林間学校!真紅の殺戮者による過去話
「例えばの話をしよう」
帽子を被った少女、緋音が言った。
「場所はどこでもいい。事故に巻き込まれ、軽傷を負ったあなたと、重傷を負った老人と少女がいます」
どうしようかと困っていたあなたは、2人分の救急箱と食料を見つけました。
さて、どうする?という質問だった。
「そうだな…とりあえず2人を治療して助けを待つかな」
そう言ったのは銀髪の少年、仁だ。遊部の部長であり、一悶着とかあったが別のお話で語ろう。
「おれも同じ意見だ。下手に動いて死ぬより、助けを待つのが賢明だろう」
天パの少年、六花が頷いている。入学して早々に負った傷はすっかり完治し、今も銃を磨きながら話している。
「まぁ、 大体の奴らはそう答えるだろう…他の意見の奴はいるかだZE?」
シーン、とした静寂が答えかと思われた。
「いや、その判断は間違っている!」
そう叫んだのは、気弱な事でお馴染みの秋夜だ。
「救急箱や食料があるという事は、近くに通信手段がある可能性が高い…すぐに探しに行った方がいいよ!」
そうかもしれないな…と、秋夜の意見に頷く少年がいた。
「老人や少女が、いつまでもつか分からないしな…やっぱり、リスクを背負ってでも助けを呼びに行くかな…」
そう言ったのは高身長の少年、黒成だ。頭の赤いバンダナと着崩した制服。そして何故か両手にどら焼きが握られている。
「なんで2つも持ってんだ?」
六花の問いに、フッと笑って黒成は答えた。
「あんことクリーム…食べ比べたいとは思わないか?」
2つのどら焼きは、中身が異なっていた。
あんこ派とクリーム派で分かれるが、私はクリーム派である。
片方食い終わってからでいいじゃないか…と六花は思った。
「さて…全員が意見を言った事だし、そろそろオレの意見を言わせてもらうZE」
深呼吸する緋音。
口を開こうとしたその時だった。
連絡用の固定電話に着信があった。一番近くにいた人が、受話器を取った。
「もしもし…ああ先生。はい…はい…すみません」
受話器を置き、仁はため息をついた。
「…明後日の林間学校参加の紙、早いとこ提出しろだとよ」
如月学園高等部は、中等部から学年が上がるエスカレーター方式の生徒(仁やその仲間達は中等部からの進学)や、新たに入学してくる生徒(六花のような場合)がある。
春から夏へかけてクラスに馴染んだ生徒達に、夏の林間学校では学年全体で仲良くなってほしい、という思いがこの行事には込められているとの事だった。
そして現在、如月学園高等部1年生を乗せたバスは…
ある二人の場合
華乃「全く…我が輩がひきこもっている間にこんなイベントを行おうとはな…」
窓の外の景色を眺めながら、華乃が言った。これから林間学校だというのに、白衣姿の少女はイライラしているように見えた。
秋夜「まぁまぁ、仁達がうまいことやってくれたし、それで結果オーライでしょ」
そう言う秋夜は、学校指定のジャージ上下を着ていた。しかしジャージもしくは私服で来るように、と参加用紙に書いてあった為、生徒はほぼ私服。ジャージは、秋夜しかいなかった。
秋夜「それにしても華乃、なんでそんなにイライラしてるの?」
華乃「なに…イラついてはいないさ…」
そう言って、秋夜を見る華乃の顔は酷く青白かった。
華乃「我が輩…乗り物弱い…うぷっ⁉︎」
秋夜「誰かァ!ゴミぶく…エチケット袋をォォォ!」
別の二人
六花「華乃って、乗り物に弱かったのか?」
斎「そうだな。アイツはひきこもりだから、こういった乗り物にはあまり縁がない!たまにしか乗らないから、酔いやすいって話なのさ!」
そうなのか、と六花。昔からの知り合いである彼が言うのだから、間違いないのだろう。
そんな六花の服装は、白のシャツに迷彩柄のチノパン。
斎はアロハシャツにコートを羽織り、真っ黒なストレートパンツを履いている。
斎「そういう六花は、乗り物は平気なのか?」
六花「傭兵の頃は、まともに舗装されてない車道なんかザラにあったからな。こんなの屁でもないさ」
斎「そうか…俺様も乗り物酔いはガキの頃に克服したのだが、どうしても克服できないものがあってな…」
