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ブレイクオンスルー  作者: カレーライスと福神漬(ふくじんづけ)
15/40

15 闇(やみ)の中

 目を、さました優希。

 


 意識いしきは、とても鮮明せんめいで、

 気分きぶんは、高揚こうようしていた。

 ぐっすりねむって、

 つかれが、消えさっている、そんなような、めざめだった。

 しかし、一点いってん、どこか、違和感いわかんが。

 

 まばたきを、くり返してみる。

 

 周囲しゅういは、まっ暗闇くらやみ

 水がポタポタしたたる音がする。

 

 この時点じてんで、はっきり、記憶きおくがもどった。

 現在げんざいにいたるまでの、できごとを、回想かいそうする。

 

 スカートのポケットに、手を入れ、スマートフォンをさがす。

 バッテリー部分が、破壊はかいされていた。

 

 落ちついて・・・

 いまおかれている状況じょうきょうを、

 把握はあくしようと、

 気持ちを集中しゅうちゅうさせる。

 

 ベッドの上に、寝かされているようだ。


 やみのなかから、

 水滴すいてきの音のほかに、

 クリルの鳴き声が、かすかに、もれひびいてくる。

 

 手さぐりをする。

 

 左側ひだりがわが、コンクリートのカベ、

 右側みぎがわには、スタンド台らしきものがあった。

 

 だいうえに、クリルの入ったバスケットが、置かれていた。

 その横に、通学用つうがくようバッグが、立てかけられれていた。

 

 がねをはずし、バスケットをひらく。

 指先ゆびさき触覚しょっかくで、

 クリルの存在そんざいをたしかめる。


 子ネコは、小さな身体をふるわせ、

 おびえた小声で、「ミャァ」と鳴いた。

 ふたをじ、がねを、

 素早すばやくかけ、バスケットを、強くきしめた。

 

 おそるおそる、ベッドから、あしをおろしてみる。

 クツは、いたままだった。

 

 かたいゆかに、クツ音が、反響はんきょうする。

 バスケットを、ベッドの上に、そっと置く。

 

 両手を、

 昆虫こんちゅう触角しょっかくのように、

 ばしながら、

 あたりをうかがうように、すり足で歩いた。

 

 

 だしぬけに、

 強烈きょうれつな、まばゆいばかりの光が、

 優希めがけて、はなたれた。

 

 小さな悲鳴ひめいをあげ、とっさに、うでで目をおおう。

 

 ライトは、めるように、

 彼女の胸、

 腰まわり、

 さらにその下を、らし出していく。

 

 ライトと一体化いったいかしたような、

 ハンディ・キャメラが、

 彼女の姿を、

 あますとこなく、録画ろくがしていた。

 

 優希はベッドのほうに、あとずさり、

 ペット用バスケットの、取っ手を、にぎりしめた。

 

 冷静れいせいさを、なんとか、保持ほじしながら、

 暗闇くらやみに、ひそんでいる、

 卑劣ひれつ人物じんぶつの、正体しょうたいを、

 見きわめようと、目をらす。

 

 ライトの向こうに、ふたつのかげが、おぼろげにうかがえる。

 ともに、秘密結社ひみつけっしゃを、思わせるような、

 黒い三角頭巾さんかくずきんを、かぶっていた。

 視界しかいがきくように、

 目の部分が、

 二か所、切り取られている。

 

 ひどく不気味ぶきみな、ヴィジュアルだった。

 

 さらに、第三の人物が、

 ライトの前を、横ぎるように、姿を見せ、

 優希の背後はいごに、

 秒速びょうそくでまわり、

 羽交はがいじめにした。

 

 底力そこじからを、ふりしぼり、

 抵抗ていこうを、こころみる優希。

 頭巾ずきん一枚をとおして、

 興奮こうふんした、

 荒々(あらあら)しい鼻息はないきが、

 つま先立ちさきだちになった、彼女のうなじにかかる。

 蒸気じょうきのように、あつく感じられた。

 すこぶる・・・不快ふかい・・・。

 

 はげしく、あらがう優希に、思い知らせるべく、

 羽交はがいいじめの、レベルをげ、ぐーんとしぼり込む。

 

 歯を食いしばった、優希の閉じた口から、うめき声がもれる。

 クリルの入ったバスケットを、にぎりしめた、手のちからが、ゆるんだ。

 

 床に、落下らっかする、バスケット。

 ショックで、がねが、はずれた。

 

 中からクリルが、

 45度の角度かくどで、び上がり、

 空中回転くうちゅうかいてん

 床へ、

 トン!

