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6.親父が背中を見せて言うことはだいたい正しい

 リオミと別れてから三日が経った。


 アースフィアの情報をピックアップしていくと、いくつか傾向が見えてくる。

 魔物が凶暴化している場所と、逆に一切人を襲わなくなった場所があるのだ。


 どうも魔物本来の気性に起因するらしい。

 逆に魔物の脅威が残ったおかげで、人間同士の争いが加速する気配もないみたいだ。


 魔物が凶暴化した地域にはバトルオートマトンを送り込んでおく。

 当該の魔物だけをターゲットに設定。

 手に負えないようなら、別の手段を考えればいいかな。


 定時で撃退数と損耗率をマザーシップに報告するよう指令を出しとく。

 報告を聖鍵直通にしなかったのは、いちいち脳内にポップアップされると面倒だからだ。


 アースフィアについての一般的な情報も、少しずつ学ぶことができた。


 あるだろうと思って真っ先に検索したキーワードは「冒険者ギルド」。

 ファンタジー世界における何でも屋。

 当然のようにヒットする。


 ついでにギルドが凶暴化した魔物について動いているか調べてみた。

 まだアースフィアに凶暴化の情報は伝わっていないらしい。

 魔物退治の依頼もそれほど出ていなかった。 


 アースフィアの情報を調べていて一番気になったのが、魔王の情報が秘匿されていた点だ。

 魔王について情報がなかったんじゃなくて、ルナベースへの情報アクセス字体が不可能だった。


 実を言うと情報の閲覧には権限レベルが設定されている。

 聖鍵を持っているからといって、すべての情報が見られるわけではないらしい。

 特に超宇宙文明についてや、マザーシップの目的については一切わからなかった。


 情報閲覧レベルを上げるには一定期間、聖鍵を持ち続ける必要がある。

 こればかりは今すぐ解決する方法がないんだよねぇ。


 それにしても魔王のルーツについての情報が一切閲覧できないとは思わなかった。

 出現したのは、おおよそ百年前。

 魔王として活動を始めた時代の話だ。

 どこで生まれどこで育ち、如何にして魔王となったか。

 全然わからんかった。


 ちなみに魔王の名前はザーダスという。

 倒してから名前を知ることになるとは苦笑するしかない。


 そういえばリオミがザーダスという名前を言っていた気がする。

 ゴズガルドが出てきた時だ。


 気になって「ザーダス 幹部」をググる。

 そうだそうだ、ザーダス八鬼侯(はっきほう)だ。

 やっぱり魔王軍の幹部だったらしい。


 必死に巨人の名前を思い出して入力する。

 「ゴズワルド」違う。

 「ゴズランド」これも違う。

 「もしかして:ゴズガルド」

 それだ。さすがはルナベースだ。



 ・ゴスガルド

 ザーダス八鬼侯の四位。巨大なハルバート『ブラキニス』を振るう猛将。

 巨人族の出身であり、その体躯は七~八mほど。巨人族としては小さいほうであり、氏族では虐げられていた。鬱屈した憎悪を心のなかで育てていたが、あるとき魔王ザーダスに見出され、傑出した才能を示す。

 以後ザーダスに多大な恩義を感じ、人間を支配するという野望を助けるために戦ってきた。武人と呼べる漢。魔王の命令で聖剣を抜きに現れる前の勇者を倒すはずだったが、聖剣を抜いた勇者と戦いたいという欲求に抗えず、聖鍵を抜くことをみすみす許してしまった。その結果、主君と仰ぐザーダスは無残にも光の中に消える事となった。

