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5.ファンタジー世界に寿司がある理由

「うっまぁー! なにこれ、うっま!」


 宴の食事はすっげーうまかった。

 コンビニ弁当メインの俺には少々味が薄めだったけれど、間違いなく素材がいい。

 驚くべきことに、地球で食べるものとほとんど変わらなかった。

 バイキング形式で出てくる食材も、地味に地球で食べられるものが多い。


「って。これ、寿司じゃないか? なんであるんだ!?」


 寿司そっくりの料理が大皿に並べられていた。

 コメの上に生魚の切り身が乗ってる以上、これが別の料理でも俺には寿司にしか見えない。

 とりあえず一貫、手づかみでひょいぱく。


「わさびもちゃんと入ってる!」


 間違いない、寿司だ!

 これ食べてると、日本に帰ったような気分になって小躍りしてしまう。

 あ、話しかけようとしてくれた貴族さんたちがめっちゃ動揺しとる。ごめんなさい。


 俺のところへ挨拶に来る貴族の人たちも流暢な日本語を話してた。

 ひょっとしたらアースフィアは日本の未来の姿だったりするんだろうか。

 いや、地球と惑星エグザイルではそもそもサイズが違うから、ないな。


 その後も人間観察していると、外見は皆さん日本人離れしてらっしゃるのに、全員日本語。

 俺のほうが逆に「アースフィア西欧語がお上手ですね」と言われてしまった。


「しかし、寿司があって日本語が公用語になってるってことは、俺以外にも日本人が召喚されたりしてんのかな?」


 俺が召喚されてる以上、他に誰か来ててもおかしくない。

 きっとそういう人が過去にいて、寿司や日本語を広めたのだろう。

 

 酒も日本酒っぽいものを見かけたけど、あんまり人気がない。

 俺もどっちかというと洋酒のほうがイケる口なので、ウィスキーを氷で割って頂いた。


 夜風にあたろうと、バルコニーに出る。

 この時間だと電気もない王都はまっ暗かと思いきや、街もすっかりお祭りムードでどんちゃんやっていた。

 どこかで聞き覚えのある祭り囃子のフレーズが、ますます俺を懐かしい記憶へと誘う。


 まるで誰かが作為的に日本の要素をアースフィアに取り入れているかのように。


「一体誰が……」


 考えてもあんまり意味はないか。

 ここに日本の文化や技術が根付いているとしても、もたらしたのは見知らぬ誰かのはずだ。

 今生きているなら、会ってみたいとは思うけど。


 それに、いくら聖鍵のテクノロジーが使えるからといっても、アースフィアはファンタジー世界。

 日本との明確な違いもある。


 この世界に来てすぐに感じたのは、空気がうまいということだ。

 東京から地方の山とかに登ると、空気の味の違いをはっきりと感じるけど、それともなんか違う。

 呼吸すると体に活力が湧いてくる。

 この世界にしばらく残りたいと思わせる要素のひとつだった。


「アキヒコ様、こちらにいらっしゃいましたか」

「リオミ」


 衣装変えをしてきたのだろう。

 肩の出るちょっと大人びたドレスを纏い、ガウンのようなものを羽織っている。

 確かにちょっと寒いかも。


 今のリオミの姿は前のドレスよりも艶があり、蠱惑的な雰囲気を醸し出している。

 なのに、今の俺は賢者のごとく冷静である。

 何故だ?