 と、

 着地ちゃくち

 敏捷びんしょう動作どうさで、

 ベッドの下に、避難ひなんした。

 

 ふいに、

 部屋のすみの台の上に、置かれた、

 ノートパソコンのモニターに、なにかが、うつし出された。

 

 優希の視線が、そちらに向いた。

 

 モニターには、プリズム状の光が、乱舞らんぶしている。

 

 画面が切りかわる。

 盗みりされた女子生徒の、

 スチール画像や、動画が、続々(ぞくぞく)と展開された。

 

 いわゆる、水晶学園女子ランキングに、

 名をつらねる、生徒〈ガール〉たち、であった。

 ホームルームで、いかりの発言はつげんをした、

 勝気かちきなチアリーダーの、

 トイレ内の、恥態ちたいも、モニターに映しだされた。

 

 優希の姿も、とうぜんのごとく、あった。

 

 登校時とうこうじのもの、

 授業中の表情、

 一年と二年のとき、

 ミス・水晶学園の栄冠えいかんに輝き、

 ドレスを身につけ、

 ティアラを、頭上ずじょういただき、

 ニッコリほほ笑む、王女おうじょのような姿。

 

 屋上おくじょうで、食事をしている場面、

 猪瀬たちとの、もめごとのときの、パンチラ画像がぞうまでが・・・。

 

 こういうものが、

 うらで、

 やりとりされているといううわさは、

 ・・・真実じじつだったんだ。

 智子の言ったことが、正しかったのだ。

 

 嫌悪感けんおかんが、

 のように、わき上がる、

 それが、さけび声に、転化てんかした。

 室内しつないに、優希の声が、大きくひびきわたった。

 

 あまりの、声のはげしさに、

 きょをつかれ、

 羽交はがいじめの力が、

 一瞬いっしゅんゆるんだ。

 

 バンザイするようにして、

 華奢きゃしゃな二本の腕を、

 するりときとる、優希。

 

 しゃがみこみ、クリルの名を呼ぶ!

 ベッド下の奥から、

 飼い主のそばに、近よろうとするクリル。

 

 ライトの光が、キャメラが、しつように優希をねらう。

 彼女は手をかざし、

 ライトのひかりをさえぎり、

 嫌悪けんおの声で、抵抗ていこうをこころみる。

「ひきょう者!こそこそしないで、はっきりすがたを、お見せなさい!」

 

 

 鞭打むちうつような、

 鋭いスイッチ音をともなって、

 部屋の照明が、急激きゅうげきに、点灯てんとうした。

 

 室内が、くまなく、らしされる。

 せまい入口以外いりぐちいがいは、

 コンクリートで、四方しほうかこまれた、この部屋。

 

 いったいどこなのだろう?

 思考しこうを、めぐらせる、優希。

 

 入口の向こうに、

 急角度きゅうかくど石段いしだんが、

 上方じょうほうに、つらなっているのが、見える。


 入口から、向かって、正面しょうめんつきたりには、

 実用本位じつようほんいの、鉄製てつせいベッド一台が、

 ピタリと、カベにつけて、置かれていた。

 

 優希が、寝かされていた、ベッドである。

 

 室内に、窓は、ひとつも見あたらない。

 スチール製の机や椅子、キャビネット、ロッカーがかれている。

 一本足台いっぽんあしだいの上に、

 かれた、パソコンが、

 かくし画像がぞうや、

 動画を映し出していた。

 

 オーディオセットやエアコン、

 冷蔵庫れいぞうこまで、そなえつけてある。

 洗面所せんめんじょの、

 水道すいどう蛇口じゃぐちから、

 水がポタポタれていた。

 電気や水道もかよっているようだ。


 いささかホコリぽいのと、

 空気が、変に、冷んやりしているのをのぞけば、

 ワンルームのていさいを、なしていた。

 住人じゅうにんの生活が、

 すみずみまで、いている。

 どこかの倉庫そうこか・・・地下室ちかしつだろうか。

  

 覆面姿ふくめんすがた人物じんぶつたちの、

 正体しょうたいを、さぐるべく、

 強い視線しせんを、むける優希。

 

 目の前の、

 黒い三角頭巾さんかくずきんを、かぶったライトがかりと、

 ハンディーキャメラ担当たんとうが、

 とっさに視線をそらした。

 

 つぎに、

 彼女は、背後はいごの三人目を・・・ふり返る。

 目が合った。

 正体しょうたいを、

 さっした優希。


猪瀬いのせくんね?猪瀬くんなんでしょう?」

 呼びかけられた人物は、顔をそむけた。

 

 ふんがいし、うなり声をあげる、優希。

 

 だが、つぎの瞬間、ハッと息をのんだ。

 第四だいよん人物じんぶつの、

 存在そんざいに、気づいたからだ。

 

 

 その人物は、照明しょうめいスイッチの前で、

 優希ゆきに背中を向けて、立っていた。



 三角頭巾さんかくずきんは、かぶっていなかった。



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