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第一話

気分転換に考えたプロットから作成。

ちょっとテンプレを意識してみたり。




 時は十五世紀。西洋。


 星明かりひとつない闇こそが夜を支配していたこの時代は、間違いなく彼らの天下であった。




 吸血鬼。



 夜の闇に潜み人間の生き血を求め、人々を恐怖に陥れる存在。


 無双の怪力をもち、身体を霧に変え、蝙蝠を従えて自在に空を飛ぶ、不死身の怪物。



 しかし人間も手をこまねいてはいない。


 聖水。白木の杭。十字架……いにしえより研鑽を重ね、知識と技術を伝えつづけた先に、不死者を殺す矛盾を御する術を身につけた。



 連綿とつづく戦いの中、ある吸血鬼は傲慢にのたまう。


「高貴なる我々こそがこの世を支配する者」

「人間など我々の家畜に過ぎない」

「我らは永遠の存在。儚き人間は大人しく地面を這えばよい」



 対する人間は吠えて叫ぶ。


「偉大なる主に導かれし我らこそ万物の長」

「世の理から外れし怪物に居場所などあるものか」

「貴様らの全てを灰燼に帰し、この世を正しき形へと変えるのだ」




 古城の中で。

 片田舎の村落で。

 都市の路地裏で。


 互いに互いを憎み怨み嫌悪し、終わり無き戦いに明け暮れた――――




     ※



 そんな時代から、飛んで現代。


 既に科学全盛。あらゆる闇は薄まり人間様の天下となって久しく、怪異怪物は殲滅し尽くされ伝説と伝承の中だけの存在と化した。……表向きは。



 そう、怪物のしぶとさを舐めてはいけない。何事にも例外というのはあるもので、どっこい彼らは生き延びていた。


 勿論、この現代日本にも――――



      ※




「ぶぇ……っくしゃいっ!」



 えらく大きなくしゃみが出た。飛んだ唾が冷えたアスファルトに落ちて小さな染みをつくる。



「うわ汚っ! 鼻水飛んだよいま!?」



 跳びすさる隣人に「すまん」と謝罪しつつ、ポケットティッシュ取り出し鼻をぬぐう。


 もう少し厚着してくればよかったかな。昼と夜で寒暖の差が激しいと服装の選定が難しい。



「あー……やべぇな。風邪か?」



 特に熱っぽくもないし、喉も頭も痛くはないが言ってみる。ちなみにだるそうに構えているのは平常時からだから心配無用だ。



「どっかで妙な噂でもされてるんでしょ」


「そうか? そりゃ参ったな」



 ヒトに噂されるほど、目立つ生き方はしてないつもりなんだが。


 ここはひとつ、リョウゴサンカッコイー、とか噂されてるということにして良い気分になっておこう。うん。その方が楽しいからな。



「馬鹿臭いこと考えてるのが丸分かりだけどツッこまないよ私は」


「うわー、二重に冷たい」



 連れ立って道をゆく隣人が薄情で困る。せめて体を労る心配ぐらいしてくれれば可愛げがあるものを。



「アカバに限っては必要ないでしょ? そうそう死なない体で、風邪なんて引くわけないじゃん」


「それでも気遣ってもらえたら嬉しいのが人情ってやつじゃねぇかよ」



 こんな冬の寒空のもと、心遣いというぬくもりを求めるのが間違いだとは言わせない。

 しかし隣人はやや呆れながらも、笑みを浮かべて言った。



「人情を語る吸血鬼(・・・)なんて、多分アンタぐらいだよ」



 そう言われると返す言葉がない。釈然としないものがないでもないが、正論だしな。


 まぁ。とりあえず、楽しい気分にはなれたようなので良しとしておこう。




     ※



 かつての夜の支配者たちも、時代の流れには逆らえない。

 数百年と戦い続け徐々にその数を減らす同族と、勢力を拡大する人間に危機感を覚えた彼等は決断を下し、いくつかの陣営に別れた。



 これまで通り戦い続ける武闘派、人間社会に溶け込み適応して生きていこうとする穏健派、俗世とかかわりを絶つ生活を選んだ厭世派……。


 武闘派の吸血鬼たちがその後、どんな運命をたどったかは歴史から推して知ることができるだろう。いかに人外の身なれども、数の暴力には勝てる筈もなく衰退していった。


 そのほかの派閥は滅亡の道こそまぬがれたが、人間社会で生き残る適者生存を繰り返すうち、その数とチカラを大きく失うこととなった。強すぎる人外としてのチカラは人間にまぎれて生活するには不要であり、むしろ悪目立ちは身の危険を招いたからだ。