「魔王討伐と順番が逆になっちゃいましたけど、明日は街を案内しますね」

「……ああ、頼む」


 自分で思ってるより、声がだいぶ沈んでいた。

 駄目だ駄目だ、リオミの前で暗い顔を見せる訳にはいかない。


「……先ほどは、驚きました。アキヒコ様があんなことを言い出すなんて」

「迷惑だったかな?」

「とんでもありません! むしろ、わたしはアキヒコ様がすぐに帰ってしまうんじゃないかと思っていたんです」


 世界について何も知らないまま、最短コースで魔王を消した。

 それがイコール平和に繋がらないことぐらい、理解している。


 ただ勇者に救われただけの世界がどうなるか。

 人間同士の争いが始まるかもしれないし、魔王を失った魔物たちが今までより暴れるかもしれない。

 戦争経済の恩恵を失ったことで、食い扶持を失う者が大量に出る可能性だってある。


 役目を終えた俺に何ができるのかは、まだわからないけど……。


「まあ、普通に考えたら俺は用済みだしね」


 まだこの世界に残ってできることがあるなら、やってみたい。

 そう言葉を続けるつもりだったんだけど――


「そんな風に言わないでください!」


 びっくりした。

 リオミが血相を変えて、俺に掴みかかってきたのだ。


「リオミ、怒ってるのか?」

「当たり前です! 用済みとか……軽はずみに言わないでください。

 他の者がどう考えていようと、わたしがそのように思うことは決してありません。

 そんな風に言う者は、リオミ=ルド=ロードニアの名にかけて絶対に許しません。

 だから貴方が自分で自分のことを用済みなんて、言わないでください」


 ああ、そうか。

 リオミにとって、予言に登場するアキヒコという存在は絶対の救世主。

 両親を救う唯一の希望。


 十年、だったか。

 まだ子供だったろうに、ずっと予言を信じて頑張ってきたんだもんな。

 それを当の勇者に否定されたんじゃ、怒るに決まってる。失言だった。


「ごめん」

「いえ、すいません。わたしも言い過ぎました……」


 よほど俺が落ち込んでるように見えたんだろうか、リオミもが顔を伏せる。


「アキヒコ様がこの世界に残ると言ってくれたとき、安心したんです」


 本当にごめん。

 リオミの勇者が俺なんかで。


「……ったんだ」

「はい?」


 俺の言葉は小さすぎて、風に消されて届かなかったようだ。

 もう一度、自分でも一言一句を確かめるようにように呟く。


「初めてだったんだ。誰かに、自分のしたことで喜んでもらえたの」

「…………」


 リオミが言葉に詰まってしまった。


 まずい。

 ムードがますます暗くなっていく。

 そろそろ鬱モードから脱却しないとダメだ。


 ここからの景色を見てたら、ちょっと思いついたことがある。実行しよう。


「見てて」


 俺は聖鍵を取り出し、いくつかの命令を送信した。

 リオミに街のほうを眺めるよう促す。


「何をされたんですか?」

「すぐにわかるよ」


 バルコニーにもたれかかり、俺も背中越しに街のほうを見上げた。

 ……お、きたきた。


 城壁に沿って、哨戒ドローンが次々に転送されてくる。

 警邏けいらに使うための兵器だが、今回は本来の用途とは違う運用だ。

 哨戒ドローンが王都を囲う城壁の上で等間隔に整列すると、王都内側に向けて四十五度角、上方へサーチライトを照らした。

 情緒もへったくれもない大光量ライトだけど、空に伸びるいくつもの光条は、王都を昼と同じ明るさにするのに充分だ。


「わあ……」


 リオミが感嘆の息を漏らす。

 さらにドローンはライトを左右ランダムに振って、遊園地のアトラクションのように、王都の空を演出した。

 王都の人々も不思議そうに空を見上げているけど、俺の出した指令はこれだけに留まらない。


 時間だ。


 地平の向こう側から、煙を引いた輝きが空へと登っていく。

 星々の闇の間に吸い込まれたかと思うと次の瞬間、花が開いた。

 数秒遅れて爆音と振動が王都を揺らす。


 プラズマグレネイダー。

 本来は間接砲撃用で着弾と同時に半径百m以内の敵を融解する兵器だ。

 今回は着弾地点調整用の推進装置を全開バーストして、上空で爆発するようタイマーを調整させた。花火代わりである。

 もちろん進路及び範囲内に有機生命体が存在しないことは確認済みだ。

 時間を置いて何発か発射させた。人々がパニックにならない程度に間隔を置く。

 何事かと窓やバルコニーに集まる貴族の皆さんに向かって、俺は自分がやらせている旨を伝えた。


「話には聞いていたが、随分とデタラメな力なのだな」


 王様だ。

 あ、ちょっと怒ってません?