六花「なんだ?高所恐怖症か?」
斎「俺様…光が苦手でな…“光”所恐怖症なんだ」
真っ黒なサングラスはオシャレではなく、彼が人として生きる為の術なのだそうだ。
斎「それにボディーガードなんかもサングラスをつけているだろう」
六花「確かに、黒服にサングラスだな」
斎「あれには襲撃者に視線を悟らせない事と、閃光などの目くらましを少しでも軽減する為にあるみたいだぞ!」
有名人のボディーガードなんかは、パパラッチのフラッシュから目を守る為にサングラスを掛けてるんだとか。
六花「それにしても、詳しいな」
斎「なに、町で可愛い女の子を見れるからって言ったらひかれるだろ?」
ハッハッハッ!と笑う斎に対して、六花は冷ややかな笑みを浮かべていた。
更に別の二人
仁「あともう少しで到着だな…」
鷹「…(コクン)」
仁「ガム、食うか?」
鷹「…(コクン)」
今日の仁はTシャツに半ズボン、腰には羽織っていたジージャンを巻いている。
相変わらずの無口な鷹は灰色の半袖フードと、カーゴパンツを履いていた。
仁「ほんと、あっという間だよな…俺たちが会ったのって中二の夏あたりだろ?もう高一の夏なんだぜ?」
鷹は声に出さずに、小さな笑みを浮かべた。
仁「流石に海に来てまで授業はないだろう。今日は楽しもうぜ」
二人は拳を合わせ、笑った。
到着まで、あと少し。
最後の二人
黒成「にしても…暑い…」
パタパタとうちわを扇ぐ黒成。Tシャツに短パン、頭には赤いバンダナを巻いている。
緋音「そんなに暑いなら、まずバンダナとろうZE?」
黒成「いやいや、このバンダナがなかったら“ただの金髪の不良”だぜ?」
緋音「実際、金髪の不良じゃねぇか」
黒成「だが、赤いバンダナを巻く事で“なんか洒落た金髪の人”になれると思うんだ」
はいはい、と緋音は適当に相づちをうつ。
そんな緋音の格好は、水色のワンピースに白いベレー帽だ。
緋音「それより黒成、この前の話…覚えてるか?」
黒成「ああ、誰を助けましょうかゲームだっけ?」
緋音「なんか違うが、覚えているならいい。オレが何故、あんな質問をしたかお前には分かるか?」
黒成「さぁな、強いて言うなら心理テストとかかな」
緋音「……まぁ、そんなもんだと思ってくれ」
そう言って、緋音は口を閉ざした。
黒成「で、注目の結果は?」
緋音「ああ…少女を助ける奴は半分以上がロリコン。老人を助ける奴は、将来老害になりやすいそうだZE」
ブフォー⁉︎と黒成が飲み物を吹き出した。
黒成「助けただけでロリコンってのはおかしくないか⁉︎」
緋音「人ってのは誰かを助ける時、知らず知らずの内に何かを期待する生き物なのさ」
そう話す緋音の顔は、酷く寂しげに見えた。
黒成にはただ、バスの到着を待つ事と、吹き出した“元”飲み物を拭く事しか出来なかった。
到着後、学園で貸切にしたホテルに荷物を預け、生徒達による自由行動が始まった。
林間学校といっても、一泊二日のプランのほとんどは自由行動で埋め尽くされてる。
何故なら、生徒は普通の少年少女ではなく、特殊な力を持った能力者であるからだ。
生徒として扱われる反面、彼らは日本の進歩の象徴として優遇を受けている。
この林間学校もそうだ。
ビーチもホテルも貸切。バーベキュー用の肉や海の幸も豊富。そしてホテルには、温泉まであるのだから驚きだ。
「にしても…なんとも言いようがない海だな」
一般的に海といったら、汚かったりゴミがあったりするが、この海にはそういったものが全くなかった。
つまり、何が言いたいのかというと、よくテレビとかで見る綺麗な海を想像してほしい!ということだ。
「ヒャッハー!一番は頂きだZEー!」
叫びながら砂浜を走るのは、白のビキニに早着替えした緋音だ。
「させるか!」
連続の銃声が二つ。緋音の両足に銃弾が撃ち込まれた。
「って、痛ってぇえええええッ⁉︎」
「悪いな緋音、一番に海に入るのはこのおれだ!」
そう言って、悶える緋音を越えて走り去るのは、海パン一丁で拳銃を持った六花だ。
「クソッ、卑怯だZE…かくなる上は…ッ!」