 その悔恨から勇者明彦を倒さねばならぬと考えるようになり、明彦を倒すのは自分だと宣言して憚らない。



 俺が閲覧した情報はウィ●ペディアのような、情報をまとめたところだったのだが。

 ここまで詳細な設定が出てくるとは。

 すごい。すごすぎるぞルナベース。

 つーか、俺あいつに恨まれてるよ。当然か。


 「ゴズガルド 今どこ」と検索すると現在位置が一発でわかった。

 超宇宙文明、鬼過ぎる。


 一応衛星監視もつけておき、いつどこにいるかをマーキングしておいた。

 無闇やたらに人を襲うようなヤツではなかったし、今は監視に留めておく。


 続いて「ザーダス八鬼侯」を検索。

 ああ、出てきた出てきた。

 結構入れ替わりの激しいメンバーだったみたいだけど、ここ数年のメンツは固定だったようだ。

 魔王討伐前の最終メンバーの情報を確認する。



 ・ディオコルト

 ザーダス八鬼侯の八位。魔王軍で最も美しい顔、最も醜い心をもつ男。

 魅了系の能力に秀でており、あらゆる女性にとっての敵。

 現在位置不明。



 むむ、こいつは殺したい。

 爆発せよ。現在位置不明だと。

 判明次第、報告するようにセット。

 お前だけは手ずから殺す。



 ・ヴォイエルト

 ザーダス八鬼侯の七位。不定の主。スライム。

 しゃべることはできないが、テレパスによる意思疎通が可能。

 しかし自分の中に獲物を取り込み、吸収することしか考えていないため、あまり意味がない。

 その特性上、物理手段によって倒すことができない。

 普段は地下を移動している。



 地下を移動しているのか。

 超宇宙文明の捜査能力の関係上、すぐに捕捉するのは難しいな。

 いずれ、対策を練らないと。


 ん、次はこれか。



 ・オーカード

 ザーダス八鬼侯の六位。魔王の魔術参謀。

 魔王に匹敵する魔力を持つ呪言魔術師だったが、ホワイト・レイにより消滅。



 城にいたのか。

 じゃあ、ひとたまりもあるまい。

 さらば妖魔司教ザボエ●。



 ・ダイカンド

 ザーダス八鬼侯の五位。無機物の主。

 その正体は魔王城そのものであり、城は巨大なゴーレムそのものだった。

 ホワイト・レイによって跡形もなく消えている。



 クソワロタ。

 あの城も幹部だったのか。

 南無。

 

