風と水は相容れず
もちろん、反対されるか何かしらの厳しい条件を出されるとは思ったが…
「サーファスさん?」
隣からのラシュリの声で我に返った。
「レシェナさん、って第二王女さまですよね…?」
「えぇ。今からでも行ってみるといいわ。案内してあげて。」
女王に言われメイドの1人に促された。その人について行こうとしたところで
「ラシュリちゃんは待ちなさい。」
と、優しいながらも有無を言わせない声色が響く。
心配そうな顔で立ち止まるラシュリに大丈夫、と口パクで伝え部屋をあとにした。
「お母様、どういうことなの?」
部屋に残されたラシュリは母親に問いかけた。その面持ちは悲痛だったが対する母の顔は優しい笑みのままだった。
「少しだけ、利用することになっちゃってごめんなさい。でも、最後に協力してくれないかしら?レシェナのために。」
ラシュリは複雑そうな表情のあと小さくうなづいた。
その頃、サーファスはメイドに連れていかれ離れにあるレシェナの研究室に来ていた。
ここは城の本館と離れのあいだにある木が生い茂る森のような所のなかほどにあった。
外見は可愛い一軒家。二階建ての建物だった。
メイドは扉の前まで案内すると戻ってしまった。つまり、ここにいるのはサーファスだけだ。
「よしっ!」
気合を入れなおすと扉をノックした、が反応はない。聞こえなかったのかと思いもう一回強くノックするがやはり反応はなかった。
「いないのか?」
と扉に手をかけると
「うわっ」
ドアノブがあるのに押扉だったそれは簡単に開いたのだった。
「誰?今忙しいんだけど…」
部屋にはさまざま本や設計図やどこともわからない記号のような文字の書かれた紙、変な形のモノが散乱したなかに1人の少女がいた。
黄緑色のきらきらと輝く髪を無造作に2つにしばり黙々となにかの作業をしていた。
「今、話できる…わけないよね。」
一瞬殺気を感じてとどまった。
「わかってるじゃない。そこで待ってて。」
そこといって示されたのは唯一の安全地帯であろうソファーとテーブルのある区画だった。
ーはぁ、どうすればいいんだ?
あれから半刻ばかりのときを思考を巡らせつつ過ごしていた。レシェナは相変わらずひたすらなにかを書いていた。そして、動きが止まったかと思うとふいにこちらを振り向いた。レシェナはラシュリよりも女王に似ていて14歳ながらも綺麗な容姿の少女だった。
「で、どちらさま?使用人ではないみたいだし…ていうかその髪、ウォンティア?」
ぱっと見てそこまで推理され、たじろく。
「まぁいいわ。初めまして、ウィンディアの第二王女レシェナよ。」
「あ、ウォンティアの近衛隊副隊長で第一王子のサーファスだ。」
レシェナは王子ということに驚くこともなくそっけなくふぅん、と反応しただけだった。にしても、真っ直ぐ見られると逆に話しづらい…
「そう、サーファスね。あたしのことはレシェナでいいわ。それでご用件は?」
淡々と話すレシェナに置いていかれていたがここに来た目的を思い出す。
「君のお姉さん、ラシュリと俺を結婚させてほしい。」
たっぷりと数秒たってレシェナが笑顔で返した一言は
「やだ。」
だった。