散歩
お嬢様に呼ばれた理由は散歩の護衛だった。
俺はここのところマナー講座で忙しかったのだが、そろそろ仕事をさせようという事で話がついたらしい。
まだ社交界の場に出せるほどの物ではないが、一般市民の前に出すくらいなら十分だろうとの事だ。
「それで、本日はどちらへ」
「ふむ、商業区画にでも行ってみるか。
掘り出し物でも見つかるかもしれんぞ」
「なるほど、胸の成長を促進させる薬があればすぐに購入してまいります」
「貴様!
……頼むぞ」
先輩の言葉にひやりとしたが、実のところ結構気にしているらしいお嬢様は小声でそう言ってのけた。
目をそらしている辺りが非常に可愛らしい。
「商業区画か……なんか数日なのに久しぶりです」
先日ナイフをもらった鍛冶屋もここにあるが、埃と煤が舞い散る環境にお嬢様を案内するのははばかられる。
「サツキ、道を知っているなら案内せよ」
「かしこまりました、ではお目当ての物はなんでしょうか」
「ふむ、では甘い物が食べたい」
甘い物、甘味か。
いろいろ食べ歩きしていたからそれなりに知っているし、行きつけの店もある。
だけどそれは、武骨な冒険者御用達の店ばかりだ。
はっきり言って華奢なお嬢様を連れていくような場所じゃない。
「んー」
「どうした、あぁそうか。
サツキは単独活動していたんだな。
なるほどなるほど、一人ぼっちか。
それはすまなんだ、一緒に食事に行く相手もいないとは」
「あーうん、まあそうですね。
いきなり初心者狩の阿呆共八割殺しにして、ドラゴン殺しがとどめになって誰もかかわろうとしなくなってましたからね。
酒場とか俺が入ると一瞬静かになるんですよ」
「え……? 」
苦い記憶である。
若さゆえの過ちとでも言おうか、調子に乗った結果ボッチになってしまった。
笑えない。
「とはいえ食事は重要でしたからね。
質より量の店は結構周っているんですが、お嬢様の口に合うような物があるかどうか」
「そ、そうなのか」
「お嬢様を食べてしまいたいと思うのですが、さすがにそれは控えるとして」
「おい」
おっと食欲ではない何かが漏れ出してしまった。
まあそれはおいておこう。
「あぁそうだ、一軒いい店があります。
以前一緒に討伐に出た冒険者の女性が教えてくれた店なんですよ」
「ほ、ほほう?
つまりなんだ?
昔の女から教わった店に他の女を連れていくと? 」
「その女性とは何もありませんでしたよ。
お嬢様が想像しているような×××や○○○や△△△なんてことは」
「きっ、貴様! 」
「お嬢様としてみたいという気はしますが……これ以上は先輩に殺されそうなんでやめておきましょう」
今はお嬢様よりも俺の背後でナイフを構えている先輩の方が怖い。
無言で瞳孔が開いている人間に刃物を持たせたのは誰なんだ。
「でもまあ、本当にその女性とは何もありませんでしたよ。
女性というか……女の子ですね。
たしか11歳とか言ってましたよ」
「11歳……女の子……まさかコッペリア・サーティの事か」
「あーなんかそんな名前でしたね。
面倒くさいんでリアって呼んでましたけど」
「世界最高峰にして最年少の魔法使いだぞ……」
「らしいですね」
コッペリアはドラゴンの素材を高値で譲ってほしいと纏わりついてきたことが理由でちょいちょい討伐の依頼に同行してもらったりしてた。
ただ戦闘中に名前をかみそうになったため、リアと呼んでいたので別に親しさゆえの愛称とかではない。
ついでにあの爆裂少女にかかわらないで済むというのは相応に幸せなことだと、パーティを解散してから思った俺はソロプレイにこだわるようになった。
「まったく、他にはどんな奴とつるんでいたのだ。
そのおすすめの店とやらで教えよ」
「仰せのままに」




