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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

女神なシルエット

 疲れた。

 

 クーラーの効きすぎた電車内はガラガラで、この車両には俺を含めても五人しか乗っていない。平日の朝10時なのだ、当然である。

 夜勤だから涼しいだろうと高をくくっていたが、工場内は明け方近くになっても茹だる様な暑さだった。ダラダラと汗が出て続けて、作業着はバケツの水を被ったかのようにビショビショになった。

 500mLのペットボトルを五本も空にしたのだから、この喩えもあながち間違ってはいないのではなかろうか。


 ヘトヘトになりながらも何とか今日も仕事を終えた俺は、朝から既にカンカン照りの日差しの中を駅まで歩き、ようやく涼しい車内に転がり込んだ。

 しかし、電車に乗るのはたったの二駅のみだ。そこからアパートまで20分は歩くことになる。まあ、あまり長時間電車に乗っていたりしたら、肌に張り付くびしょ濡れのTシャツが冷え切ってしまい腹を壊してしまうだろう。さっさと部屋に帰ってシャワーを浴びよう。それまでの我慢だ。


 5分もあれば二駅分など過ぎてしまう。最近になってようやく聞きなれてきた駅名がアナウンスされた。やはり冷房に後ろ髪引かれる気分は払拭仕切れなかったが、席を立ってドアの前まで進む。


 ドアが開く。

 意外と暑くないな。と首を捻りながら外へと一歩踏み出すが、途端に襲ってくる暑さとセミの大合唱に圧倒されて回れ右したくて堪らなくなる。あまりの蒸し暑さに、一瞬呼吸困難に陥ったのではと錯覚したほどだ。


 げんなりしながらも日陰を求めてホームの反対側まで歩いて、そこから跨線橋を目指した。


 エスカレータに乗って一息つく。

 ふと前を見ると、5段ほど前に薄手のロングスカートの女性が立っていた。淡いブラウンのスカートと白のブラウスが清楚で大人しめな印象で、ポニーテールのうなじが妙に色っぽい。

 肩幅が狭い小柄な女性だが、何よりも、くびれたウエストと丸みを帯びたヒップへのラインが絶妙で……実にエロい。一体何人の男達がこの曲線美の虜になったことだろう。

 

 ああ……普段からエロいことばかり考えているが、今日は特に酷いな。仕事の後でも徹夜のハイテンションになるのだなぁ。


 などと考えつつも視線は背中やお尻の辺りをさまようのであった。

 なんて残念な俺。でもいいのだ。誰かに迷惑をかけるわけでもないし。バレなければ彼女も深いには思わない。

 ブラの紐やショーツの後が見えないかな……と、それとなく、だが嘗め回すように視姦するも、全く見ることは叶わなかった。


 エスカレーターも終わりが近づき、彼女が上階に達した正にその時、正面から強烈な陽光が差し込んできた。

 眩しさに目を細める。

 彼女は薄暗いシルエットになっていた。


 華奢な肩も、くびれた腰も、プリッとした尻も……そして、そこから見えるスラリと伸びた二本の足も。


 一瞬の事だった。


 感動した。


 目に焼きついて離れない。


 下着のラインも映さない。ゆったりとしたスカートは完全に透過し、彼女の体の全ての曲線が浮き彫りになった。


 もはやエロスとかいう次元ではない。


 『美』そのものを見た気がした。


 余韻に浸る間も無く、現実に引き戻される。

 エスカレーターが床に滑り込んで、俺は躓きながらも体制を立て直して何事も無かったかのように歩き出した。


 前を歩く彼女。

 地上に降り立った美の女神なのではと、柄にも無く下らない想像を働かせてみれば、出てくるのは自嘲気味なひねくれた笑みのみだ。勿論、そんな誰かに見られたら変質者扱いされそうな表情は直ぐに引っ込める。

 改札を抜ければもう彼女との接点はないだろう。

 しかし、ここで声を掛けられるほど社交的……というか軟派な性格ではない。第一、なんと声を掛けろというのだろう。腰も、尻も、足も、どれを褒めても喜ばれる状況ではないし、ロングスカートの彼女の足を知っているとか完全に覗きみた申告だ。かといって現状、外見以外に褒められるところはしらない。

 まあ、知っていたところで声を掛けられるかどうかとは別問題だが。


 とりあえずオカズにでもするか……と、結局エロスに繋げてしまえる自分に落胆しながら、彼女については忘れることにする。

 ただ、いいもの見たとだけ覚えておけばそれでいい。



 しかし、目の前の彼女は不意に立ち止まる。



 なぜか俺も釣られて立ち止まってしまった。

 なんだ。どうした。

 視線がばれたなどということは無いはずだ。もしそうなら、彼女は後ろに目が付いている。

 気が動転して変なことに思考が流れていく。

 とにかく落ち着け。

 別になんてことはない。

 そう、ちょっと張り紙が気になったとか、次の電車の時間を確認しているとか、そんなことに決まっている。





 クルリと、彼女は振り返った。

 纏めた髪が、薄いロングスカートはフワリと揺れる。

 時間がスローモーションに感じた。

 予想外の出来事に混乱する。あるいは、あまりの衝撃に思考停止しているのかも知れない。ああ、頭の中が真っ白だ。


 彼女は歩き、そして俺の直ぐ横を通り過ぎていった。

 すれ違いざまに、女性特有の香りが漂ってきた。







 だがしかし、俺は知ってしまった。

 知らなくていいこともあると。






 まあ、あれだ。女神なんていなかった。

 そういうことだ。 

 睡眠時間削って……なにやってんだろ。

 せめてもう少し、笑える落ちを用意してから書けっての。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あるあるwwww
[良い点] 一番笑ったのは「この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。 」ってとこ。 [一言] 確かに落ちは難しいですね。 自分ならどうするか考えて、結局答が出ませんでした。
[一言] ミロのビーナスの顔が喪黒福三でした? かな? 楽しませていただきました。
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