「勝手に始めてしまって、すいません」

「いや、よい。今から民にも敵の攻撃ではないと伝える」


 王様は隣の魔術師と思しきローブの人に何事か伝えると、自分に何らかの魔法をかけさせた。

 リオミと違ってボソボソと、長い詠唱だった。

 仕組みが違うのかもしれない。


「我が民よ」


 王様の声が大音響で聞こえた。

 なるほど、こうして王都中の人々に声を聞かせるのか。


「今宵は聖鍵の勇者殿の計らいで、そなたたちが見たこともないような魔法の数々を披露してくださるとのことだ。存分に楽しむがよい」


 こうして王様のお墨付きをもらった後、俺はいろいろ試してみた。

 敵性設定を省いたバトルオートマトンを広場でグルグルと回転させて踊らせたり。

 万能攻撃機にアクロバット飛行をさせたり。

 マザーシップから副砲の一種であるヒュプノウェーブブラスターを照射して人々に陽気な幻を御覧頂いたり。


 戦略爆撃機でお菓子を降らせようと思ったけど、あいにくとマザーシップ生産プラントは稼働させていなかったので用意できなかった。

 これを機に動かしておこう。


「アキヒコ様!」


 ふんぬ、と腹の下、丹田に力を込める。

 リオミのハグは気合を入れないと、バルコニーから転落しかねない。


「素敵な日にしてくれて、本当にありがとう。お礼です」


 ちゅっ。

 はう。ほっぺにキスされた。

 俺の中で賢者が「馬鹿な!」と叫んで憤死する。


「……続きは今度、ね?」


 らめえええええ!

 続きがあるとか言っちゃらめえええ!

 不潔です。フシダラです。不純異性交遊です。


 お兄さんは許しませんよ。

 お父さんもきっと許さないよ。


 え、王様どうしてそんな悪い笑顔をしてるの。

 王妃様も王様にしなだれかかって「今夜はわたくしたちも」なんてのたまってらっしゃるの。


 あ、やべ。ヒュプノウェーブブラスターの照射位置ずれた。

 俺達は全員催眠状態になって、長い夜を何も考えずに楽しく過ごした。




 狂乱の宴の後、俺はメイドさんに連れられて部屋に戻った。

 メイドさんは、なかなか部屋を出て行こうとしない。

 何か指示を待っていたようだけど、やんわり出て行くように伝えると退室した。


 なんで残念そうな顔をしてるんだろう。

 チップが必要だったんだろうか。

 この世界の文化も謎が多い。勉強しないと。


 明日、リオミが王都を案内してくれることになっている。

 さっさと寝ようと思うのだが、今日は一度眠ってしまったためか、なかなか寝付けない。


 今日一日だけで、いろんなことがあった。


 リオミと出会って。

 アースフィアに召喚され。

 ゴズガルドと一悶着あって。

 聖鍵を抜いて。

 魔王を消し飛ばして、さっきの宴だ。


 怒涛のイベントラッシュだったわけだけど。

 リオミ視点で考えると、勇者召喚当日に魔王が消えて両親が助かった最速のハッピーエンドという事になるよね。

 正直、魔王を速攻で倒すことで何らかの弊害があるんじゃないかと危惧してた部分もあったけど、リオミが幸せなら他は大した問題じゃないね。


 夢を見た。

 勇壮な帝国マーチが流れる中、俺は漆黒の生命維持装置つきスーツを着てしゅこーしゅこーと呼吸している。

 マザーシップにリオミを囚えて、あーんなことやこーんなことをする。

 そこに何故かゴズガルドが乗り込んできて、俺は光の剣を抜き……。


 といったところで目が覚めた。


 メイドさんの洗濯してくれた服が置いてある。

 いそいそ着替え、洗顔、歯磨きを済ませた。

 なんの違和感もなく使っていたが、水道施設はもちろん、歯ブラシも完備されている。


 やはり、現代日本の文明の利器が細かいところで活躍している。

 トイレも水洗で紙もあったけど、もはや驚くに値しないというか。

 中世風の世界を装っちゃいるけど、文明レベルは極めて高い。

 ロードニア以外の国はどうなんだろうか?


