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ブレイクオンスルー  作者: カレーライスと福神漬(ふくじんづけ)
18/40

18 陽炎(かげろう)

 翌日よくじつあさ

 

 

 智子ともこは、いつもとわることなく、

 大噴水だいふんすいの前で、優希を待っていた。

 定刻ていこくをまわっても、姿をみせない。


 時間には正確せいかくなはずの・・・

 優希ゆきなのに・・・。

 

 ラインでメール入れてみる。

 返信へんしんはなかった。

 それではと、

 彼女のスマートフォンへ、直接ちょくせつ

 連絡れんらくしてみるが、留守電るすでんになっていた。

 しかたがないので、メッセージを残して・・・切った。

 

 遅刻ちこくギリギリまでねばってみたが、

 優希は、

 いっこうに現れなかった。


 うしろがみを、強く引かれる思いで、学園に足を向けた。

 

 

 一時間目は、ホームルームであった。

 

 となりの席が・・・ぽっかり・・・いている。

 優希はどうしたのだろう?

 カゼでも、引いたのかな?

 それとも、親戚しんせきに、

 突然とつぜん不幸ふこうでも、あったのか?

 はたまた、事故じこにでも・・・遭遇そうぐうしたのだろうか?

 

 海先生にたずねてみたが、

 まだ学園に連絡は入っていない、ということだった。

 

 智子の胸中きょうちゅうは、

 めったにない、

 イヤな予感よかんと、

 不安ふあんにゆれていた。

 

 教室内では、いつものように、

 クラス委員長いいんちょうの火鳥が、

 議長ぎちょうをつとめている。

 

 教壇きょうだんち、

 本日ほんじつ議題ぎだいであるところの、

『学園内での、スマートフォンやタブレット端末たんまつ使用しよう、マナーについて』

 を、冷静れいせい進行しんこうさせていた。

 

 猪瀬いのせは、

 ひどく緊張きんちょうして、

 表情はおろか、全身がこわばり、

 他人たにんをよせつけない、

 加害妄想かがいもうそうオーラを出していた。

 

 蜂谷はちやといえば、

 放心状態ほうしんじょうたいで、

 んだ魚のような、うつろな目をしている。

 

 一方いっぽう鹿間しかまは、

 神経質しんけいしつそうに、

 おどおどしながら、

 優希の席を、ぬすみ見るようにしていた。

 まるで中心部〈ヘソ〉のない人間のようであった。

 

 海先生は背すじをばして、

 ややメタボなおなかに手をまわし、

 窓ぎわで椅子いすに腰かけていた。

 

 チョークを使い、生徒たちの発言を、

 みごとな楷書かいしょで、

 板書ばんしょしていく火鳥。

 

 三年C組のホームルームは、

 活発かっぱつ議論ぎろんが、

 展開てんかいされることが多いが、

 きょうは、

 どことなく、

 がりに、けていた。 

 

 試験終了しけんしゅうりょう直後ちょくごということもあるが、 

 このさきは、

 秋の行事ぎょうじが、

 目白押めじろおし、というが最大さいだい理由りゆうであった。


 球技きゅうぎ大会に、

 つづいて、

 はなやかさでは、

 都内でも屈指くっし評判ひょうばんの、

水晶祭すいしょうさい』=〈学園祭〉が、

 三日連続みっかれんぞくで、

 開催かいさいされるのである。

 

 とりわけ、最終日のイヴェントである、

『ミス・水晶学園コンテスト』は、

 雑誌ざっしやネットでも、取りあげられるほど、

 注目度ちゅうもくどが高く、

 そのがりぶりときたら、

 花火大会とクリスマスを、

 一日に凝縮ぎょうしゅくしたような、

 熱狂ねっきょうぶり・・・なのであった。

 会場には、はいりきれないほどのひとが、

 毎年まいとし大勢おおぜい集まってくる。

 

 というわけで、

 あらしの前の、なんとやら・・・

 クラス全体ぜんたいのバイオリズムも、下降かこうぎみなのである。

 発言はつげんする生徒もすくなく、教室内は、いでいた。

  

 静かな教室の、前方ぜんぽうとびらが、するすると開いた。

 クラスメートの注意が、

 そちらのほうに、集中する。

 ひとりの生徒が、姿すがたをあらわした。

 ・・・犬城優希けんじょうゆきだった。


 ハッ!として、

 チョークをとす火鳥ひどり

 瞬時しゅんじに、

 顔色かおいろは、

 蒼白そうはくの、

 さらなる彼岸ひがんとも言うべき、

 しろわった。

 すべりちたチョークが・・・

 床に当たって・・・くだけた。

 

 猪瀬いのせは、ワッ!と声を上げ、思わず立ちあがり。 

 

 蜂谷はちやは、椅子いすからいきおいよく、すべり落ちた。

 

 鹿間しかまは、

 椅子いすごと、あとずさり、

 歯のが合わずに、ガチガチ音をたてていた。

 

 

 火鳥ひどりの前を、楚々〈そそ〉と、とおりすぎる優希ゆき

 

 

 そのとき、

 ふたりのあいだに、

 陽炎かげろうが、らめいた。


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