能力で翼を生やし、空を飛ぶ緋音。
「あっ、汚ねえぞ緋音!」
緋音へ銃口を向け、発砲する六花。しかし、緋音は銃弾をスイスイと躱す。
「へっ!当てれるものなら当ててみや…アレ?」
ズシンと、急に自身の体が重くなった事に気付く緋音。
「残念だったな…六花の銃に気を取られたのが、お前の敗因だ」
そう言ったのは、黒の海パンと日焼け防止のラッシュガードを着た仁だ。
緋音の腹には、投擲された刀が刺さっている。
「は、反則だZE–––––ッ!」
頭から砂浜に突っ込み、緋音がリタイア。
「きたか!だが対策は万全だ!」
拳銃を投げ捨て、どこからともなく短機関銃を取り出す六花。
「オラァー!くたばれぇええええ!」
しかし仁は、新たに召喚した刀を高速で振るい、迫り来る銃弾を一発も逃さずに切り捨てる。
「俺を倒したいんなら、MINIMIでも持ってくるんだな!ビキニにMINIMI…ってな!」
もはや、何が何なのか分からなくなっていた。
「いやー海っていいモンですなー」
砂浜で不毛な争いが行われる中、浮き輪でぷかぷかと浮かびながら呟いたのは秋夜だ。
膝上丈の海パンに白と黒の縦模様の入ったラッシュガード。浮き輪の柄は、夏だというのに秋を連想させる紅葉柄だ。
「ハッハッハッ!あえて海に入るのではなく、歩くのが俺様よぉ!」
靴底を海水で濡らしながら豪快に笑う斎。
「…」
その隣では、薄手のパーカーを着た鷹がぷかぷかと浮かんでいる。
「にしても、あの二人はいつまで続けるんだろうね」
海のように冷たい瞳で砂浜を見る秋夜。
そこには、ガトリングガンで銃弾の雨嵐を降らせる六花と、全力で逃げながら銃弾を防ぎきる仁。そして、ピクピクと痙攣する緋音の姿があった。
「まぁ、アニメ化は厳しいだろうな!」
「…(コクン)」
ギラギラに光る太陽の下には、ジュウジュウと太陽に負けないくらいの熱を放出する鉄板があった。
トングで肉をひっくり返しているのは、バンダナ代わりに赤いタオルを巻いた黒成だ。
「なぁ華乃」
パラソルの下で、スマートフォンを弄る華乃を尻目に黒成が言う。
「…なんだ黒成、我が輩は一巡後について考察しているんだぞ?」
知らねぇよ、と黒成が言う。
ひきこもり特有の色白の肌に、今時珍しいスクール水着と白衣の組み合わせは、謎の犯罪臭を醸し出していた。
「そろそろ肉が焼けるから、みんな呼んできてくれないか?」
「その必要はない…」
は?と黒成が思った時だった。
周りには遊部のメンバー全員が集結していた。
「…ほぇ?」
「ほらな、肉の香りにつられてきたぞ」
「ゥんまぁあああああああい!」
焼きたての肉は熱い!しかし、それをふーふーしてから口へ運ぶのだ!
そうする事で適温となった肉は、口の中をジューシィな肉汁で一杯にする!
つまり、肉とはつまり肉汁なのだ!歯で噛まなくてもいいくらいの柔らかさなのだ!
「これが、海の家効果というやつか…」
海の家効果?と六花が訊ねる。
「海で食べるものは何でも美味く感じてしまう…味とか量とかはどうであれ、とりあえず美味しく感じる理論だ」
さっきまで砂浜を駆け回っていたとは思えない仁の言葉と、そーなのか⁉︎と真面目に捉える六花。
「俺様、サザエさんが食いたいぜ!」
いい具合に焼けていたつぼ焼きサザエを素手で掴み取る斎。
このサザエを食べようとした瞬間、斎は理解しただろう!無骨な料理人、黒成がいかに考えて料理をしているのかを!
まず、サザエに渦巻き状の蓋がないことに気がつく。まぁ、先に外したのだろうと思って箸を突っ込むだろう。
しかし、サザエの身を引っ張り出した奥には蓋がそっと敷いてある。
そう、調理する時に取り外した蓋を内部に入れておくことで、奥へ身が入るのを防ぐ役割があるのだ!
「美味い!苦いがやっぱ美味い!」
これらの料理には、ビールや日本酒などが最高なのだろう。しかし、彼らは未成年ッ!
酒ではなく、用意しておいた炭酸飲料などを喉に流し込む。
「…あれ、そういや緋音は?」
「…うぐぐ、刀が…抜けないZE…」
砂浜の一点だけが、真っ赤に血塗られていたそうだった。
後半へ続く…のか?