 メイドさんの案内で朝食の場へ向かう。

 俺はどうやら王族筆頭と同じ扱いらしく、王様、王妃、リオミと一緒に食事を摂った。

 会話は普通の雑談で、まるで俺を家族のように扱ってくれる。


 娘が女王になっても、跡継ぎは安泰だとか言い出す王様。

 リオミが赤面しているけど、話の流れがさっぱりわからん。

 ひょっとしたら婿養子の候補でも決まったのかもしれない。


「お父様のおっしゃっていたこと、気にしないでくださいね!」

「お、おう」


 城下町に出たリオミが何やら必死に弁解していたが、こくこくと頷くしか無い。

 先日クレーターに向かったときと同じ馬車に揺られる。

 あの時一緒に転送しておいたから、破壊されずに済んだんだっけ。


 リオミが甲斐甲斐しく王都の設備や観光スポットについて話してくれた。

 馬車を降りて、王族御用達のお店でショッピングしたりもした。

 おつきの人や護衛の人は最低限いるんだけど、これって普通にデートだなぁ。

 昨日よそよそしかった護衛の人たちは、今日は俺に対して最敬礼してくる。やはり王族扱いだ。


 さすがにここまで続くと、鈍い俺でも気づく。

 あの王様、俺を囲い込むつもりだ。


 きっと朝のうちに指示を出しておいたんだろう。

 なにしろ、世界を救った勇者だ。

 国に取り込むメリットは計り知れない。


 いずれ、リオミと俺が婚約すると民たちの間で噂が流れ、退路を塞がれるだろう。

 なし崩し的に結婚、俺はゆくゆく王配となる。

 リオミと結婚するのは吝かじゃないけど、正直政治の道具にされるのはなぁ。


 石化してたおかげで王様は若い。

 なんだかんだで治世は長く続くんじゃないかと思う。

 甘い汁を吸わせてもらえるかもしれないけど、俺が権力を握るのは随分先のことになるんじゃなかろうか。


 別に権力が欲しいわけじゃない。

 どっちにせよ政治は専門外だ。


 とはいえ何か先に手を打っておかないと、動きが取りづらくなりそうだな。

 いつまでもこの国にいるわけには、いかないってことか……。


「アキヒコ様。あまり、楽しくないですか?」

「あ、いや、そんなことないよ。ちょっと考え事をしてただけ」

「…………ん、そうですか」


 しまった。

 リオミの話を聞いてなかった。

 な、何かフォローしないと。


「リオミのことを考えてたんだ」

「わ、わたしのことを……?」


 嘘というわけじゃない。

 ごめんよ、リオミ。俺はサイテーだよ。


「実は、旅に出ようと思ってる」

「えっ」


 咄嗟に出た言葉だけど、これは普通にありだろう。

 俺の力は一国に所有させるべきものじゃない。

 いつまでも同じところに留まっていてはいけないのだ。


「そうすると、リオミとは別れることになるね」


 心を鬼にしなければならない。

 リオミの隣は居心地がいいけど、恋とも違う気がするんだ。

 妹っていうのとも違うけど、大切にしたい人だと思う。

 それにリオミはもっと、両親と多くの時間を過ごすべきだ。


「……この国に留まってはくれないのですか」


 リオミ必殺の上目遣いだが、今回ばっかりは袖にしないといけない。

 背を向けて回避する。


「聖鍵の力は大きすぎる。やがて、この国に災厄を呼び込むかもしれない」


 これも、やはり無いとは言い切れないだろう。

 聖鍵のマニュアルの限りじゃ、俺がやらかさない限りは大丈夫みたいだけど。

 それでも、知らない情報が秘匿されてる可能性はある。


 昨晩の宴で俺が操作をミスる事があると、図らずも証明してしまったしな。

 それがホワイト・レイ誤射とかだったら、目も当てられない。


「……いかないで」