 三位から一位は正体不明だった。

 魔王城にいたなら魔王と一緒に消滅しているはずだけど、ちょっと不気味ではあるな。


 よし、情報はひとまずこれぐらいでいいだろう。

 早急に対処すべき魔物の凶暴化についても、即応できる体制が整った。

 一息つこう。


「今日の飯はなんだろな」


 食堂に転移した。

 ここの固定ボットにご飯を頼めば、日替わりのプレートがもらえる。

 個別の注文をすれば好きな料理を作ってもらうこともできるようだ。


 アースフィアで日本食が食べられたので寿司を頼んでみたら、当たり前のように出てきた。

 回らない寿司というメニューらしい。

 昨日食ったけど普通にうまかった。


 今日のところは寿司じゃなくて日替わりのプレートを頼んだ。

 ハンバーグ定食が出てきた。いいね。

 アースフィアで食べる飯に比べると如何にも量産品ではあるけど、素材がいいので充分いける。

 ごちそうさまでした。


 生産プラントに寄ってみる。

 ここでは穀物、野菜はもちろんのこと、畜産もオートでやっていた。

 食堂で出てくるご飯はここで生産されたものを使っている。

 数日前まで稼働していなかったというのに、もう作物が実ってるっていうのはちょっとコワイ。


 特に牛とか豚は、キャトルミューテーションしてきたんじゃないかと心配になった。

 ヘルプで確認してみたところ、アースフィア各所に点在する地下拠点で生産されたものをプラント稼働と同時に取り寄せたらしい。


 農民の皆さんに迷惑をかけたわけじゃない。

 割とガチでほっとする。


 そういえば、子供に配るお菓子も作らせ始めたんだった。

 いくつか試食したけど、日本で食べてたレベルと寸分変わらない。


 一番びっくりしたのは、きのこの里とたけのこの山があったこと。

 異世界にきてまで、きのこたけのこ戦争勃発の危機だ。


 工業プラントを視察する。

 ここでは地上における主力兵器のバトルオートマトンが量産ラインに乗っている。


 形状は円筒に四つの足がついているだけのシンプルなもの。

 ローラーダッシュで移動するが、局地戦用にホバーレッグにも換装できる。

 固定武装が九ミリマシンピストルが二門、四十ミリグレネードランチャーが一門。


 地上の拠点でなくともマザーシップで量産でき、アースフィアのどこにでも送り込めるので斥候としても重宝する。

 一機ごとの性能はぶっちゃけ大したことないが、短時間で大量生産可能、どこにでも即席の大部隊を送り込めるのだ。

 補充も楽だから、損耗を気にすることなく使える。


 もうひとつの主力兵器はドロイドトルーパーだ。

 SFモノの括りでいうロボット歩兵である。

 標準武装が手持ちのレーザーカービンのみだが、基本的に手で装備できるものなら何でも使える。


 ただしバトルオートマトンに比べると展開速度に難がある。

 メンテナンスフリーでもないから、地上に配置してある各拠点、魔王城に投下した要塞モジュール付近にしか配置できない。

 とはいえ歩兵だから万能だ。

 戦闘以外もこなすことができる。

 それに緊急展開させる場合はキャンプシップを使えば、空挺部隊としてそれなりの数を投入できるしな。


 あとは主力兵器というわけではないけど、単体で強力なセントリーボットがある。

 オートマトンに比べてずんぐりとしたボディに四脚ローラー。

 腕部は固定武装になっていてガトリングレーザーとミサイルランチャーを装備。

 武装の変更はできないが、大抵の魔物は一瞬で溶けるだろう。


 特筆すべきは装甲の厚さで、戦車砲の直撃に一発は耐える。

 レッドドラゴンのファイアブレスをくらっても簡単には融解しない。

 俺の護衛に連れて行くのに最適かと思ったのだけど、その場合はミサイルランチャーの爆風に巻き込まれないよう注意する必要がある。


 メンテナンスフリー。

 長期の任務にも耐える。

 だけどコイツには致命的な弱点がある。


 背部のコントロールユニットを破壊されると制御不能になるらしいのだ。

 そうなったら最後、誰彼かまわず襲い掛かるデスマシーンと化す。

 だから迂闊に投入できないのが残念である。


 個体戦闘力に最も秀でているのがメタルノイドだ。

 ロボットというよりも人に扮したアンドロイドで、非常にタフネスなのが特徴である。

 標的を設定すると敵をどこまでも追跡し、絶対に諦めることがない。

 死がふたりを分かつまで、絶対に止まらない。


 どうやら超宇宙文明は元知事の映画もチェックしていたようだ。

 素材から量産が難しいらしいんだけど、何機かストックがある。

 ディオコルトってのが見つかったら、こいつを全部送り込んでやろう。


 さて、ここに来たのにはきちんとした用件がある。

 俺の装備を作りたい。


 どれだけ強力な兵器を運用できても、指揮官の俺が脆弱では問題がある。

 どうやら超宇宙文明も聖鍵を使う者がそう考えることを想定していたらしく、いくつかのプランが用意されていた。

 最初になんの戦闘能力もなかったのは、使い手の好みに合わせるためだったらしい。

 そのせいで死にかけたんだぞ、くそ。


 とにかく、いつまでも安全なマザーシップでぬくぬくとしてはいられない。

 俺の装備は急務だ。

 プランの中から、いくつかを採用することにした。


 まずは銀色の光線銃、ディスインテグレイター。

 丸みを帯びたデザインの拳銃だ。

 先端から光線を発射し、命中した相手を原子分解して塵に変えることができる。

 安全装置として聖鍵を持つ俺を分解することがないようになっているらしいけど、流石に試す気にはなれない。

 軽くて俺でも簡単に扱えそうだったため、採用となった。


 次にホワイト・レイ・ソードユニット。

 これは聖鍵のスリットに組み込むアタッチメントだ。

 武器として使うことができない聖鍵だけど、こいつを取り付けることで刃に相当する部分にホワイト・レイを発生させることができるようになる。

 その威力は絶大で、斬るというより敵をまるごと消滅させてしまう。


 これも自分で自分を斬ってしまわないよう安全装置がついている。

 聖鍵を武器化できるということで、これは即採用。

 何より見た目が聖剣っぽくて、かっこいいのだ。


 最後に採用したのは武器とは違うが、絶対に必要なもの。

 即ち、戦闘経験だ。

 素人の俺がどれだけ強力な武器を装備したところで生兵法もいいところだ。


 そこでこの、バトルアライメントチップの出番である。


 アースフィアで解析された各人物の個人戦闘のデータを詰め込んだものだ。

 聖鍵のスリットに挿しておくだけでデータの人物の戦闘経験を得ることができる。


 戦闘の素人が最強の戦士に様変わりできるというわけだ。

 人間の努力をあざ笑うかのような設計思想に吐き気が出そうだが、今の俺には必要だ。


 今回採用した人物は「剣聖アラム」。

 アースフィアにおいて最強とされる戦士の名前だそうだ。

 詳細はチラ見しただけだが、一番のオススメらしいのでコレにしておいた。


 早速、アースフィアに降りて実験を試みることとする。

 弱い魔物が一匹でいる場所を検索、その付近の座標に跳ぶ。

 今回の標的はゴブリンだ。

 突然現れた俺に驚いている。

 

 すぐさまディスインテグレイターを発射。命中。

 あわれゴブリンは塵となった。


 うん、聖鍵の補助があるおかげか、照準もすごく楽だ。

 重くないし、使いやすい。

 これはいいものだ。

 

 次の標的に跳ぶ。

 今度はホワイト・レイ・ソードユニットとバトルアライメントチップの実験を同時に行う。

 それなりの戦闘能力を持つ敵と戦いたかったので、残虐なレッドキャップという妖精と戦った。

 一瞬で決着。

 自分でも驚くような速度で光剣を振るい、レッドキャップの首を跳ね飛ばした。


 素晴らしい。

 これで今日から俺も最強の戦士というわけだ。ホワイト・レイ・ソードの切れ味も最高だ。


 実験は成功……とおもいきや。

 

「いたたたたた!」

 

 これはひどい。

 全身の骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げた。

 マザーシップに分析させたところ、俺の肉体が剣聖アラムのデータについていけないことが判明した。

 うーん、想定しておくべきだったかもしれない。

 

 となると、剣聖アラムのデータは使えないのか。

 だけど、俺が耐えられるところまでランクを下げると、今度は肝心の戦闘能力が下がってしまう。

 一度帰還して、もう一度プランを練り直すとしよう。


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