと笑いすると、

 たちまち、厳格げんかくな表情に変わり、

 気合きあいを、めた。

 

 本堂ほんどうに立ちこめた、

>が、

 激変げきへんしていく。

 

 急旋回きゅうせんかいし、

 一か所へ、

<優希のぞう>にかって・・・

・・・収斂しゅうれんされてゆく。

 

 念珠ねんじゅを、前方ぜんぽうにつきだす!

「喝〈かぁーーーつ〉!!」

 

 分厚ぶあつ胆力たんりょくのこもった声が、はっせられた。

 

 本堂全体ほんどうぜんたいが、

 凄烈せいれつなまでに、

 鳴動めいどうした。

 

 恐怖きょうふにかられ、

 両手で、頭を押さえて、

 必死ひっしで、

 たたみに、

 へばりつく・・・火鳥・・・

 

 短時間たんじかんで、

 うそのように、

 鳴動めいどうは、おさまった。

 

 すると・・・優希の姿は、

 ケムリのようにえ、

 火柱は、またたくに、しずみ、

 護摩ごまほのおは、

 平常へいじょうに、戻った。


役角堂えんかくどうにて、七日間なのかかん荒行あらぎょう

えたあかつきに、

魔除まよけの護符ごふ』を、さずけることにする。  

もの>は非常ひじょう強力きょうりょくじゃ。

生死せいしして、

ぎょういどむがよいぞ!」

 

 土下座どげざして、

 こうべを、深々(ふかぶか)れる、火鳥。


 達人たつじんとは、まぎれもなく、存在そんざいするのだ。

 

 すごい・・・ただひたすら・・・凄い!

 

 精神せいしん昂揚こうようが、

 止めどもなく、げてくる・・・ 


 いつまでも・・・いつまでも、

 身体のふるえと、発汗はっかんが止まらなかった。





 週が明け、くもぞらした

 

 優希ゆき一緒いっしょ登校とうこうしている智子は、

 いつになく、上機嫌じょうきげん(V)。

 

 国体こくたい東京代表選抜とうきょうだいひょうせんばつ〉の、

 レギュラーのに、

 手がつどきそうな、

 言葉にならない、実感じっかんがあったのだ。

 

 選手せんしゅ個々(ここ)実力じつりょくは、

 いうまでもなく、伯仲はくちゅうしていた。

 だが、

 アスリートの根幹こんかんをなす、

 体力たいりょくにおいて、

 智子は、頭ひとつ、きんていた。

 自信じしんになる、一点いってんが、えたのだ。

 

 りすぐりの東京代表メンバーが、

 をあげる練習は、たしかにキツイ!

 メンバー全員ぜんいん

 失神寸前しっしんすんぜんまでしぼられて、

 ヘトヘトになった。

 

 練習後、ひかしつでは、

 みんな、マグロ状態じょうたいで、

 しばらく、がれなかった。

 シャワーをびる気力きりょくすら、なかった。

 

 しかし、智子には、余力よりょくが残っていた。

 一番に、シャワーをび、

 帰宅後きたくご

 一人でおこなう、夜間練習やかんれんしゅうも、

 かさなかった。


 短期間たんきかんながら、

 監督からの信頼しんらいも、ている・・・〈ように思える〉。


 それと、

 晶学しょうがくレギュラーたちには、

 もうわけないけれど・・・

 高いレヴェルにじって、

 バスケットボールをするのは、

 刺激しげきがあり、

 ワクワク度が、まるで違う。

 不安ふあんより希望きぼうが、はるかにまさっていた。

 

 試合しあいのときに、

 こういうパスを、このタイミングで、

 この軌道上きどうじょうに、してくれたら、

 シュートの精度せいどが、

 格段かくだんに、がるのになァ、

 と思っていたボールが、

 イメージどおり出てくる驚き・・・喜び。

 

 このメンバーをもってすれば、

 桃花とうか女王じょうおうメンバー中心ちゅうしんで、

 んでくる、

 三重県みえけんの代表チームにも、

 たちうちできるにちがいない(V)。


 明日あしたから、

 まりこんでの、

 本格的ほんかくてきな、高地合宿こうちがっしゅくが、はじまる。

 

 ワァオ!

 いい方向ほうこうころがっているぞ、

 残り少ない、私の高校生活。

 

 三年C組の教室に入って、

 優希と駄弁だべっていると、

 校内放送で、職員室に、呼び出された。

 

「なんだろうなぁ?」

 といいながら、教室を出る智子


 話し相手がいなくなってしまった優希は、

 窓から校庭こうていを、ぼんやりながめていた。

 すると、

 視界しかいに、

 異様いよう光景こうけいが、うつしだされた。

 


 それは、

 大型おおがたサイレンのような、

 ごえを、わめかせながら、

 校庭こうていを、サイのように、け、

 学園がくえんから、びだしていく、

 智子の姿すがただった。


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