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ブレイクオンスルー  作者: カレーライスと福神漬(ふくじんづけ)
20/40

20 食欲の秋

 保健室ほけんしつのベッドに、

 となわせで、よこになり、

 智子ともこ優希ゆきは、

 ぼんやり天井てんじょうを、見あげていた。



「どうやら、あなたを、運動能力うんどうのうりょくてんで、

過小評価かしょうひょうかしていたみたい。

いま、わたし反省はんせいしてる。見なおしたよ・・・優希!」

 おそろしく、スカッとした口調くちょうで、智子が言った。


「うーん。なんというか、

自分が自分ではないような気分きぶんだった。

バーに向かって、助走じょそうするでしょう、

ると、勝手かってに身体が、ピョーンとハネあがるのよ」

 しなやかにびをして、

 全身ぜんしんを、ぶるぶるっとふるわせる、優希。


はし高跳たかとびで、あんなにえるなんて。

バスケの試合しあいでも、

あそこまでの完全燃焼かんぜんねんしょうは、めったにない。

ヒトには、ねむっているパワーが、あるのかもしれない」


「わたしも、そう思う・・・」

 つぶやくように、優希が言った。

 

 どちらともなく、それぞれのベッドから、手をばす、

 たがいの手を、かたくにぎりしめ、

 友情のぬくもりを、交感こうかんした。


 

 お昼休み。

 いつものように、

 屋上おくじょう定位置ていいちで、昼食ちゅうしょくタイム。

 

 九月くがつも、のこすところあとわずか、空は秋を感じさせた。

 雲のりんかくはボヤけ、色彩しきさいも、あわい。

 空と雲のコントラストが、希薄きはくであった。


 クリーム色のカーディガンをはおった二人は、

 指定席していせきともいうべき椅子いすに、腰かけている。


 きょうの飲みものは、ホット・グリーンティー。

 オレンジ色のキャップをけ、

 ミニペットボトルでカンパイ!

 

 テーブルの上に乗った、お弁当箱べんとうばこに手を伸ばし、

 かたや・・・性急せいきゅうに、

 一方いっぽうは・・・おもむろに、

 食事しょくじにとりかかる。

 

 ときおり、役角寺えんかくじ視線しせんはしらせ、

 お弁当べんとうをパクつく優希。


「へぇー。ふだんより、

しょくすすむみたいだね。はしのスピードが違うもの」

 友人の食欲しょくよくに、目をみはる智子。


「うん、そうね。たっぷり運動したあとって、ゴハンがおいしい」

 

 いつもの習慣しゅうかんで、

 身を乗りだすようにして、

 優希の弁当箱とおかず入れを、のぞきこむ。

「あれまっ!これは、おめずらしい。

おかかごはんに、サンマがおかしらつきで、ドンと一匹いっぴき

あの魚嫌さかなぎらいの、おじょうさまがねえ・・・

・・・大雨おおあめでもりそう」

 広いおデコをたたき、しきりと感心する。


「どうぞ、しあがれ」

 おかず入れを、しだす優希。


「ご相伴しょうばんにあずかるとしますか」

 サンマに、はしをつける智子。

 

 かわの部分を、

 はなすように、き、をつまむ。

 しばし、首をかしげ、けげんな表情をして言った。

「このサンマ・・・生焼なまやけだよ」


「そーお?」

 にすることなく、

 火のとおっていない部分ぶぶんを、たっぷり口にふくみ、

 かみかみして、食べる優希。


「あぶなくない?おなかこわしたりしない?」

 心配しんぱいそうな、

 気味きみの悪そうな、顔をむける。


「だれかさん、言わなかったっけ?

さかなは、あたまから、

マルごと食べるくらいじゃなければ、ダメだって」

 いたずらっぽい視線しせんを、かえしてくる。


「まあ・・・それは・・・そうなんだけど」

 太陽が一瞬、雲にかくれ、智子の顔に、翳〈かげ〉がさした。


 

 昼食をすませ、屋上でくつろいでいると、

 サイレンの音とともに、

 『緊急校内放送きんきゅうこうないほうそう』がひびいた。


●スズメバチのが、体育館裏たいいくかんうらで、

 発見はっけんされたため、

 大至急だいしきゅう

 校舎内こうしゃないに、避難ひなんすること!

 

●消防署の隊員たいいんが来て、

 を、除去じょきょするまでは、

 教室内に退避たいひしているように!



 屋上おくじょう階段かいだんけおり、

 いそいで教室へもどる、二人。


 

 三十分たらずで、

 消防車と、スズメバチ退治たいじ専門家せんもんかは、到着とうちゃくした。

  

 第一発見者だいいちはっけんしゃの生徒が、呼ばれた。

 生徒が、巣のあった場所を、

 スズメバチ退治たいじ専門家せんもんかに、説明する。

 

 生徒からの報告ほうこくけ、

 くだんのを、

 実地確認じっちかくにんしていたかい先生も、

 スマートフォンで撮影さつえいした画像がぞうを、

 専門家たちに見せた。


 

 智子は、休み時間になると、

 まっしぐらに、

 体育館裏たいいくかんうらが、眺望ちょうぼうできる場所へ、走った。


 窓際まどぎわの、特等席こくとうせきに立つ。

 ヤジ馬群うまぐんの、最前列さいぜんれつに、陣取じんどり、

 スズメバチ退治(たいじ)を、

 大いなる興味きょうみを持って、見守みまもる。


 不思議なことに・・・スズメバチ退治の専門家は、

 問題の巣を、発見することは・・・できなかった。

 しばらくネバってみたが、杳〈よう〉として見つからない。

 基地きちである、は、おろか、

 スズメバチ一匹、さがしあてることは、できなかった。

 探索たんさくは、暗礁あんしょうに乗り上げた。

 

 専門家せんもんか消防隊員しょうぼうたいいんは、

 首をひねりながら、消防車で帰っていった。

  

 智子は、授業のことなど忘れ去り、

 そのようすを、るように見つめていた。

 

 トントン!

 肩をたたかれる、感触かんしょく

 

 ハッ!とふり返る。

 そこには・・・優希が立っていた。


「ダメじゃないの。授業じゅぎょうを、ほっぽりしちゃ」


「ゴメン。つい、時間をわすれて、夢中むちゅうになっちゃった」

 

 いたずらをした子供こどもが、

 母親ははおやに、れもどされるように、

 優希のうしろにくっついて、教室へもどる。


「あれ?かみに、なにか、いてるよ!」

 友人のクセのない髪に、付着ふちゃくしていた、

 や、えだを、はらってあげる。


「ありがとう」

 ふり向いて、おれいを言う優希。


「身だしなみは、たいせつに。へへへ」

 

 優希は・・・

 <一本いっぽんられました!>

 という表情をすると、

 まねきネコのポーズを、してみせた。


 

 放課後ほうかご

 テストの成績せいせきわるかったものは、

 補習ほしゅうを、受けなければならない。

 しかし智子には、

 ましてや、優希には、無縁むえんの話である。

 

 

 智子は、国体こくたい合同練習ごうどうれんしゅうへ、

 優希は、むかえを待っている、車の駐車場所ちゅうしゃばしょへと、

 それぞれ学園がくえんを、あとにした。


 


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