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屋敷

 街にたどり着いて、倒れた通行人に目を向けながらも屋敷へ戻る。

 そこで思い出した。

 完全に封鎖させているから入れない。

 ついでにパピヨンドラクルの毒鱗粉が完全に消えたわけじゃないので今開けたら被害者が増える。


 そこで、一つ裏技を行使する。


「風雲豪雨! 」


 以前コッペリアから聞いた魔法だ。

 上空にある雲を、風魔法で集めて巨大化させる。

 そして水魔法と炎魔法の同時行使で大量の水蒸気を発生させて、更に雲を肥大化。

 それをひたすら繰り返して、無理やり雨を降らせるという魔法だ。

 ただし3属性同時行使に加えて非常に魔力を使う。

 それに加えて雨の規模も大したことがないため、有用性は低い魔法だ。


「う……ぐ……」


 内蔵魔力の8割を使い切ったところでぽつぽつと雨が降り出した。

 これ以上は持たないと思っていたところだったから助かった。


「あーだるい」


 魔力の減少に加えて毒もまわっていたのかもしれない。

 体が重すぎてその場にへたり込んでしまった。

 けれど、目の届く範囲にいる人々は次々と意識を取り戻しているようだ。

 このまましばらくすれば、毒鱗粉は全て分解されてしまうだろう。


「……あいつはいったいなんだったんだ」


 声に出しながら先ほどのことを思い出す。


「黒いコート……いやローブか。

声は中世的だったな……体格はわからんが小柄だったか。

あの剣は……たぶん店売りの安物だろう。

あれだけのパピヨンドラゴン……どっから集めてきたんだ。

そもそも一体で十分この街に毒はばらまけただろうに。

それにあの爆発……パピヨンドラゴンの山が爆発したようだった。

俺の魔法はただ燃やすだけだが……粉じん爆発?

いやだけどな……」


 頭の中で悶々とくりかえし、そして仮定にたどり着く。

 だがあくまで仮説で、その証拠はない。


「くっそ」


 少し体が動くようになったので立ち上がる。

 どうやら毒鱗粉もほとんどなくなったらしい。

 これならもう大丈夫だろう。

 そう考えて屋敷の屋根に飛び上がり、煙突に飛び込む。

 暖炉の火がまだ見えたので途中でブレーキをかけて、あぶられないうちに室内に入る。

 絨毯を濡らさないように気を付けつつ、食堂の扉を内側からノックした。


「もう大丈夫ですので開けてください」


 そう声をかけるとすぐに扉は開かれた。

 そこにはまだ顔色は悪いものの、しっかりと二本の足で立っているお嬢様と先輩がいた。


「ただ今戻りましたお嬢様。

護衛お疲れ様です先輩」


「サツキ、説明を……いえ、これからお父様の元へ行きます。

すぐに風呂で体を清めて着替えてきなさい。

それとランディス、貴方は今日は休んでいいわ。

ねていなさい」


「かしこまりました」

「お心遣い、痛み入ります」


 お嬢様に声をかけられた先輩もといランディスさんは一礼して立ち去った。

 俺はメイドさんたちに連れられて風呂に。

 服は土や雨水、パピヨンドラクルの血肉でボロボロになっていた上に、謎の襲撃者の一撃で襟元が切れていたので廃棄することになった。


「お待たせしました」


 風呂は早めに切り上げて、お嬢様の部屋に向かう。

 そこでは化粧を済ませたお嬢様がベッドに座っていた。


「では、お父様がお待ちです。

行きましょうサツキ」 


 普段のお嬢様とは違って凛とした表情だ。

 頭にはドラゴンの鱗でできた髪飾りがついている。

 少しふらついているのをごまかすためだろう。

 右手を差し出してきたので、その手を取って歩く。

 そして、お嬢様の親父さんこと旦那様の部屋の前に着いた。

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