お茶会の次に出会うのは
翡翠色の髪の彼女を見たとき、時間が止まったようだった。
「誰か、いるの…?」
動けなくなっていたサーファスの耳に届いたのは澄んだソプラノの声。距離はあるが、相手は風の妖精。気配には鋭い。
「もしかして、レシェ?ふざけてるならでてきなさい?」
そう言ってクスクスと小さく笑った。
ーなんか、出ていきづらい…
とは思っても出ていかないわけにもいかず、意を決して足を進めた。
「あら…?レシェじゃなかったの…。こんにちは」
ちょっと驚いたようだがさして気にした様子もなくにこやかにあいさつをされた。
「こんにちは。」
緊張して頭が真っ白。かろうじて乾いた口からあいさつが出た。
「綺麗な髪ですね。その色、そういえばウォンティアの方々の訪問は今日からでしたっけ…」
すこし、かんがえた仕草のあとこちらに向き治った。
「すみません、人違いをしてしまって…。ラシュリと申します。はじめまして」
彼女をぼーっと見つめていたがサーファスも我に返った。
「ウォンティアからきました、サーファスです。」
慌てて返事を返した。
「もしよかったら、一緒にお茶でもしませんか?」
そういったラシュリの言葉に甘えて、ラシュリの座る席の向かい側に座り紅茶をいただいていた。
「美味しいです。」
出された紅茶はほんのりと甘く、飲むのは初めてだったがとても美味しい。
「お口にあってよかったです。実はこの紅茶、このお庭で栽培しているんです。」
栽培、さすがはウィンディアだな…
「ごちそうさまでした。」
紅茶やお菓子として置いてあったクッキーやミニケーキなどを食べ終わるとある程度打ち解けていた。
「一緒にお茶できて楽しかったです。1人でするお茶より何倍も…」
にっこり笑顔になるラシュリにサーファスも笑顔を返した。
「では、そろそろ失礼させていただきます。また、どこかで。」
席を立ちながらサーファスはそういった。
「えぇ、しばらくこちらに滞在されるのですよね?私、よくここでお茶をしているの。よかったら、また来てください。」
「必ず。」
こうして2人は別れ、次に会うのはまたこの場所のはずだった。…そうはずだったのだ。
ーときは過ぎ黄昏時
「では、よろしくお願いします。」
ウィンディアのメイドに案内され連れてこられたのはホールへと続く扉の前。会場のなかでは、既にウィンディアの貴族たちが会話を弾ませているのだろう。
歓迎会、ということで今晩行われるのはウィンディア王家主催のパーティーだった。
サーファスも今回は王子として青を基調とした衣装を身に付けていた。ウィンディアの王家の方々、つまり女王と2人の王女はきっともう会場だろう。
「えっ?本当ですか!?」
「えぇ、今日は大切なパーティーだと言ったのに…」
あたりのメイドたちが急に騒がしくなった。どうやらなにか問題があったようだが…
「本当に申し訳ありません。」
「一体、どうしたのだ?」
王のもとに駆けつけ、謝罪をしたのはウィンディアの外交大臣だった。
「本日はウォンティアの王、第一王子さまの歓迎会にウィンディアの王家、皆で参加する予定だったのですが、第二王女さまがその…」
「魔法研究に熱中しすぎて部屋から出てこなくなったか。」
口ごもった外交大臣のあとに続けたのは父上、王だった。その答えが正解だったのだろう、外交大臣は口をポカンと開いていた。
「女王が言っていたよ、妹姫さまは先王によく似ていると…」
その言葉の意味はいまいちわからないが父上がウィンディアの先王と仲がよかったことは母上やウォンティアの大臣たちから聞いたことがある。きっと父上のいうことは本当なのだろう。
「ということは今から会えるのは姉姫さまか…懐かしいな。」
父上が嬉しそうに笑ったので大臣はほっとしたようだった。
姉姫さまか、最後に会ったのは5歳のとき。まだ彼女は2歳だった。おぼろげな記憶を頼りに想像した彼女の姿はなぜか、庭で会った彼女、ラシュリだった。
そう、だってそれが正解なのだから。
扉の先、ウィンディアの王族の席に女王とともに座っていたのはラシュリだった。
ー俺が恋した天使は隣国のお姫様だった。