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ブレイクオンスルー  作者: カレーライスと福神漬(ふくじんづけ)
14/40

14 マジック

 あくあさ、心配そうな顔で、待ちあわせ場所に、姿をみせた優希。



「目の下にクマができてるよ。大丈夫だいじょうぶ?」

 智子が言った。

「うーん、あの子のことが心配で、心配で」

 からの、ペット用バスケットを、ゆすってみせる。


「心配ないさ。そのうち、ひょっこり現われるって」


「おかしいと思わない?

クリルがひとりで歩きまわったとしてもよ、

子ネコだし、行動半径こうどうはんけいは、

おのずとかぎられるはずじゃない。

なのに、可能性かのうせいのありそうな、

どこを、さがしても、

見つからないなんて。

もしかしたら・・・誘拐ゆうかいされたんじゃないかしら」


「そんなオーバーな。

さがしものってのは、

必死ひっしになっているときは、なかなか見つからないけど、

意外なときに意外なところから、現われるもの。

これは気やすめでなく、私の経験則けいけんそく


「そうだといいんだけど」

 ぬしは、

 不安のシミを、ぬぐい去ることができない。


 

 いつもと違って、授業に身が入らない優希。

 講義が、頭の中を、素通すどおりしてしまう。

 どうしても足もとに置かれた、

 からのバスケットの方に、

 意識いしきがそれてしまう。


 集中がきかない。

 先生の質問に、答えることができずに、

 めずらしく・・・注意を受けてしまった。


 

 昼休みの時間。

 きょうは、屋上で、優希ひとり。

 もくもくとお弁当を食べていた。

 相棒あいぼうの智子は、

 国体(東京代表)の、初練習に参加するため、

 早退そうたいしていた。


 ひとりぼっちの昼食タイムだ。

 食欲がわかず、はしの動きがにぶい。

 お茶ばかり飲んでいる。


 

 太陽を背に、ひとりの男子生徒が現れた。

「やあ、犬城けんじょうくん」


「あら、火鳥ひどりさん」

 優希は、

 まぶしそうに、

 相手を、見あげた。


「ちよっと、いいかな」

 そう言って、了承りょうしょうをえると、

 彼女の正面にかがみ、スマートフォンを取りだした。


「たぶん、きみのとこの子ネコだと思うんだが。

きのう、うちの敷地しきちに迷いこんでいたんだよ。

ぼくが見つけて、保護ほごしているんだ」

 

 優希の瞳に、パッと光がともった。

 スマホの液晶画面えきしょうがめんに呼び出された、

 子ネコの姿は、まぎれもなく、クリルだった。

「まちがいありません!

わたしがっている子ネコです。

なんとお礼を、言ったらいいのか」 

 頭をさげる優希。


「きのう配信はいしんされたメールを、

友人から見せてもらった。

テストの一件いっけんかさね合わせて、

・・・さっしがついたよ。

月吉つきよしくんは、友情にあついヒトだね。

放課後にでも、引きとりにおいでよ。

知ってるとは思うけど、

学園裏がくえんうら役角寺えんかくじが、

ぼくの住まいだから」


「はい、ありがとうございます」

 深々(ふかぶか)と、頭を下げる優希。


「おいおい、クラスメートだぜ。

みずくさいことはよそうよ」

 火鳥は、体勢たいせいをもどし、

 身をひるがえすと、立ちさった。

 


 午後の優希は、見ちがえるように、いきいきしていた。

 胸のつかえがおりてホッとしたのだ。

 そのせいか、いままでしたことがない、

 授業中にメールを送るという、

 大胆だいたんな行動に、って出た。


 クリルの無事ぶじを、

 智子にぜひとも、伝えたかったのだ。

 すぐに、リターンが入った。


《ワオ!それは良かった。あしたの晩の、花火大会が楽しみだ☆ トモコ》

 

 放課後。

 優希は、

 通学バッグと、

 ペット用バスケットを手に、

 役角寺えんかくじ山門さんもんを、くぐった。

 

 しんとした境内けいだいを歩く。

 お昼どきに、屋上から、いつも俯瞰ふかんしていたので、

 なんとなく、

 寺の地理を、把握はあくしている、つもりでいたが、

 実際にこうして歩いてみると、

 つかみどころのないほど、広大こうだいで、

 深い森のなかを、さまよっているようだった。

 

 本堂への順路じゅんろをしめす、

 案内表あんないひょうをみつけたので、

 それを、たよりに、進んでいった。

 

 正面の巨大なクスノ木ごしに、

 西の方へかたむいている、太陽がうかがえる。

 昼間とは、ことなり、

 夕刻ゆうこくの太陽は、

 とてもおだやかな、あたたかみのある、

 オレンジを発色はっしょくして、

 水平すいへいに浮かんでいた。

 

 しばらく歩きつづけていると、火鳥の姿が、目にはいった。

 夕陽をバックに立っている。

 上下を白で統一とういつしており、

 上着、ズボン、クツまでもが白一色。

 

 火鳥の両腕りょううでには、クリルが抱かれていた。

 

 彼は、優希を見ると、ニコッと笑い、

 近づいてきて、子ネコを、丁重ていちょうに手わたした。

 

 優希は、

 ペット用バスケットと通学用バッグを、

 足もとに置いて、

 クリルを受けとった。

 

 しっかりと抱きしめ、ほおずりをする。

 クリルの体温や鼓動こどうを・・・じかに確認する。


 充実感じゅうじつかんと、

 安心感あんしんかんで、胸がいっぱいになった。

 涙がハラハラながれる。

 彼女は、それを、ハンカチでぬぐった。

 

 そのようすを見て、

 火鳥は、

 まゆ上下じょうげさせ、

 おどけてみせた。


 優希も、れ笑いすると、舌をペロリとだした。

 

 それから、クリルを保護ほごしてもらったお礼を、

 ていねいにくり返した。

「お礼は、また、あらためて、させてもらいます」

 と、つけ加えて。


「とんでもない、クラスメイトじゃないか。

よけいな、気づかいは、無用むようさ」

 恐縮きょうしゅくするように、手をふる火鳥。

 

 クリルをバスケットにおさめる優希。

 止めがねをかけ、

 取っ手を〈もう離さない!とばかり〉に、強くにぎりしめた。



犬城けんじょうくん」

 硬質こうしつな笑みを浮かべ、

 火鳥が、

 したしげに、よびかけてきた。

 

 彼は、予告よこくもなしに、右の手のひらを、上に向けた。

 

 コインが一枚、乗っている。

 

 なんだろう?

 思わず、注目してしまう・・・優希。

 

 コインは、あっという間に消えてなくなった。

 二秒後に、空中から、サッと、取りだして見せる。

 

 火鳥の、手並てなみの、さに、

 涙にれた優希の瞳に、

 好奇心こうきしんがやどった。


 コインは、またしても、瞬時しゅんじに消えった。

 

 かわりに、彼の手のひらの上には、

 キメの細かい、白いこな小山こやま、があらわれた。

 

 優希の目が、点になる。

 

 火鳥は、白い粉に、いきを、強く、きかけた。

 

 

 目の前の風景が、けるように、ゆがんだ。

 ほどなく、優希の意識は、うしなわれた。


 


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