就職
「執事……? 」
「しょ……そうだ! 」
さっきから噛みまくりなこの生き物どうしよう、持ち帰りたい。
とかいう邪念はおいておこう。
下手なことをすればこの子のお父さんにぶち殺されてしまう。
「詳しく説明をお願いします」
お父さんの方に向きなおって確認する。
お嬢さんは説明が下手だった記憶がある。
更に今の動揺しきった状態じゃ……まあどうなるかは目に見えている。
「実は娘が君のことをえらく気にいってしまってなぁ」
「ちちちちちちちがう! 」
「ひとまず落ち着け、そしてだまっとれい。
それで他の馬の骨に取られるようなことは嫌だと一晩中、無い頭で考えたらしくてここ最近熱を出したりもしていた」
あれ? この人ただの親バカかと思いきや結構酷い人だ。
腹芸は苦手なんだがどうしたらいいんだろう。
「それで、執事として囲い込んで自分専属にしてしまえばいいと考えたみたいでな。
浅はかなうえに暴論で筋が通っておらず非常識も甚だしい、そう一蹴しようとも思ったのだが、君の意見を聞いてみたくってな」
「執事……となると冒険者行は辞めなければいけませんよね」
「いや、休みにちょいとやるくらいならいいんじゃないかと思っているが」
良いんだ、結構命がけなうえにめんどくさい事になる場合も、数日間どころか数か月帰ってこれないこともあるのに。
「……給金は」
「月々40万G出そう」
40万G、日本と貨幣価値がほぼ同じこの世界では、当然だが40万というのは大金だ。
初任給がそれというのは、安定しているというレベルではないだろう。
もしブラックだったら逃げ出せばいいし……でもなんかな。
「三食昼寝おやつ娘付きだ」
「それ婿を取るといいませんか」
「娘は嫁にやらん!
だが君が婿としてくるなら、腹は立つが拒むことはない」
それでいいのか貴族、政略結婚の道具にするつもりはないらしいけれど貴族らしさは皆無だね。
「年に二回、特別な給与をだす。
夏と冬に1回ずつだ。
その時は通常の給料の倍額を払おう。
また年末年始は休暇を与える。
どうだ」
「……いいでしょう。
金には困っていませんが、安定性という面では執事と冒険者ではくらべものにもならないでしょう」
なんかこの際だから受ける事にした。
冒険者は面白いんだけど、むちゃくちゃ目立つんだよ。
もともとの性格と、今までの生活から目立つのは嫌だったんだが、執事なら問題ないだろう。
それに、いい思い出ではないが地球にいたころに学んだことも役に立つだろうし。
「そうかそうか、では詳しい説明は明後日に行おう。
今日はうちに泊まって、明日は準備をするといい。
……おぉしまったなんてことだうっかり、そううっかり客間の清掃をおろそかにしてしまっていた。
というわけで娘と同じ部屋に泊まりなさい。
あそこのシングはでかいから二人で寝るくらい度ってことないだろう」
「宿に帰らせていただきます」
この人は何を考えているのだろう。
娘に俺をあてがいたいのか、それともあてがいたくないのか……。
たぶん娘と俺で遊びたいんだろうな。
悪い人というか、人が悪い。
「不潔にょ! 」
お嬢さんはまた噛んでるし、なんかもう、撫でまわしたいな。
よく見るとお父さんもにやにやしている……そうかこの姿が見たいのか。
「客間があいていないならお暇しますよ。
お嬢さんに手を出す機会は、また今度という事で」
俺の言葉にお嬢さんが顔を真っ赤にしている。
挙句、金魚のように口をパクパクと動かしているがなんて言っていいのかわからないのだろう。
お父さんはこっそり親指を天に向けて立てていたので同じポーズを返しておいた。