 穏健なれど強力な吸血鬼が刈り取られ、脆弱な吸血鬼が生き延びたのはなんとも皮肉な話である。



 彼はそんな系譜の末端。現代を生きる若き怪物のひとり。


 茜羽(アカネバ) 涼吾(リョウゴ)

 通称・アカバ。


 公立普通科高校に通う、十六歳の一年生である。



     ※



「しっかし常々思うけど、アカバが吸血鬼ってのは本当に理不尽だよね」



 学校終わりの帰り道。共に歩く涼吾の正体を知る数少ない人間のひとり、クラスメートの女子高生・如月(キサラギ) 和紗(カズサ)は至極残念そうに語る。



「空も飛べない、霧にもなれない、蝙蝠も操れなければ不老なわけでもない。おまけに肝心な吸血衝動も特にないとか、もう吸血鬼のアイデンティティもなにもないじゃん」


「そーいわれてもなぁ……」



 生態的にそうなってしまっている以上、そこをつっこまれてもどうしようもない。



 吸血鬼のみならず怪物とよばれる類の連中は、同族でも個体による能力の差が激しい。千差万別の異能をもつ個体を生み出し、短期間であらゆる環境に適応することができる強みがあるといえる。それこそ最盛期には創作に出てくるような不死身の吸血鬼もいただろう。


 だが人間社会に溶け込むことを選んだ涼吾の先祖たちは、まったく別の進化の道をたどった。



 それは、“弱くなる”こと。



 吸血鬼としてのチカラを極力抑え、より人間に近づくことで生存の方法を模索したのだ。



 異能のチカラを封じ、不自然に見えない程度に老いるよう個体の寿命を縮めた。世代交代のサイクルを早めた代わりに生殖能力を底上げし、日光への耐性すら身につけた。


 いまや残っているチカラといえば、人間よりやや上位の身体能力と高い生命力、それと吸血能力ぐらいだ。



「血なんぞ吸うより、白飯のほうが美味いしなぁ」



 血を吸うからこその吸血鬼なのだろうが、これも適応を進めた結果だ。血液だけでなく、様々な食物からエネルギーを得られたほうが良いに決まっている。現在では最悪の場合、血液だけでも摂取すれば充分に生命活動を維持できる――――という程度な認識の能力になってしまっている。



(コレ)もけっこう長くなってきたけど、使う機会ねーもんな」



 成長とともに発達していく、吸血鬼の誇りとさえ言われる牙。種族的なシンボルでもあるが、涼吾の口元には一見してその形跡はない。

 正体の隠蔽と普通の食事に際してはむしろ邪魔になるため、自由に伸び縮みさせることが可能になったのだ。


 現状、涼吾の外見は中肉中背黒髪のざんばら頭と、普遍的な日本人の高校生男子像そのまんまである。



「つーか食べ物の話してたら腹減ってきた。ラーメン屋行かない? 餃子食べたい」



 かつては闇夜の貴族とまで称された種族とは思えないほどの庶民的オーラの塊な男だ。



「もう吸血鬼やめちゃいなさいよアンタ……」



 ニンニクも特に忌避することなく食す涼吾に疲れた様子で物申す和紗。しかし提案自体に反対する気はないようで。



「……行くなら黒星庵にしよ。ゴマ味噌らーめんが食べたいから」


「あー、アレ美味いよなー」



 このノリの良さが涼吾の正体を知りながらも友人をやれている一因であることは、まず間違いなかった。





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