16 死神の使い
その人物の、服装は、白で、統一されていた。
優希は、恐怖に、身をすくめた。
白づくめの、火鳥が、ふり返った。
猪瀬に、目で、合図を送り、
オーディオセットのほうへ、歩いて行く。
猪瀬は、優希の背後から、
囲いこむように、前方に両腕をまわし、
力をこめた。
電子ロックをかけられたように、
腕の自由を、
完全に封じられた、優希。
彼女は、
左右に身をよじりながら、
激しくあらがった。
火鳥が、おもむろに、優希の前へ立った。
必死の声をふりしぼり、
顔を赤くして奮闘している、
ミス・水晶学園。
彼女を、
185センチの生徒会長が、
無表情な顔で・・・見おろす。
室内に、音楽のイントロが、流れてきた。
その曲を、耳にしたとたん、
優希の全身が、凍りついた。
ドアーズの・・・『ラ‘メリカ』
火鳥が、右手を、振りあげた。
反動をつけ、
硬いコブシを力いっぱい、
優希の左頬に、たたきつける。
グシャッ!!
重い音をたてて、
血しぶきと、
二本の歯が、とび散った。
ボー然とした表情の、優希。
神経回路が、
ショートを起こし、麻痺してしまった。
次いで火鳥は、
精確に、狙いをさだめ、
渾身の左ストレートを、
優希の、もう片方の頬に、お見舞いした。
打ちこまれたパンチは、
彼女の頬骨を、粉砕した。
優希の口から、ドロリとした、太いすじの、血が流れ出る。
麻痺の、金しばりが、急激に解かれた。
半狂乱になり、
叫び、泣き、わめき上げる優希。
「痛いっ!痛ァーい!痛ァーァーい!!」
猪瀬がひるんだ。
両腕の力が、萎える。
目の前のできごとに、
衝撃を受けた・・・「ありえない、なんてこった!」
ライト係と、キャメラマンも、驚きをかくせない。
優希は、自由になった両手で、顔をおおいつくす。
首をはげしく振り、問いただした。
「痛いっ・・・!」
「どうして?・・・どうしてですか?」
「わたし、なにか、火鳥さんの、気にさわることしましたか?」
号泣し、カベに張りついて、かがみこんだ。
さらに逃げ場を、探すように、
あとずさるが、コンクリートのカベに、押し返されてしまう。
そんな優希を、
めった撃ちに、殴る、蹴る。
首や、わき腹などの、
急所へ、
ダメージの強い暴力を、叩きこんでいく。
返り血が、火鳥の服を、赤く染めていった。
さらに火鳥は、
優希自慢の黒髪を、
両手でガッシリつかみ、
持ちあげ、
立たせ、
振りまわしにかかる。
遠心力がつき、勢いが、増す。
バランスを、保とうと、
両手を、
狂ったように、バタバタさせる、優希。
円の中心点に、位置する、火鳥。
その半径を、まわり続ける、優希。
火鳥は、ギアをトップに入れ、さらにスピードを上げた。
速度は、いや増した。
優希の両脚が、床から、離れた。
身体が、宙に、浮きあがる。
なおも、まわし続ける火鳥。
ほぼ、地面と平行に、
飛行し、
旋回している、優希。
空気を切り裂き、
ビュンビュン!唸る音と、
『ラ‘メリカ』の旋律とが、融合する。
空前のサウンドが、室内に、響きわたる。
加速した優希の身体を、
狙いすまして、
コンクリートのカベに、
思いっきり叩きつけた。
もの凄い打撃音が、
室内に、反響した。
火鳥は、
激突の瞬間も、
彼女の髪を、離さなかった。
激突が、
引きおこした、衝撃で、
頭皮が、メリッと剥がれ、
数百本の、毛髪をつけたまま、
火鳥の両の手に、残された。
ぜーぜー息を切らしている、優希。
口や鼻、耳、そして目からも、流血していた。
頭皮のはがれた部分から、
ピンク色の肉が、露出している。
ライト係は、呆然自失。
被害者の優希と、
加害者たる火鳥を照らし、
浮かびあがらせていた。
キャメラマンは、
魅入られたように、
残虐な行為の、
一部始終を、
デジタル信号に、置きかえて、
収録していった。
「いくらなんでも、これはやり過ぎだぜ、火鳥さん!」
猪瀬は、抗議の声を、あげた。
「H写真を撮って、
優希が反抗したら、
姦して、口封じする。
そういう取り決めだったはずだ・・・
・・・オレは、降りる!」
黒い三角頭巾を、
はぎ取ると、
床に、叩きつけた。