 背中にぴっとりと寄り添ってくる。

 リオミのぬくもりに心が揺れた。

 無垢な好意に頭がクラクラしてくる。


 ゼンだ。ゼンの心を思い出すのだ、三好明彦よ。

 暗黒面に囚われてはならぬ。

 

「大丈夫。リオミのところには、いつでも会いにいけるから」


 ああ見えるぞ、俺にも刻が見える。

 これ以上、後ろ髪引かれる想いに耐えられない。

 リオミを振り切って、前に歩き出す。


 振り返ると、リオミが胸の前で手を合わせ、潤んだ瞳で俺を見つめていた。

 王都を真っ二つに横切る大河の橋の上で、俺達は見つめ合う。


「王様と王妃様によろしく。リオミ、キミとの時間はとても楽しかった。どうか達者で」


 リオミが目を見開いて、駆け寄って来る。

 俺の意図に気づいたのだ。


「アキヒコ様、だめ!」


 軽く手を上げて、リオミに微笑んだ。


 ――聖鍵、起動。

 対象、三好明彦。

 転移先、マザーシップ中枢。


 空気が変わる。

 アースフィア独特の、心地良い大気が二酸化炭素として排出され。

 無菌洗浄されたマザーシップの無味乾燥な酸素が、俺の肺に取り込まれる。

 この空気、好きじゃない。

 

「うっ、く……」


 中枢ミラーボールの輝きの前で跪く。

 結構、きつい。

 転移酔いじゃないよな、これは。


 胸が締め付けられる。

 ぽっかりと穴が空いたみたいだ。

 隣が決定的に足りない。

 たった一日だというのに。

 あの笑顔が恋しくて、懐かしくて仕方ない。


 首を振った。

 つらい気持ちを振り切って、俺は聖鍵をミラーボール前の台座スリットに差し込む。


 マザーシップの情報管制システムは、ルナベースに直結している。

 アースフィアすべての情報を保存するには、容量が足りないからだ。

 どういう目的なのかは不明だが、観測した情報のすべてを月のデータベースに蓄積しているらしい。

 聖鍵にはマニュアルがインストールされていたが、搭載されている情報検索能力がデフォルトだとオフラインになっている。


 この設定を変更する。


 ルナベースに蓄積された情報をすべて取り込むのは自殺行為だ。

 俺の脳が焼き切れる。

 だから、必要に応じて情報を検索し、調査可能なように聖鍵を超次元ネットワークに接続する。

 これによって聖鍵は本来のスペックを獲得できるのだ。


 アースフィアについて気になったことを、ルナベースに蓄えられた情報の宝庫から調べることができる。

 マザーシップ中枢をサーバーとして経由して。 

 つまり、アースフィアについてキーワード検索をかけることができるようになるのだ。


 リオミから基礎的な知識はある程度教えてもらった。

 あとはそれを取っ掛かりに、自力で調べることにする。

 まずは、魔王がいなくなったあとのアースフィアについて情報を集めなくてはならない。


 ――調査ドローンをアースフィア全土に派遣。魔物に関する情報を調査、報告せよ。


 マザーシップによる観測だけではなく、実際にドローンを派遣して生で見た情報も加える。

 早速報告されてくるデータを吟味し、目を通していく。

 この作業に没頭すれば、すべて忘れられる気がして、夢中になって情報を集めた。


 親父が言っていたことを思い出していた。

 仕事をしている間は、嫌なことを忘れられると。


 信じていなかった。

 仕事なんて、つまらないものだと。

 働かないことが至高なのだと。


 親父の言葉はこういうことだったんだと実感しながら、自分を情報のプールに埋没させていく。

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